狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『月蝕/夢野久作』です。
文字数1300字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約3分。
月を女性に擬人化し、月蝕という現象をグロテスク、グラン・ギニョールに描いた小説。オチでホッとできて、月に親しみを覚えます。ところで、月のイメージって女性ですか?男性ですか?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『月蝕/夢野久作』
★
鋼のように澄みわたる大空のまん中で
月がすすり泣いている。
………けがらわしい地球の陰影が
自分の顔にうつるとて…………
それを大勢の人間から見られるとて…………
…………身ぶるいして嫌がっている。★
………しかし………
逃れられぬ暗い運命は…………
刻々に彼女に迫って来る。
大空のただ中に…………★
……はじまった……
月蝕が…………★
彼女はいつとなく死相をあらわして来た。
水々しい生白い頬…………
……目に見えぬ髪毛を、長々と地平線まで引きはえた………
それが冷たく……美しく……透きとおる……
コメカミのあたりから水気が…………ヒッソリとしたたる。★
彼女はもう…………
仕方がないとあきらめて
暗い…………醜い運命の手に…………
自分の美をまかせてしまうつもりらしい。★
顋のあたりが
すこしばかり切り欠かれる。
…………黒い血がムルムルと湧く。
…………暗い腥いにおいが大空に流れ出す。
…………それが一面に地平線まで拡がってゆく。
彼女を取巻く星の光がギラギラと冴えかえった。★
彼女の瞼が一しきりふるえて
やがて力なく黝ずんで来る。
鼻の横に黒い血の塊が盛り上る。
…………深く斬込まれた刃の蔭に
赤茶気た肉がヒクメク。★
世界は暗くなった。
すべての生物は鉛のように重たく
針のように痛々しい心を
ジッと抱いて動かなくなった。★
けれども暗い……鋼鉄よりもよく切れる円形の刃は
彼女の青ざめた横頬を
なおもズンズンと斬り込んでゆく。
そこから溢れ出る暗い…………腥いにおいにすべては溺れ込んでゆく。
…………山も…………海も…………森も…………家も…………道路も…………
…………そこいらから見上げている人間たちも…………★
その中にただ一つ残る白い光…………
彼女の額と鼻すじが
もうすこしで…………
黒い刃の蔭に蔽われそうになった。★
空一面の夥しい星が
小さな声で囁き合って
又ヒッソリと静まった。★
陰惨な最後の時…………
顔を蔽いつくす血の下に
観念して閉じていた白い瞼を
パッチリと彼女は見開いた。★
案外に平気な顔で
下界の人々を流し眼に見まわした
ニッコリと笑った。★
…………ホホホホホホホ……
これはお芝居なのよ。
……大空の影と光りの……。
だから妾は痛くも苦しくも………
……何ともないのよ…………
そうしてもうじきおしまいになるのよ。★
…………でも皆さんホントになすったでしょう。
……あたし名優でしょう……
オホホホホホ……………★
ではサヨウナラ…………
みなさんおやすみなさい。
……ホホホホホ……………………
ホホホホホ……………………………
狐人的読書感想
なんでもかんでも(萌え)擬人化されてしまう現代、月を擬人化した作品ってけっこうあるような気がして、僕は西尾維新さんの『悲衛伝』を思い浮かべたのですが、それ意外はなかなかパッと出てきません。
みなさんは、どうでしょうね?
とはいえ、月や太陽といえば、多くの神話で神格化されており、その場合には男神も女神もいるわけで、僕の中ではギリシア神話のアルテミスの印象が強く、やっぱり月といえば女性のイメージです。
しかしながら日本神話では、月神といえば男神のツクヨミ(※記紀に性別の記述はない)、太陽神といえば女神のアマテラスオオミカミなので、月神は女神といったイメージは、あるいは多数派ではないかもしれません。
どうでしょうね?
……なんだかいきなり問いかけが多くなってしまいましたが、本作も月を女性に擬人化した作品で、そのキャラクターが独特で斬新だという気がしました。
月蝕という現象をグロテスクに、どこか病的な感じに描写しているのも印象に残ります。
オチもちゃんとついていて、とてもおもしろいですね。
月を擬人化すると、僕の中では玲瓏というか、怜悧というか――とにかくなんだか冷たいイメージがあって、前半部分はそのイメージに、ある意味当てはまっているように感じるのですが、オチですべて覆されてしまいます。
(ほんのり輝く月に、あるいは温かなイメージを持っている人も、中には多いかもしれませんね)
彼女がニッコリと笑ってタネ明かしをした瞬間、なんだかホッとしたような、ちょっと親しみを覚えてしまうような気になるんですよね。
とてもいいキャラクターだと思い、創作のいい参考になりそうだなあ、なんて、勝手に思っているところです。
見た目のイメージや雰囲気と、実際の人物が違う、というのはよくあることで、怖い顔の人がじつはやさしくて(強面の俳優さんのイメージ?)、いいひとそうな人がじつはそうでもなかったりしますよね(政治家さんのイメージ?)。
やっぱ人は(月は?)見た目では判断できないんだよなあ、とか思った、今回の読書感想でした。
読書感想まとめ
月のイメージって女性ですか?男性ですか?
狐人的読書メモ
・月蝕(月食)とは、地球が太陽と月の間に入ることで地球の影がかかり、月が欠けて見える現象。思えば月蝕には不気味で怖い印象があるかもしれない。
・グラン・ギニョール(フランス語、「荒唐無稽な」「血なまぐさい」あるいは「こけおどしめいた」芝居のこと)という言葉を思い浮かべた。
・『月蝕/夢野久作』の概要
初出不明。月を女性に擬人化し、月食という現象をグロテスクに描いている。オチでホッとできて、月に親しみを覚えるような小説。短いこともあっておすすめしやすい。
以上、『月蝕/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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