狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『運動会の風景/葉山嘉樹』です。
葉山嘉樹 さんの『運動会の風景』は文字数1800字ほどの随筆です。お爺さんお父さん息子と繋ぐ三代リレー。役場VS産業組合VS国民学校の対抗リレーでは村長と組合長と校長のデッドヒート! 最近学校の運動会プログラムがおもしろい。明日からまた頑張ろう!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
11月3日は国民運動会の日。蒼く晴れ上がった空。美しい紅葉。
著者はこの日、木曽川の中流にある竜宮岩を訪れていた。そこは万古の流れに洗われ、土を守り、樹木を育てる島である。著者がロッククライミングを楽しんでいると、大きな真っ黒い山蟻が、著者の臍に食いついた。これは堪らぬと、岩を伝って逃げ下った。
別の日、村民運動会が催された。これは各区がチームとなって行われる。お爺さん、お父さん、息子と繋ぐ「三代リレー」。農村独特の増産競技である「肥え担ぎ競走」は、役場VS産業組合VS国民学校の対抗リレーで、肥え(の代わりの清水)を担いだ村長と組合長と校長が、揃ってスタートラインに並ぶ。村長と組合長はさすがに日ごろから慣れている様子。が、校長だって負けていない――デッドヒートを制したのは……。「縄ないリレー」では、縄の規格に物言いがつき、審査が行われた。普段寛容な村民たちも、優勝賞品の酒一升がかかっているとなれば、真剣にならざるを得ない。
爆笑に続く哄笑。晩秋の陽光、澄んだ空気、流れ出る汗。終了後の懇親会では、運動会の話が尽きなかった。明日からまた稲こきが始まり、そしてすぐに麦まきである。こうして農民は、全力を上げて増産にいそしみ、子供と一緒に楽しむのである。
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。葉山嘉樹 さんといえばプロレタリア文学(低賃金・悪条件で働く労働者階級をテーマとした文学作品)で、悲惨な労働者の姿が描かれ、ホラーを思わせるかなり暗めのお話がイメージされますが、今回はほのぼのするような、のどかな農村の運動会の風景が描かれた随筆です。
前回読書感想を書いた葉山嘉樹 さんの『井戸の底に埃の溜つた話』も、プロレタリアが社会批判をするだけでなく、自分たちの力で問題を解決しようとしているような、どこか明るい前向きさが感じられる作品でしたが、『運動会の風景』も、運動会を村人みんなが楽しみ、明日からまた頑張ろう、といった清々しさの感じられる作品です。
(『井戸の底に埃の溜つた話/葉山嘉樹』の読書感想はこちら)
11月3日は、現在では「文化の日」と呼ばれる国民の祝日ですが、かつては明治天皇の誕生日を祝う明治節であるとともに、運動会の日でもあったようですね(現在では10月第2月曜日が「体育の日」なので、そちらのほうが「運動会の日」という認識が強いように思われますが)。ちなみに11月3日は手塚治虫 さんの誕生日であり、また「まんがの日」でもあることを、この度はじめて知りました(勉強になりました)。
鮎釣り、ロッククライミング、運動会――と、アウトドア派だったんですかねえ、葉山嘉樹 さん。作家さんは、とくに運動不足になりがちなイメージがあるので、意識的に運動をされている方も多いのでしょうか?
(釣りといえば―?―『夜釣/泉鏡花』の読書感想はこちら)
村・町・市・県といった地方公共団体による運動会は、いまでも開催されているようですが、現代においてはなかなか肯定的には捉えられていないようですね。ひきこもりがちな僕としても、当然肯定的には見られないわけなのですが。
とはいえ、お話に聞くだけならなんだか楽しそうだなあ……、とは思います。葉山嘉樹 さんの『運動会の風景』はそんなふうに感じさせてくれる作品でした。競技もなかなかおもしろそうですよね、親子による「三代リレー」とか。「肥え担ぎ競走」は本物でやったら大惨事、とはいえ、村長と組合長と校長の競争はちょっと見てみたいようにも思います(誰が勝ったか気になる方はぜひ本文をチェックしてみてください)。「縄ないリレー」の描写から浮かび上がってくる僕のイメージは、とても地味なものなのですが、実際ははたして……、と興味を惹かれてしまいます。
昔の競技なので、イメージしにくいところもありましたが、現代日本の、学校の運動会プログラムも、「これ何の競技?」と思わされる競技名をつけるのが、流行っているように思うのは、僕だけ(おもしろいことはおもしろいのですが……、運動会あるある)? 『進撃の巨人』など漫画やアニメのタイトルをもじるのが主流みたいです。
しかしながら、最近一番衝撃を受けた「運動会の風景」といえば、やはりここ最近連日ニュースになっている森友学園が運営する幼稚園の運動会の風景、ここで行われていた選手宣誓ですかねえ……、一概に良い悪いとは言えないのかもしれませんが、衝撃的ではありますよね。森友学園問題の今日のニュース(2017年3月10日)では、学園側が件の小学校の設置認可申請を取り下げて、理事長は辞任するようですが、こういう不祥事が起こったとき、結局いつも真相は藪の中……、なのですが、今回ははたして……(いわずもがな?)。
(ちなみに『藪の中』の読書感想はこちら)
――問題といえば、運動会にはさまざまな問題があると聞きます。平等教育のため、運動会では順位をつけず、みんなで手をつないでゴールする「手つなぎゴール」問題というのを聞いたことがありますが、これはどうやら噂だけがひとり歩きした都市伝説のようですね。運動能力の近しい者同士が競争するよう配慮しているところはあるそうですが。
(平等を考えた読書感想はこちら)
あとは、場所取りトラブル、校庭に残される空き缶などのゴミ、ずらりと並んだテントなど、いま保護者マナーも問題視されています。フェスか、難民キャンプか!? といった感じですが……、自分の子供が出るときだけ、親もテントから出てきて、あとはまたテントの中……、というのも、たしかにちょっと寂しい光景に映ります。
(モンスターペアレントの読書感想はこちら)
そういえば、組体操も問題になってますよねえ……、たしかに見ているほうはいいですが、やるほうは怖いですよね。怖い思いしてまでやる意味あるのかなあ、みたいな。先生を信用してください、とは言われても、先生は信用していても組体操という競技が信用できないと聞けば、なるほどたしかにそうだよなあ……、と頷かされてしまいます。
……てかほぼ感想書いてない(書いてても浅い)!
まあ、今回は随筆ということもあってか、プロレタリア文学という感じではなく、日記を読んでいる感じでしょうか、エッセイというには個人的な感想が少なめなようにも思い、やはり随筆というのがふさわしいように思います。
昔の、いまよりはゲマインシャフト寄りな古き良き「運動会の風景」を感じられる作品だと思いました。なんだかとってつけたような感想ですが。とはいえ、非常に短い作品でパブリックドメインなので、読んでみて損はないでしょう。そんなわけでぜひに(決して適当に言っているわけではありません)!
読書感想まとめ
11月3日は文化の日、明治天皇の誕生日を祝う明治節、運動会の日、そしてまんがの日。運動不足になりがちな現代、意識的な運動が大事ということは当たり前。実際やるのはめんどくさそうだけど、お話を聞くだけなら楽しそうな村民運動会。デッドヒートを制したのは組合長(ネタバレ御免)! 最近学校の運動会プログラムがおもしろいことに。森友学園問題の真相やいかに!? ――からの運動会問題。古き良き時代を感じました。
狐人的読書メモ
明日からまた頑張ろう!
・『運動会の風景/葉山嘉樹』の概要
日本のプロレタリア文学を先導した作家、葉山嘉樹 さんの随筆。1976年(昭和51年)発行の『葉山嘉樹全集 第六巻』に収録。秋に読みたい作品。
以上、『運動会の風景/葉山嘉樹』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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