仙人/芥川龍之介=非正規でもまじめに働いていれば報われると思う?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

仙人-芥川龍之介-イメージ

今回は『仙人/芥川龍之介』です。

文字3800字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約8分。

一つ所で二十年「まじめに働いていれば必ず報われる」という話。が、非正規雇用、3年ルール、5年ルール……一つ所で二十年働くことが難しい現代、はたして本当にそうなのか。将来の夢は正社員?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

昔、大阪の町へ奉公にきた若者がいた。権助といった。権助は「人は儚い。仙人になりたい」と思い、口入れ屋(現在の人事派遣会社)の番頭に、仙人になれる口入れ先を紹介してくれるよう求める。

困った番頭は近所の医者のところへ出かける。すると古狐のように狡猾な医者の女房が、「うちへおよこしよ」と言う。権助は医者の女房に言われるまま、二十年間無給で奉仕することになる。

二十年経ち、仙術の指南を求める権助だったが、医者の女房がそんなことを知るはずがない。女房は適当なウソをつき、権助に高い松の木を登らせて、そこで両手を離すように伝える。

権助は医者の女房のウソを信じて言われた通りにする。と、木から落ちると思われた権助の体が、宙に浮く。権助は「ついに仙人になれた」とお礼を言って、そのまま天へと昇って行った。

狐人的読書感想

この物語が言いたいことは、「(雇用先で二十年)まじめに働いていれば報われる」ということのようですが、僕にはちょっとそういうふうには読めませんでした。

てか、人材派遣会社(口入れ屋)って、昔からあったんですね。

本作の主題ではないのでしょうが、どうしてもこの人材派遣会社について、人材派遣会社が蔓延している日本社会について、思わずにはいられません。

口入れ屋の番頭(人材派遣業者)は、権助(労働者)を稼げそうな適当なところへ派遣して、10%、20%、30%……、あるいはもっと、労働者の給料から毎月のマージンをピンハネします。

もちろん、働き口をもらったのだから、お礼をするのは当然だと思いますが、なぜ毎月支払い続けなければならないのか、そこがちょっと理解できません。

口入れ屋(人材派遣会社)から人を雇う狡猾な医者の女房(企業)も、人件費を削減したいからその流れで人を雇っていて、権助を二十年も無給で奉公させるような非道は現在ではありえませんが、結局のところ自社が得をするために、労働者をうまく利用しようとしている印象は拭えません。

権助には「仙人になる」という夢があり、無給でもまじめに働き続けて、最後には仙人になれたかのような終わり方をしていますが、しかしこれ、「松の木から落ちて命を落とし、文字通り昇天してしまった」とも読めませんかね?

人材派遣会社では「資格をとって実務を積んで、ゆくゆくは上の仕事ができるようになる」と新人には言ったりするのでしょうが、実際には上の仕事は派遣先の正社員で飽和状態、常に足りないのは下の仕事の人員ばかり、派遣社員が派遣先で上の仕事ができる機会なんて少ないのではなかろうか、なんて想像してしまいます。

何年かおきに働く会社が変わるのって、また新しい人間関係を構築したり、慣れない環境に慣れなければならず、緊張したり不安だったり、「一つの会社で正社員として長く安定して働きたい」と願うのが、やはり普通なように感じるのですが、実際に昔はそれが普通だったはずなのですが……いつのまにか、いまは違うことに……。

「将来の夢は正社員、公務員」

なんて、「現代の若者は夢がない」とか言われたりもしますが、それを言っている世代は、現在の非正規雇用全盛時代とは無関係に、終身雇用制の恩恵を受けている世代であって、なんだかなって気がします。

もちろん、自分で事業を起こして成功した人が言っている場合もありますが、そんな凄いことができる人は世の中のごく一部なわけであって、それには運や才能が必要であって、努力だけではどうにもならないのが世の中の摂理であって、なんだかなって気がします。

とはいえ、権助(労働者)にも悪いところはあります。

口入れ屋に無茶な要求をして、狡猾な医者の女房の言うウソをよく考えもせず真に受けて、バカ正直に二十年も働き続けたのは、いかにも軽率というか、考えなしに思えます。

「ここで働き続けていても先はない」「自分はだまされているかもしれない」と思えば、すぐにでも転職するなどの行動を起こさなければならないわけですが、ちゃんと転職できるだろうか、そこが本当にいまよりもいい会社だろうか、これがベストな選択だろうか、あるいは権助のように医者の女房(会社)を信じ切っていて……なかなか動くことができません。

「正社員になりたい」

というのは「野球選手になりたい」「サッカー選手になりたい」と同等の夢として現在では受け止めて、移ろいながら働く非正規労働が普通なのだと受け入れて、現代人は働くしかないのかなぁ……、なんて思っちゃいます。

まぁ、人材派遣会社の正社員という、「なんだその奴隷制みたいな働き方は……」という正社員の道もありますが。

とはいえ、もはやこれは当然のこと、非正規が嫌なら学生時代にちゃんと勉強をして、いい大学に入って、いい会社に正社員として就職すればいい、というのは昔から変わっていないのかも。

それにいまは、Youtuberとかなんやかや、新しい働き方も増えていますし、思わぬベンチャー起業ができたりと、正社員以外の働き方もあって、一概に悪い社会だとも言えないんですよね。

権助のように、本当に仙人になることだって可能な、いまはそんな世の中であるかもしれません。

非正規雇用全盛時代を嘆くよりも、非正規でも正規でもない別の働き方を模索して、ダメだったら我慢して非正規で働けばいいのかなぁ……、なんて、結局のところいつの時代でも人がとるべき働き方についての道は、いまも昔も変わっていないのかなぁ、とか考えた、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

非正規でもまじめに働いていれば報われると思う?

狐人的読書メモ

・労働契約法改正による3年ルール、5年ルールは、有期契約労働者が雇用先に無期契約の申請ができるものであるが、結局雇用先は3年、5年を迎える前に非正規を切ってしまえばよいだけ。派遣会社の正社員においてはこれらのルールはまったく無意味で一生派遣として働かなければならず、歳をとって派遣先がなくなればクビになるしかない。この弊害が深刻な社会問題として表出するのはもっと先の話なんだろうが、労働者のための労働契約法であってくれることを願わずにはいられない。

・まじめなだけではダメだということは他のいろいろなことについて一般的にいえるかもしれない。とはいえ、まじめさもなければなるまい。

・『仙人/芥川龍之介』の概要

1922年(大正11年)『サンデー毎日』にて初出。副題は『オトギバナシ』。芥川作品には『仙人』のタイトルが複数あり。本作の原点は『聊齋志異』巻一の「労山道士」、『太平広記』の『候道華』が指摘されている。本作のテーマについては「労山道士」の逆用と見られる。

以上、『仙人/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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