狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『夢十夜/夏目漱石』です。
夏目漱石 さんの『夢十夜』は、文字数21700字ほどの短編小説集です。夏目漱石 さんの作品には珍しい幻想文学……、ゆえに難しいことを考えずに読めます(別の意味でいろいろ想像してしまいますが……)。未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
第一夜 あらすじ
『こんな夢を見た。腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が……』
愛する人との百年の約束――再会の結末は?
第二夜 あらすじ
『こんな夢を見た。和尚の室を退がって、廊下伝いに自分の部屋へ帰ると……』
「侍なら悟れぬはずがない」
和尚に小ばかにされて腹の虫が収まらない侍は、悟りか死か、究極の二択を己に迫るが……。
第三夜 あらすじ
目の見えないはずの我が子を背負って田んぼ道を歩いている。子供は周囲の状況を次々と言い当てる。恐ろしくなった自分は森を目指す。森へ入った自分に子供は言う。
「御父さん、その杉の根の処だったね」
…………。
第四夜 あらすじ
『広い土間の真中に涼み台のようなものを据えて、その周囲に小さい床几が並べてある。台は黒光りに光っている。片隅には四角な膳を前に置いて爺さんが……』
「手拭いを蛇にしてやる」とうそぶく爺さんは、結局手拭いを蛇に変えることなく、子供の自分が見守る中、河の中へと消えてしまう……、爺さんは何者だったのだろうか?
第五夜 あらすじ
『こんな夢を見た。何でもよほど古い事で、神代に近い昔と思われるが、自分が軍をして運悪く敗北たために、生擒になって、敵の大将の前に引き据えられた……』
好きな女に一目逢いたい――それを聞いた敵の大将は、夜が明けて鶏が鳴くまでなら待つと言う。女は愛しい人のもとに馬を駆る!
第六夜 あらすじ
運慶のごとく自分も仁王を彫ってみたい……、早速家に帰って挑戦するも、運慶のような仁王は彫れず――何もない過去にはあって、何でもある現在に欠けているもの。
第七夜 あらすじ
『何でも大きな船に乗っている……』
自分はどこへ行くのか分からない……、不安になる……、不安を解消するためには……、自分は海の中に飛び込む。
第八夜 あらすじ
鏡の中を通り過ぎていく人々。鏡に映るもの。
第九夜 あらすじ
『世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える……』
幼子を拝殿に括りつけて、夫の無事を祈り、お百度参りを繰り返す母。縛った子が泣く……、夫はとっくの昔に……、という話を――
第十夜 あらすじ
見知らぬ美女に誘われるまま、ほいほいついていってしまった庄太郎を待ち受けていた出来事とは?
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。
夏目漱石さん には珍しい幻想小説、ということで、『夢十夜』には、専門家でもそれぞれ異なった見方があるのだとか。だからこそ、固定観念にとらわれず、自由に読み解くおもしろさがあります。
そんなわけで、順番に、狐人的に自由に読み解いていきたいと思います。お付き合いいただけましたら幸いです。
第一夜 読書感想
ドラマなどで取り上げられて、いまや結構有名なネタになっているそうですが、夏目漱石 さんが「I love you」を「月が綺麗ですね」と和訳した、という逸話をご存知でしょうか?
なんだか、夏目漱石 さんって、すごいロマンチストだったんだなあ……、と思わされてしまう逸話ですが、『夢十夜』の「第一夜」も、夏目漱石 さんのロマンチストぶりを感じさせられてしまう「ロマンチックなラブファンタジー」のように思うのは、きっと僕だけではない(はず)です。
一説によると、この「第一夜」は、「禁じられた恋」を象徴する物語として読むことができるのだとか。
こちらも憶測の域を出ないお話なのですが、夏目漱石 さんは、兄嫁に恋をしていたのではないか……、といった噂があって、「第一夜」はこの恋愛関係を描いている作品だという読み方があります。
ともあれ、「第一夜」は幻想的で、素敵なお話でした(この流れで説得力あるかなあ……、話題のセレクトミス?)
第二夜 読書感想
「第二夜」は、締切りに追われる作家の心情として読んでみると、とてもおもしろいです。置時計が次に鳴るまでに悟りを開けなければ――と、究極の二択を自分に迫り、煩悶する侍の姿は、締切りが迫っているのに、何も思い浮かばず懊悩する作家を彷彿とさせます。オチを思うと、シュールというか、ブラックユーモアになってしまいそうですが……、シュール好き、ブラックユーモア好きにはおすすめの作品です。
第三夜 読書感想
……怪談? なんだかちょっと怖いお話でした。
「原罪的な不安」とでも言い表せばいいのでしょうか? 常識的に考えるならば(夢の話で常識的というのもあれですが)、生まれ変わった被害者に、前世の罪を責められているように読めます。輪廻や宇宙を思わされる、深いお話なのかもしれません。
第四夜 読書感想
爺さんは何者だったのだろうか? 『夢十夜』は「夢」と謳っているだけに、全体的に謎の多い作品群ですが、これもなかなか意味を図るのが難しい物語です。自分が「子供」か「大人」か、相手が「爺さん」か「子供」か、場面が「昼」か「夜」か――などなど、「第四夜」と「第三夜」が対になっているところは分かるのですが、その意味を問われると……(読解力不足でごめんなさい)。
- 爺さんの家は「臍《へそ》の奥」
- 「真直になる」という言は「蛇になる」と言い換えられる
- 爺さんの酒好き=大きな蛇「うわばみ」=酒豪、と通じる
- 爺さんの衣の色=浅黄=藍色(暗い青)=青大将
以上のことから、蛇になったのは手拭いじゃなくて爺さん! その意味を問われると……(以下略)。
第五夜 読書感想
じつは僕が一番気に入ったお話です(「第一夜」と迷いどころではあるのですが……)。なぜか創作意欲を掻き立てられる物語でした。いろんな方向に、想像力を広げられます(僕だけかもしれませんが)。
これもどこかしら輪廻を思わせる物語です。
最後の逢瀬を邪魔された自分の怨念は、生まれ変わっても消えることはなく……、現代の自分が神代の力に覚醒し、永い時を経て、同じ時代に転生した恋人を巡って、かつての敵である神と対峙する……、漫画やラノベみたいな熱い展開を想像してしまいます(そんな話ではありませんが)。
神代がバッドエンドだっただけに、現代ではハッピーエンドになってほしい!(ネタバレ失礼しました)
第六夜 読書感想
なぜ、自分は運慶のように上手く仁王を彫れなかったのか。その理由を読み解くために重要なラストの文章を以下に引用します。
ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。
それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。
一つには、運慶の生きていた鎌倉時代と、自分の生きている明治時代とでは自然環境が変化してしまい、彫像を彫るのに適した材木がなくなってしまったから、と解釈しました。環境問題について警鐘を鳴らしている?
もう一つは、時代が移ろい、運慶ほどの芸術家がいなくなってしまった、という実感が、アイロニーとして込められているように思います。芸術に対する精神性や想像力を持つことの重要性もさることながら、夢や信念や情熱を持って、勉強や仕事に打ち込むべきだという教えが、そこには含まれているようにも感じて、大変勉強になりました。
第七夜 読書感想
大金持ちの家に生まれて、何不自由なく育ち、これから先も何の不安もなく生きている……、という方が世界にどれだけいるのでしょうか?
多くの人が、将来の不安を抱えながらも、どうにかこうにか(あるいは漠然と)今を生きているのではないでしょうか。
そんな不安が描かれているように、僕には感じられました。
海の中へ飛び込んだ自分は、その瞬間に命が惜しくなって、でももう遅い、いつまでも海に向かって落ちていく――ここに、不満があってもつらい現状に耐えて頑張る姿勢の大切さ、というか、逃げの姿勢を否定しているようにも思えて……、逃げてばかりの僕には耳の痛いお話でした。
家庭、学校、職場、人間関係……、逃げて解決することもあれば、逃げては何も解決しないこともある……、いったいどちらが正しかったのか……、時間が経ってみなければ分からない……、時間が経ってみても分からないかもしれない……、そんな現実も表れているように思います。
よくいわれるように――貧しい国の人々、内戦の続く国の人々……、今を生きるのに精一杯の人たちからしたら、贅沢な悩みなのかなあ、とは思うのですが……。
第八夜 読書感想
床屋の椅子に座った自分の前面にある鏡の中に、いろいろなものが映り込んでは消えていく――しかし振り返ってみると、そこには何もなかった。結局鏡というのは、自分自身を映すものでしかないのかなあ……、と。
最近読んだからでしょうか、第155回直木賞を受賞された荻原浩 さんの『海の見える理髪店』を思い起こしてしまいました。主題とまではいえませんが、たしかに通じるところがあると思います。
(よろしければこちらもぜひ⇒海の見える理髪店/荻原浩=あらすじと感想と狐人的ランキングで評価!)
第九夜 読書感想
こんな悲い話を、夢の中で母から聞いた。
「第九夜」は上の引用で結ばれています。そのとおり、ただただ悲しいお話です。夏目漱石 さんは幼少の頃養子に出されたことがあるそうで、そのときの幼児体験が反映された物語なのかもしれません。
第十夜 読書感想
全体的に一番なんだかよく分からないお話でした。コメディ? 笑っていいのかどうなのか……(オチ的にたぶんダメなのだとは思うのですが……)。綺麗な女の人(美人局)には気をつけようとか、知らない人についていったらいけないよとか、教訓が含まれているようにも思うのですが、はたして。
『みなみけ』のカナも「たとえ福沢先生が100人、千束になろうともお前たちにかなう価値はないものと知れ」と言っていましたし、「第十夜」的には男の子もそうですが、女の子も気をつけて! ――といった感じ?
(てかこのネタ使いすぎ?⇒『運/芥川龍之介=狐人的感想は「答えのない問題」の狐人的回答(みなみけの夏奈がヒントをくれた?)』)
読書感想まとめ
突然ですが、狐人的「『夢十夜』トップ3」を発表したいと思います。
狐人的『夢十夜』トップ3
- 第1位 第五夜
- 第2位 第一夜
- 第3位 第七夜
さて、あなたの「『夢十夜』トップ3」はどうなりましたか? 文学少女や文学男子――小説好き同士なら、これを比べて話してみたら、絶対盛り上がる! ――と思うのは、ひょっとして僕だけ? このブログでもコメントに「『夢十夜』トップ3」を書いていただけたら、とても楽しいと思うのですが(主に僕が)、全然pv伸びないので(夢十夜だけに)夢のまた夢……。いつかは! ――と書き続けるしかないわけですが、はたして。
狐人的読書メモ
とにかく「第五夜」で喚起されたイメージを忘れないこと! ブログの目途がついたら、まずは短編小説から!
(本当の狐人的読書メモです。お気になさらず)
・『夢十夜/夏目漱石』の概要
1908年(明治41年)発表。10の短編小説から構成される短編集。夏目漱石としては珍しい幻想文学的テイストの作品。
・「こんな夢を見た」の記述の有無
第一夜、第二夜、第三夜、第五夜に見られ、他にはない。これらはまとめて執筆したが、後に10話構成にしたとき再編集した結果か?
・「I love you」⇒「月が綺麗ですね」和訳説疑惑
どうやら間違って伝わった逸話らしい。生徒の答えに「月がとっても青いから」と訳すのだという話はあるそう。ちなみに、これは1955年に大ヒットした歌謡曲のタイトルにもなっているのだとか……、現代のドラマといい、真偽はともかくとして影響力の大きさに嘘はないと思った。
以上、『夢十夜/夏目漱石』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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