お伽草紙 ―瘤取り―/太宰治=性格の悲喜劇?耳下腺の多形性腺腫です。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

お伽草紙 ―瘤取り―-太宰治-イメージ

今回は『お伽草紙 ―瘤取り―/太宰治』です。

文字11000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約30分。

誰も悪くないのに、人は不幸になる条理。家庭に居づらい父の侘しさ。瘤とは何か?著者曰く「性格の悲喜劇というものです」。僕曰く「耳下腺の多形性腺腫です」。あなた曰く……?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

右の頬に大きな瘤のあるお爺さんがいた。お爺さんは家庭で孤独を抱えていた。もう七十ちかくなる妻のお婆さんは厳粛で、四十ちかい息子は品行方正、お酒一つ飲まず、お爺さんの話し相手にはなってくれない。

なのでおじいさんは、大好きなお酒を一人飲みながら、右頬の瘤に家族のグチを言ううちに、なんだかその瘤が孫のようにも思えてきて、清水で洗ったりして大事にしてきた。

ある日、お爺さんが山へ薪拾いに行き、雨が降ってきたので、山桜の根元の虚に入って雨宿りし、お酒を飲んで酔っ払って寝てしまい、夜になってそこを出てみると、鬼の宴会に遭遇する。

鬼たちがあまり楽しそうにお酒を飲んでいるので、同じ酒飲みとして嬉しくなってしまったお爺さんは、鬼たちの宴会に飛び込んで、阿波踊りを披露する。

それを見た鬼たちは大変喜び、またぜひ踊りを見せに来てほしいと思い、そのための人質として、お爺さんの大事な右頬の瘤をとってしまう。お爺さんはすっきりしたような、さびしいような――複雑な気分のまま家に帰る。

このお爺さんの近所に、やはり左の頬に大きな瘤のあるお爺さんがいた。謹厳実直な性格で学識高く、「先生」と呼ばれ、一目置かれていたが、左頬の瘤が長年のコンプレックスになっていた。

先生は、お爺さんから鬼に瘤をとられた話を聞いて、さっそく自分も――と鬼たちの宴会に勇んで乗り込んでいくのだが……気負い過ぎた踊りはひどくまじめでつまらないものだった。

鬼たちは「もう来ないでくれ」と言って、お爺さんからとり上げた瘤を先生に返し、気の毒な先生は両頬に大きな瘤をぶら下げるはめになってしまった。

――このおとぎ話では、誰も悪いことはしていないのに、それでも不幸な人が出てしまう。著者曰く「性格の悲喜劇というものです」。人間社会の現実を表している。

狐人的読書感想

太宰治さんの『お伽草紙』には、「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の四つのおとぎ話が収録されていますが、しばらくこれらを順番に読み進めていきたいと思います。

今回は「瘤取り」です。

芥川龍之介さんの『桃太郎』を読んだときにも思ったのですが、おとぎ話のストーリーラインはほとんどそのままに、キャラクターの性格などの設定をちょっと変えるだけで、全く違った意味を持つお話になってしまうというのは、とてもおもしろいです。

一般的に知られている「瘤取り」(『こぶとりじいさん』)は、やはり頬に大きな瘤のある二人のお爺さんがいて、一人は正直でやさしいお爺さん、もう一人は意地悪で乱暴なお爺さん――正直なお爺さんは鬼に瘤をとってもらい、意地悪なお爺さんは瘤が二つになってしまう、勧善懲悪の訓話になっています。

しかし太宰治さんの「瘤取り」では、誰も悪いことをしていなくても人は不幸になってしまうのだという、不条理だと思ってしまう世の中の条理が描かれていて、とても興味深く考えさせられてしまいます。

考えてどうこうなることじゃない、というところが、また考えさせられてしまうのですが、だけどもやっぱり考えてどうこうなることじゃないので、ただ純粋に物語として読んで楽しむしかないあたりが、おとぎ話の本質だという気がします。

グリム童話とか、おとぎ話をベースにして、違った観点から物語を再構成する創作って、すごくおもしろそうで興味が湧きます。

ちなみに「瘤取り」を医療的観点から見ると、お爺さんの瘤は「耳下腺の多形性腺腫」になるそうです。これは良性の腫瘍なので、大きくなってもとくに問題はないのだとか。悪性の腺癌などならば、ここまで大きくなる前に他臓器に転移しているらしく、鬼につけられてしまった他人の瘤は拒絶反応で後日とれるみたい。いまなら美容整形でとれそうですね。

……なんだか、医療童話が書けそうな予感(?)な、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

性格の悲喜劇? 耳下腺の多形性腺腫です。

狐人的読書メモ

・お爺さんにしても先生にしても、家庭におけるお父さんの微妙な立ち位置を思い知らされた気がする。昔からお父さんってこんな扱いだったのかなあって気がする。お父さんの侘しさ……。

・『お伽草紙 ―瘤取り―/太宰治』の概要

1945年(昭和20年)『おとぎ草紙』(筑摩書房)にて初出。防空壕の中で、五歳の女の子に絵本を読み聞かせる父は、心の中で別の物語を捜索している。収録作品は「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」。太宰流にアレンジされている。

以上、『お伽草紙 ―瘤取り―/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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