狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『まほうやしき/江戸川乱歩』です。
江戸川乱歩 さんの『まほうやしき』は文字数5700字ほどの短編小説です。言わずと知れた江戸川乱歩 さんの少年探偵団シリーズ。あらすじとトリックについて解説。子供の読み物と侮れないおもしろさ。まほうやしきとは? 『名探偵コナン』のBD(DB)バッジとの比較など。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
少年探偵団の井上くん、ノロちゃん、そして井上くんの妹ルミちゃんが、ちんどん屋にさらわれた。三人が連れ込まれたのは、町はずれの森の中にある「まほうやしき」だった。
入口を入ると、中は真っ暗、ぼうっと明るくなった先に、にやにや笑いのちんどん屋が現れるも、その姿は水の揺れるように霞んでいって、黒シャツの悪魔に変わっていく。
急いで入口に向かう三人――しかし扉はびくともせず……。
振り返ると、悪魔の体は、足から溶けるように消えていく。残された首が、ふらふらと空中を漂い、けらけらと笑い出す。
三人は恐ろしさのあまり、声も出せず、身動きもできず――そのとき電灯がついて、辺りが明るくなる。しかし悪魔の姿はどこにもない。先には一枚ガラスの大きなドアが、その向こうに廊下が見える。
三人は、ガラスのドアを開けて、恐る恐る廊下を進んでいく。
開け放たれたままになった二重の木のドアを潜り、明かりのついた小部屋の中に入る――と、そこでドアが閉まる。三人が気づいたときにはもう手遅れ、直後、部屋は大地震のように揺れ始める。
そして世界が反転する。
床は天井に、天井は床に――必死になって床板に這いつくばる三人……、恐ろしい夢でも見ているのだろうか?
ようやく、部屋の揺れが収まると、三人が入ってきたのとは反対側のドアが開き、人の招く声が聞こえる。
その声に誘われるまま、ドアを抜けると、二つの青い玉が光っている。
徐々に明るくなってくる部屋の中にいたのは――一匹の恐ろしいライオンだった。
驚いて、ドアに飛びつく三人――しかし例のごとくドアは開かず、大口を開けて唸るライオン、部屋の隅でうずくまるしかない子供たち……。
「わはははは……」
すると突然、ライオンが人間の声で笑い出す。
ライオンの腹が二つに割れて、中から出てきたのは、悪魔の黒い姿。
どうやら人間がライオンの皮を被っているだけだった様子。
それから三人は二階の一室に閉じ込められた。部屋には大きなベッドと、鉄格子のはまった窓が一つ。
井上くんは、手帳のページを一枚ちぎり、鉛筆で何かを書きつけると、なかにBDバッジを包んで丸める。ノロちゃんが、それを窓の外へ投げた。
翌朝、三人が目を覚ますと、子供のライオンになっていた。寝ている間に、ライオンの毛皮を被せられていたのだった。
それからも……、三人は、悪魔に不思議なものを見せられ続ける。
落とし穴の滑り台、いろいろなロボットの立つ地下室、自分の姿が百にも千にも重なって見える鏡の部屋などなど……。
悪魔に連れ回されて、二階の廊下を歩いていたとき、妙な笑い声が聞こえてくる。声の聞こえてくる部屋に行くと――そこには少年探偵団団長の小林少年の姿があった。
BDバッジの手紙を受け取って、三人を救出に来た小林少年の推理――悪魔の正体、その目的、消えたちんどん屋の謎と反転する部屋の仕組みとは!?
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。
江戸川乱歩 さんの「少年探偵団」といえば、西尾維新 さんの「美少年探偵団」のモチーフとなっている――ということで、その名前だけは知っていたのですが、まさか『まほうやしき』が「少年探偵団シリーズ」だったとは……、いずれ順を追って読もうと思っていたので、タイトルだけで読んでしまったことを後悔……、とはいえ読んでしまった以上は、何か書かなければ――ということで、お付き合いいただけましたら幸いです。
(西尾維新 さんの『美少年探偵団』の読書感想はこちら)
子供の読み物と侮るなかれのおもしろさ
まずは外観的な感想を。
ひらがなが多くて、逆に読みにくかったですねえ。
……とはいえ初出が「たのしい三年生」(ちなみにルミちゃんも小学校三年生)ということで、子供の読み物ということで、こればかりは仕方がないですね(ひらがなばかりは読みにくい――西尾維新 さんつながりで、「伝説シリーズ」の酒々井かんづめを彷彿とさせられてしまいました……、そういうならば「魔法少女」の「魔法」にも通じますねえ)。
子供向けの読み物には、あまり触れずにここまできたのですが、子供向けの読み物には子供向けの読み物のおもしろさがある、と思いました(もっと触れてくればよかったです)。
江戸川乱歩 さんといえば、(まだこれで4冊目なのですが……)『人間椅子』のような耽美主義的なイメージが強かったので、意外な一面を見た心地がしました(読書量の少なさによるものなので、あまり良い感想とはいえないかもしれませんが)。
(江戸川乱歩 さんの耽美主義的な『人間椅子』の読書感想はこちら)
まほうやしきとはマジックハウスのこと
続いて内容について。
『まほうやしき』は、そのまま「マジックハウス」を指しているみたいですね。「ビックリハウス」とも呼ばれて、昔の遊園地にあったそうなのですが、いまでもあるんでしょうか? 「リアル脱出ゲーム」の原型的なものだったんですかねえ……(ひきこもりなので遊園地事情にはとんと疎く……)。
なので、小林少年の解き明かした『まほうやしき』のトリックも、実際にあった「マジックハウス」のものだったのだと、読み取ることできるのですが。
読んでみて、理屈は理解できたのですが、イメージしにくいところは否めませんでした。この点、実物を知っている世代(どの世代?)の方は、より楽しめるのかもしれません。
作中小林少年が、悪魔の正体を指摘する際言っているように、少年探偵団と悪魔の因縁は、前作『黄金の虎』で語られているらしいので、やはり順番に読みたかった……、と再び後悔。
最後、悪魔に勝ったご褒美に、子供のライオンコスプレ衣装を手に入れた少年探偵団ですが、これが活躍する日がくるのでしょうか――シリーズの続きがちょっと気になってしまう部分でした。
……しかしながら、現実的に考えると、子供の誘拐って……、これって結構な事件なのでは――和気藹々なラストでしたが、その後の悪魔の刑事処分を思うと……、とか言っちゃうのは、野暮というものでしょうか(子供向けの読み物を読む資格なし? 「わかってるなら言うなよ」というお話なのですが、ひねくれものゆえあしからず)。
昭和と平成のBDバッジを比較してみる
ちょっと調べてみましたが、「少年探偵団」が当時の子供たちに大人気だった、というのはなんとなくわかる気がしました。
七つ道具、BDバッジ……、少年探偵団ごっことか流行ったんですかねえ……。
BDバッジの「BD」は、おそらく「Boys Detective」だと想像できるわけなのですが、そういえば、『名探偵コナン』でもありますよね、少年探偵団。
『まほうやしき』では、手紙を投げるための重しにするという、なんともアナログな通信手段として利用されていましたが、『コナン』のほう(DBバッジ)ではトランシーバーになっていて、この辺り、時代の変遷を思わされるところでした(とはいえ、バッジを通信に用いる、といった大本の発想は変わっていないわけで、この発想力は素直に凄いと思いました)。
『名探偵コナン』の少年探偵団は、やはり江戸川乱歩 さんの「少年探偵団」と、それから『シャーロック・ホームズ』の「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」をモチーフにしている、ということを今回初めて知ったのですが、であれば、江戸川乱歩 さんの「少年探偵団」も『シャーロック・ホームズ』の「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」をモチーフにしているのか……、だったら「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」のモチーフは……、と遡ってみるとおもしろそうです。
読書感想まとめ
子供向けの読み物――とばかにできない良さがあります。「マジックハウス」を知っていると、トリックを理解しやすいように思いました。昭和と平成の「BDバッジ」を比較すると、技術進歩を実感させられてしまいますが、よく考えてみたら、「通信」という根本の発想に変わりはないんだなあ……、と、江戸川乱歩 さんの発想力の凄さを思わされました。――しかし順番に読みたかった(まだ言う奴)。
狐人的読書メモ
※以下、悪魔の正体とまほうやしきのトリックに触れているので、本作未読の方はご注意ください。
・『まほうやしき/江戸川乱歩』の概要
1957年(昭和32年)「たのしい三年生」初出。「少年探偵団シリーズ」第20作目。
・悪魔の正体と目的
魔法博士だった。
目的は『黄金の虎』事件で少年探偵団に敗れたことへの意趣返し。
・消えたちんどん屋の謎
一枚ガラスのドアを鏡として使ったトリック。まずちんどん屋(魔法博士の部下)がガラスのドアの向こうに立って姿を見せる。そこで電灯を消して、部屋を暗くすると、ガラスの向こうは見えなくなる。そして、天井に仕掛けた箱に悪魔(魔法博士)が立ち、箱の中の電灯をつけると、その姿はガラスのドアに鏡のように映る。顔だけ照らせば、首より下は真っ暗となり、ガラスには映らない。
ちなみに、ちんどん屋とは和装でチンドン太鼓を鳴らしながら練り歩き、衆目を集めて商品や店舗の宣伝をする請負広告業。不適切な表現と捉えられることもあるらしく、使い方に注意が必要。
・反転する部屋の仕組み
遊園地にあるビックリ館(マジックハウス、ビックリハウス)と同じ。三人の立っていた床は揺れていただけ。部屋の周囲の壁や天井が箱のようにできていて、それがぐるぐる回ることにより、自分たちが天井に上がったような錯覚を起こした。
以上、『まほうやしき/江戸川乱歩』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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