二少女/国木田独歩=昔の女性のお給料が安すぎる件、女性の友情の難しい件、他。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

二少女-国木田独歩-イメージ

今回は『二少女/国木田独歩』です。

文字数9000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約31分。

生活に困窮する少女と彼女を気遣う少女の
日常の一コマが淡々と綴られた短編小説。

昔の女性のお給料が安すぎる件、意地悪婆さんがひどい件、
悪い噂はイヤな件、女性の友情の難しい件、他。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

田川たがわとみは仕事帰り、江藤えとうひでの家を訪れた。ふたりは東京電話交換局の職員で、それぞれ18、19と歳も近く、仲のいい同僚同士だ。

お秀はもう5週間も仕事を欠勤していた。職場では「田川さんは妾になった」という噂が立っていた。お富は、上司に伝言を頼まれたということもあるが、ある程度事情を知っているだけに、純粋に心配する気持ちが強かった。

お秀は快くお富を家に迎え入れた。お秀は熱を出した弟の世話をしながら、針仕事をしていた。部屋の様子からはその貧しい暮らしぶりが容易にわかる。

お秀の両親は半年のうちに立て続けに亡くなった。以来ひとりの祖母は親戚の家が引き受けることとなり、まだ15歳の妹は奉公に出て、お秀自身は弟とふたり粗末な家に暮らし、局の仕事と針仕事を掛け持ちして生計を立てていたのだが、給料は安く生活に困窮していた。

お富がお秀に尋ねると、お秀は妾の噂を一蹴する。しかし――

祖母が熱心にお秀が妾に行くことを勧めてくるという。はっきりとは言わないが、ひとりの男を相手にするだけ芸者なんかに比べればいいでしょうに、と……。

当然お秀は妾にはなりたくない。針仕事に専念すれば――と思い、しばらく局の仕事を休んでいたが、明るい見通しはどうも立ちそうにない。

困り果てた様子のお秀を見たお富は、局の仕事に戻るよう勧めた。が、お秀は仕事に着ていく服をすべて質屋に入れていた。そのことについてお富は「お母さんに相談してみる」と約束する。

帰るお富を見送りに出るお秀。ふたり連れ立って歩いた。途中明日のパンを仕込むいい香りが漂ってきた。お富はそのパン屋でパンを買い求め、「弟にあげて」と言ってそれをお秀に渡した。お富がカラコロ帰ってゆくのを、お秀はじっと見送って立っていた。

狐人的読書感想

二少女-国木田独歩-狐人的読書感想-イメージ

ふむ。自然主義文学の先駆者である国木田独歩さんの書いた、プロレタリア的な、とくにかつての女性の労働事情を思わせるところのある小説です。

お秀さんのお給料は、二年のキャリアで15銭。これがどのくらいのものなのかちょっと気になりました。

『二少女』の初出は明治31年、現在の物価は明治30年頃の約3800倍(つまり現在の3800円=当時の1円)、――とかいってみてもよくわかりません。

なので、その頃は小学校の先生や警察官の初任給が8~9円、ベテランの大工や工場技術者で20円ほど。とすると、1円を現在の2万円くらいの価値と仮定できて、1銭はおよそ200円。

つまり15銭は3000円くらい。

明治30年頃の「米10kg」が1円12銭、明治37年頃の「うどん・そば」が2銭――15銭では米10kgも買えず、うどん・そばなら7食しか食べられなかったと考えてみると、たしかに15銭のお給料は安すぎるように思えます。

(ちなみに、明治35年頃のカレーライスは5~7銭、明治34年頃のビール大瓶は19銭、明治38年頃のあんパンは1銭、だったのだとか)

国木田独歩さんは理想主義者であり、また男尊女卑的なひとであったともいわれていて、偏った見方はよくないのですが、この作品がどういった傾向のものなのか、読み解くのにちょっと迷いました(理想主義なら女性の労働について物申していて、男尊女卑ならとくにそんな意図はなかった?)。

ただ狐人的には、やはりこれも自然主義文学の傾向のある作品だと捉えたのですが、どうでしょうね?

『二少女』には登場人物(お秀とお富の二少女)の心情描写はほとんど描かれておらず、仕事を連続欠勤している仲のいい同僚を訪問する、といった日常の一コマが、淡々と描かれているように見受けられます。

とはいえ、読み手としてはそこからいろいろなことを感じ取れるわけで、以下そういった感じたり共感したりしたこと(それすなわち読書感想)を書き綴っていきます(あえていう必要性……、いわずもがな)。しばしお付き合いいただければ幸いです。

まず「昔のひと(とくに女性)は大変だったんだなあ」ということ。こんな言い方をしてしまうとなんだか軽く受けとられてしまうかもしれませんが、真剣です(キリッ、……これがよくないとはわかりつつ、ついついやってしまうという……)。

前述のお給料の話から、女性がひとりで生活していくのは、いまよりも昔のほうがはるかに難しかったのだなあ……、といった印象を受けました。当たり前といえば当たり前のことを書いてしまっているかもしれませんが……。

だけど「昔は大変だったんだよ」的なことをひとに言われても、「いまだって大変だよ」とか思わず心の中で呟いてしまいそうになりませんか?(少し言い換えるならば「これだからゆとり世代は……」、「こっちだって大変なんだよ」、みたいな。こんなこと思うのはひねくれものの僕だけ?)

それがよほど鮮烈な体験であって、ストーリーテリングが真に迫る優れた語りでないと、なかなか昔のことについては実感しにくいように思います(身近な人の苦労話とか)。

その点、読書は実感を得やすく、ひとつ本を読むことの利点だと感じました(いまさらかもしれませんが)。

まあ、聴く姿勢、読む姿勢の出来上がっているのかどうか、といった問題もあるのかもしれませんが、優れた文学作品を読むことの意義みたいなものをここに感じました、というお話です。

つぎに「お秀さんのお婆さんがひどすぎる」ということ。

会社を無断欠勤しているのはよろしくないとは思うのですが、それでも両親を亡くして以来、お秀さんは東京電話交換局と針仕事をかけもちして、弟妹の面倒をよくみて、とてもがんばっているのにお婆さんの「妾に行け」発言には怒りを覚えてしまいます。

あるいは、これが当たり前だとはいわないまでも、容認されていた時代を思えば、やはり昔は男尊女卑の女性に生きづらい世の中だったのだなあ、ということを実感させられてしまうのです。

もちろんいまでもそういうところはあるのかもしれませんが、しかしながら雇用条件の男女平等、女性主体の職業なども増えている昨今、『二少女』の時代よりはるかに状況は改善されているはずですよね。

以前、太宰治さんの『女神』のときに、人類全体において男性性を決めるY染色体の数が3億年前に比べてずいぶん減っており、このままでは男性はみな滅んでしまって、女性だけの人類社会がやってくる、といったことを書きましたが、いろいろな面で女性の強さを思うにつけて、そんなハーレム社会の訪れはともあれ、女性主体社会の来訪は、あながちない話ではない、というような気がしてしまいます。

それから「ひとの噂」というものについて。

会社で「妾の噂」が立っていることを知っていたお秀さんは、お富さんに向かってこんなことを言っています。

何故なぜ。私は口惜くやしいことよ、よく解りもしないことをも見て来たように言いふらしてさ。」

――この気持ちはすごくよくわかりました。

悪い噂というものは本当にイヤなものです。気にしないようにすればいいだけだとはわかっていても、一度耳に入ればどうしたって気になってしまいます。

挨拶をするように始まってしまう他人の悪い噂を流してしまう行為は、心理学的には仲間をつくる人間の重要な社会機能として捉えられているようです。

しかしながら、その悪い噂によって心を痛めるひとがいる、それによって体調を崩したり、呪いが現実になってしまうようなマイナスプラシーボ効果というものもある。悪い噂は本当によくないです。

しかも悪い噂を言われないようにするのはなかなか難しいことのように思います。せめて悪い噂を言わないような人間になりたいと思いました(思うだけじゃダメなんだよ……、という自己韜晦)。

最後に「女性の友情の難しいところ」についてです。

仕事着を全部質屋に入れてしまい、明日から仕事復帰しても着ていく服のないお秀さんに、お富さんが救いの手を差し伸べようとしたときに言った一言なのですが。

「気にえちゃいけないことよ、あの……」

――というこの前置きの一言、何気ない一言のように思われるかもしれませんが、僕はこの一言に非常に感銘を受けました。

相手のプライドを傷つけないようにという、お富さんの心配りが、この一言には込められていると思うからです。

実際の女性同士の友達関係でも、このように相手のプライドを傷つけないよう気を遣うことって、往々にしてあるのではないでしょうか、などと想像してしまうのですが、どうでしょうね? 逆に男性の友達関係ではどうなのでしょう? ちょっとほかのひとと話してみたくなるところでした。

読書感想まとめ

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  • 昔の女性のお給料が安すぎる件。
  • なので昔の女性は大変だった件。
  • お秀さんのお婆さんがひどい件。
  • 悪い噂は本当にイヤな件。
  • 女性の友情の難しい件。

狐人的読書メモ

――とはいえ気にかけてくれる仲のいい同僚がいるというのはいいものだと思った。大人になっていくにつれて、会社などで友達をつくるのは難しいといった話をよく耳にするが、実際にはどうなのだろう? 仲のいい同僚と仲のいい友達はやっぱり別物?

・『二少女/国木田独歩』の概要

1898年(明治31年)、『国民之友』にて初出。のち第四作品集『潯声』(彩雲閣、1904年――明治40年――)に収録。生活に困窮する少女と彼女を気遣う少女の日常の一コマが淡々と綴られた短編小説。ゆえに思うところの多い作品である。

以上、『二少女/国木田独歩』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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