狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『人間レコード/夢野久作』です。
文字11000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約32分。
機密情報を運ぶスパイ。が、その情報は漏れていた。しゃべった? 私は人間レコードです。メッセージの内容を知るはずがない。人間レコードとは? ラノベに跳訳されたこともある作品。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
昭和X年、十月三日午後六時半。下関に巨大な連絡船が到着する。やせ衰えた西洋人の老人が一人、船をおりると駅に向かう。途中公衆電報取扱所で、東京銀座にあるコンドル・レコード商会に電報を送る。『レコード シモノセキツク フジニノル』。その様子は日本当局に監視されている。
その青年と少年はボーイに変装して、列車の富士号に潜入している。特別貸切室。ドアの隙間からゴム管で催眠ガスを注入し、中の老人を眠らせる。室内に侵入した青年ボーイは、いくつかの薬品を老人に注射する。少年ボーイは録音機の準備を完了している。
在日ソ連大使は、大使館の応接室でその号外を読み、色を失う。たったいま到着したばかりの本国からの機密情報が、日本に筒抜けになっている。大使は老人にピストルを突きつける。
「しゃべったな。メッセージの内容を」
「わ……私は人間レコードです。メッセージの内容を知るはずが――」
「黙れ」
大使は引き金を引き、人間レコードを処分する。
老人は人間レコードと呼ばれるソ連のスパイだった。人間レコードとは、本人の意識しない脳の一部に、電気信号のメッセージを記録した人間。ソ連が秘密裏に開発した技術で、複数の薬品を用い、決まった手順を踏まなければ、たとえ拷問してもメッセージを聞くことはできない。
ペトログラードのネバ河口にある信号所の地下室。そこに人間レコードの製造所がある。日本の機密局ではその技術をすでに盗み出していたのだった。
狐人的読書感想
スパイ・サスペンス? 人間レコードとはなんなのか?
大変興味深いお話でした。
人間椅子とか人間腸詰とか人間レコードとか。「人間〇〇」と名のつくものにはグロテスクな興味を引かれてしまいます。
グロテスクには「奇怪・異様」といった意味がありますが、「人間レコード」もまさに奇怪で異様な物語です。
人間レコードは、薬品と電気を使って人間の意識しない脳の一部にメッセージを記録します。よって記録された本人はその情報を知ることはありません。
本人は知らないわけですから、拷問しても聞き出せず、買収もききません。
情報漏洩の心配がなく、機密のやりとりにはピッタリの方法かと思いきや、結局そのやり方さえわかってしまえば、機密は漏れてしまいます。
どんな技術やツールを使ってみても、情報保護には限界があるのだと、改めて認識したところです。
このお話の奇怪・異様・恐いところは、言うまでもなく「同じ人間を物として扱っている」ところですよね。
在日ソ連大使は、機密情報が敵国(日本)にバレていることを知ると、なんの躊躇もなく老人を処分してしまいます。
そこには「人間が人間に対して持つはずの感情」が欠落しているように思えるんですよね。
在日ソ連大使は、情報が漏れたことで、人間レコードの老人に怒りをぶつけているような描写がありますが、それは「人間に対して怒っている」のではなく、「うまく機能しなかった物に対して怒っている」だけなのだと感じられます。
人が他人を物として扱うのは、不気味で恐いことだと感じます。
しかしそこに言いようのない興味みたいなものを感じている自分もいたりするんですよね。
グロテスクなものを見たい、他人を支配したい、みたいな?
それが残酷でいけないことだとわかっているのに、そのものごとに心引かれてしまう自分がいるのは、いつもかなり不思議な気がしています。
(一説によれば、人がグロテスクなものに心引かれてしまうのは、狩猟採集時代の狩りの本能から生じている感情なのだとか――攻撃性とか支配欲とか、そういったもので快楽を生じる脳のしくみだとか)
とはいえ、人が人を物のように扱うのとは反対に、人が物を人のように扱って大事にするというような、ポジティブなものの捉え方があるということも連想します。
人は感情移入することで人も物も大切にするし、感情移入できなければ人も物も大切にはしない、といったお話なんですかね……。
月並みですが人も物も大切にしたいと思った、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
スパイ・サスペンス!人間レコードとは何か?
狐人的読書メモ
・『人間レコード』はラノベ化していると知って興味を持った(『脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク』―ガガガ文庫―)。
・跳訳という試みらしく、古典をラノベにリメイクするといった趣旨のようだが、古典のリメイクは芥川龍之介や太宰治のいくつかの作品にも通じる気がする。
・というか、全般的に何かをモチーフにしていない小説なんてありえないのかなという気がして、なんとなく興味深く感じた。
・『人間レコード/夢野久作』の概要
1936年(昭和11年)『現代』にて初出。夢野久作晩年の作品。晩年作品としての特徴としての反共思想や国粋主義思想が織り交ぜられている。グロテスクな興味。人間レコードとは?
以上、『人間レコード/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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