タレノ カゲ/新美南吉=人と比べても常に謙虚でいたいこと。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

タレノ カゲ-新美南吉-イメージ

今回は『タレノ カゲ/新美南吉』です。

文字1000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約3分。

人は自分と他人の影を比べてしまう。自分の影が立派だと思えば他人を見下してしまう。影は太陽がつくる。太陽が見れば影に違いはない。人と比べても謙虚な気持ちでいたいこと。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

(今回は全文です)

『誰の影/新美南吉』

町のまんなかにひろっぱがありました。ひろっぱのまんなかにまるい影がひとつ落ちていました。そこをふたりの子どもが通りかかりました。

「これはなんの影だろう」

とひとりが言いました。

「さあなんの影だろう」

ともうひとりが首を傾けました。そしてふたりは行ってしまいました。
ポストの上にとまっていたスズメが、

「あれはわたしの影だわ」

と言いました。

「くっくっくっ」

とポストは笑いました。そして言いました。

「それではおまえ飛んでごらん」

スズメは飛びました。けれどひろっぱのまんなかの影は動きませんでした。

「そうれごらん、おまえさんの影でない証拠に、おまえさんが飛んでも、あの影は動かないではないか」

とポストは言いました。

「では誰の影」

「わしの影さ」

とポストはにっこりしました。

するとポストのうしろに立っていた街灯がからからと笑って、

「ポストの影なら、ポストのうしろに転がっているその不格好なのがそうよ」

と言いました。

ポストはうしろを見ると、そこに、本当に不格好な自分の影がありましたので赤くなりました。

「あれはこのわしの影さ」

と街灯が言いました。

すると今度は、ひろっぱいっぱいに、はっはっはと笑う声が響きました。

見るとそれは、空高くのぼっている軽気球でした。

「街灯の影なら、街灯のうしろにあるそのひょろひょろしたのがそうだよ」

と軽気球は言いました。そして得意そうに、

「あれはわたしの影だよ」

と言いました。

なるほどまるいところを見ると軽気球に違いありません。

それにしても、軽気球はなんとりっぱなまるい影を持っていることでしょう。

スズメとポストと街灯は、軽気球とまるい影を見比べてうらやましがりました。

ところが夕方になって、太陽が落ちてしまうとひろっぱのまんなかのまるい影はなくなってしまいました。

そこでみんなは、影というものは太陽がつくるのだということがわかりました。

狐人的読書感想

「どんぐりの背比べ」とか「五十歩百歩」とか。ひとは比べたがるということでしょうか。

それが差別とかいじめとかにつながっていくのだと思えば、戒めるべき性質だと考えますが、しかし比べたがるからこそ向上心が生まれるとか、必ずしも悪い面ばかりだともいえず、意外とむずかしいところですね。

より偉大なものから見れば、人々が比べる違いなんて、わずかな違いでしかない。

スズメもポストも街灯も立派な影を持っている軽気球をうらやましがりますが、どんなに立派な影を持っていてもそれをつくっているのは太陽であることを知るのは、なんだか大事なことのように思えるんですよね。

上には上がいる。

常に謙虚な気持ちを持っていれば、他人と自分を比べたとき、たとえ自分のほうが優れていると感じたとしても、それで他人を見下したり自慢したりすることはせず、だからいじめや差別にもつながっていかず、比べ合うことでただ純粋にお互いを高め合っていける――みたいな?

まあ、そうならないのが、意外でもなんでもなく、現実のむずかしいところですね。

影といえば、物体が光を遮る結果として壁や地面に暗い領域ができる物理現象ですが、人間心理の影については多様な概念があって興味を引かれるモチーフです。

たとえば。

ドッペルゲンガーに代表される影は、自身の魂(の一部)として考えられたりします。だから礼儀作法として目上の人の影(魂)を踏んではいけないといった考え方も生まれたりします。

魔法や魔術の属性にもたまに「影」というのが見られますが、日本の忍術には「影縫い」という術がありますね。

影は心理学や宗教的にも重要な意味を持ち、文学でも『影をなくした男』(『ペーター・シュレミールの不思議な物語』)とか、興味深い題材として取り上げられたりします。

怖い話でも影にまつわるものがけっこうありますよね。

影に興味を持った、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

人と比べても常に謙虚でいたいこと。

狐人的読書メモ

・とはいえ、人と比べないのが一番なんだけど、それがなかなか、ね……。

・いろいろなものに見える(見せる)影絵なんかもおもしろい。

・『タレノ カゲ/新美南吉』の概要

1950年(昭和25年)5月、『ひろった らっぱ』にて初出。人と比べても常に謙虚な気持ちでいたい。

以上、『タレノ カゲ/新美南吉』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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