好奇心/織田作之助=1分で読めるのに確かなオチと様々なテーマ!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

好奇心-織田作之助-イメージ

今回は『好奇心/織田作之助』です。

文字数600字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。

あだ名は人と仲よくなれる? それとも人を傷つける?
国や時代によって違う美人。
メディアに踊らされること。
盲腸は無用の長物じゃなかった事実。
美しいうちに人生を? 醜くとも長生きを?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

(今回は全文です)

『好奇心/織田作之助』

殺された娘、美人、すくなくとも新聞の上では。それが宮枝には心外だ。宮枝はその娘を知っている。醜い娘、おかめという綽名だ。

あたしの方がきれいだ。あたしの方が口が小さい。おかめなんていわれたことはない。宮枝の綽名はお化け。あんまり酷だから、聴える所では誰も言わなかった。お化け、誰のことかしら。声だけは宮枝も女だった。

誰でも死ぬ。クレオパトラ。白骨にも鼻の高低はあるのか。文章だけが鼻が高いと書く。若くて死んだから。あたしは養生して二百歳まで生きる。奇蹟。化石になる頃、皆あたしを忘れる。文章だけに残る。醜い女、二百歳まで生きて、鼻が低かったと。そしてさらに一生冒さず、処女!

殺されればあたしも美人だ。あたかもお化けがみな美人である如く。お岩だってもとは美人だったと、知らぬが仏の宮枝は、ぐさりとスリルを感ずる。知らぬが仏。全く何も知らぬ。チャンスがなかったのだ。手術みたいなものかしら。好奇心の病気! 盲腸という無用の長物に似た神秘のヴェールを切り取る外科手術! 好奇心は満足され、自虐の喜悦、そして「美貌」という素晴らしい子を孕む。しかし必ず死ぬと決った手術だ。

やはり宮枝はわななく、男はみな殺人魔。柔道を習いに宮枝は通った。社交ダンスよりも一石二鳥。初段、黒帯をしめ、もう殺される心配のない夜の道をガニ股で歩き、誰か手ごめにしてくれないかしら。スリルはあった。

ある夜、寂しい道。もしもし。男だ。一緒に歩きませんか。ええ。胸がドキドキした。立ち停る。男の手が肩に。はっと思った途端宮枝は男を投げ飛ばしていた。

狐人的読書感想

これだけ短いお話の中に、いくつも興味深いテーマがあって、しかもオチがおもしろい! という、さすがは織田作之助さんです。

さて。まずは「あだ名」です。

おかめもお化けも、どちらも呼ばれたくないようなあだ名ですよね……いったいどっちがいやかなあ、とか考えますが、どっちもいやかもしれません。

あだ名って、親しみを込めて呼んだり呼ばれたりするものだから、呼ぶ側にまったく悪意がなくて、じつは呼ばれる側がいやだった場合、呼ばれる側はなかなか言い出しにくい気がします。

あだ名で気づかぬうちに友達を傷つけてしまうことがあることを思えば、あだ名って、なかなか使いにくいように考えてしまうのですが、しかしあだ名で呼び合うことで、より仲良くなれるケースだってあって――難しく感じてしまうのは僕だけ? そんなことを考えずにあだ名を呼び合えるのが本当の友達なんですかねえ……やっぱり難しく感じてしまいます。

つぎに「亡くなった人を悪く言う人はいない」ということ。

これは逆に、「亡くなった人を悪く言う人がいたら問題」ということがいえるのかもしれませんが、しかしたいていの場合、故人というのは美化されがちなのは、宮枝の言うとおりかな、って気がします。

本文でも出てきたクレオパトラとか、楊貴妃と小野小町を含めて「世界三大美人」だとかいわれていますが、実際にはどうだったんだろうなあ、というのは気になるところです。

美人像――人間の美的感覚って、国や時代の価値観によって全然違ったりしますよね。それこそ、日本の平安時代などはぽっちゃりしたおかめのような女性が美人とされていた、なんて聞いたことがあります。

「私もあの国だったら、あの時代だったら、モテるはず!」みたいな感じですよね(どんな感じだよ)、ちょっと不思議に思うのです。

また、「新聞の上では」「文章だけに残る」というあたり。

日々、メディアの報道に躍らせれている自分を思うんですよね。毎日、いろいろなニュースが飛び交っている現在ですが、だからこそ、ニュースをそのまま鵜呑みにせずに、ちゃんと自分の意見を持ちたいと願いますが、やっぱりテレビでいう人の意見に、深く考えないまま賛同してしまったり――自分の考えをきちんと持つのもまた、なかなか難しく感じるところです。

比喩表現で『盲腸という無用の長物に似た神秘のヴェールを切り取る外科手術!』というところがあります。

じつは内容にはあまり関係ないのですが、まさに長年「無用の長物」だと思われていた盲腸(虫垂)が、じつは腸に免疫細胞を供給して、腸内細菌のバランスを保つ働きがあるというのを知って驚いたのを思い出します。

まあ、盲腸が体にとって不要だとされていたこともそのとき同時に知ったのですが、体に不要な部分ってやっぱりなくて、どんなに不必要に見えても、何かしら理由があるものなんだなあ、と改めて実感したという、余談です。

「若く、美しいうちに人生を終わりたい」というのは聞いたことがありますが、「醜いからこそ長生きしてやる!」というのはなかなか聞いたことがなくて、おもしろい考え方だと感じました。

そのために柔道を習い、黒帯になった宮枝は、ある夜、一人の男に言い寄られていい雰囲気に……だけど、最後は――言わずもがなのオチが、断然おもしろかったです。

だけど、どうして男はお化けとあだ名される宮枝に近づいてきたんでしょうね? もちろん、男のタイプだったからだとすなおに受け入れることも可能ですが……何かよからぬ意図があったのではなかろうか、などと疑ってしまいますよね(僕だけ?)。

結局投げ飛ばしといてよかったんじゃね、宮枝――というオチだったのかもしれない、というのが、今回の読書感想のオチです。

読書感想まとめ

「あだ名」のこと。「亡くなった人を悪く言う人はいない」ということ。「国や時代、それぞれの価値観によって違う美人像」のこと。「メディアに踊らされる」こと。「じつは無用の長物じゃなかった盲腸」のこと。「おもしろい女キャラとオチ」のこと。

狐人的読書メモ

・いまは写真とかあるので、文章だけで美人になれる、ってことはないかもしれない。

・宮枝のキャラクターが(創作のキャラモチーフとしても)おもしろかった。

・クレオパトラは最近読んだ夢野久作の小説にも出てきたな(『髪切虫/夢野久作』)。

・『好奇心/織田作之助』の概要

1946年(昭和21年)10月20日『大阪毎日新聞』にて初出。短い中に豊富なテーマとたしかなオチが秀逸。

以上、『好奇心/織田作之助』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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