狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『島原の乱雑記/坂口安吾』です。
文字数10000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約34分。
島原の乱はキリシタン反乱ではなく農民一揆だって知ってる? 忍者が大失敗したって知ってる? 天草四郎を転生したり召喚したりする話知ってる? 今回はそんな感じの狐人的読書雑記。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
島原の乱では3万7000人の農民が命を落とした。3万4000人が戦で亡くなり、生き残った3000名の女性と子供は斬首された。みんな喜んで命を投げ出すような、異様な光景だったという。
島原の乱の原因は、俗説では「キリシタンの反乱」とされてきたが、現在の定説では「農民一揆」だったとされている。当時の島原地方で、領主が農民に課していた税は相当に重いものだった。
しかしそこにキリシタンの陰謀があったことも否定はできない。島原ではその土地柄から、一般的にキリスト教が親しまれていたが、その頃は天草四郎が天人として祭りあげられ、そのカリスマによって布教が進んでいた。
島原半島で農民一揆が爆発すると、農民たちだけでまとまるのは困難となり、そのリーダーとして天草四郎が担ぎ出される。キリスト教を完全に排除したかった幕府は、農民一揆をキリシタンの反乱として徹底的に弾圧した。
島原の乱を小説にするため、長崎へ取材旅行にきていた私は、地元の人々に疑心の目で見られて、それを不快に思った。しかし禁令300年、無数の鮮血を経て伝承されてきた信仰を思えば、それもまたやむを得ないことだろうと考えを改める。
島原の乱は当時としては最先端の科学戦だった。一揆軍は、鉄砲に矢を込めて撃つ棒火矢を用いて、極めて少ない犠牲で幕府軍に莫大な被害をもたらした。
一方、幕府軍も大砲でこれに対抗したが、当時の大砲は大げさな形や音で敵を恐れさせるだけの武器であり、重く大きな鉛玉を遠くまで飛ばすことはできず、ほとんど敵に実害を与えられなかった。
しかし、オランダ船の援軍がくると戦況は一変、たちまち幕府軍の優勢となる。敵兵の腹を割いてみれば、そこに米を食べている形跡はなく、それは原城に籠城する一揆軍の限界を物語っていた。これは解剖学を戦に応用したともとらえられるだろう。
また、この戦争には忍者が登場した、というのもまた大変に興味深い。幕府軍は甲賀忍者を呼び寄せて、城中へ忍び込ませたが、しかしキリシタン用語や名称がさっぱりわからず、あっさり正体を見破られてしまったらしい。
一方、一揆軍もいろいろな妖術を駆使したと伝えられていて、天草四郎も妖術使いだったという伝説が残っている。
さらに、金鍔次兵衛という人物も、キリシタンのバテレン妖術使いとして知られているが、島原の乱とは関係のないところで命を落としており、この人物が戦に関わっていたならば話としてはなおのこと面白くなるだろう、と私は思う。
私は地図を見て、金鍔次兵衛が捕まった金鍔谷の名称を目にし、ほとんど衝動的にそこを訪れるが――当然ながら、私が期待するような劇的な何かは、そこにはなかった。
私は長崎へと戻り、ちゃんぽん屋で渋い酒を飲みながら、「金鍔次兵衛ともあろう者が、原城へ入城もしないで、あんな穴の中で捕まるとは……」、残念至極だと一人くだを巻くのであった。
狐人的読書感想
ふむ、坂口安吾さんが島原の乱について書くため、長崎へ取材旅行をした際に、調べたり見聞きしたり、当地で感じた雰囲気を、思うままに書き連ねてある紀行文、旅行記――てか、タイトルのまま『島原の乱雑記』というのが、まさにピッタリといった作品です。
「島原の乱」といえば、誰でも(僕でも)一度は耳にしたことのある、日本史上の重大事件といっても、過言ではないのではないでしょうか。
実際、島原の乱は「日本史上最大規模の一揆」とされています。
やはり冒頭の「島原の乱では3万7000人の農民が命を落とした」というところにはインパクトがありますよね。
(まあ、中国の三国志などで描かれる戦の規模と比べてしまうと、やっぱり国の総人口の差を思い知らされてしまいますが、しかしそもそも人の命は数ではありませんよね)
ちなみに、日本史に書かれている戦いって、「乱」とか「変」とか「役」とか「陣」とか、いろいろな呼び方がありますよね?
気になったので調べてみました。
・乱:権力者に反乱を起こし失敗した戦い
・変:権力者に反乱を起こし成功した戦い
・役:戦役(戦争)のこと、略称
・陣:権力者の命令で起こった戦役(戦争)
――といった、それぞれ意味の違いがあるそうなのです。また、「~の戦い」や「~の合戦」などもありますが、これは両方とも「局地的な戦闘」を指し、とくに連合軍で戦う場合は「合戦」と呼ばれるのだとか。
「命を落とした農民の、3万7000人のうち、3万4000人が戦で亡くなり、生き残った3000名の女と子供は斬首された」となっていますが、「みんな喜んで命を投げ出すような異様な光景だった」というのは、想像するだけでも本当に異様な光景です。
現代でも進んで自分の命を投げ出してしまうような事件があったりしますが、だけど衣食住が不可能になったから……といったケースはあまり見られないように思い、その点、昔と比べると今は幸せな時代なのかなって、思います。
亡くなれば天国へ行けるとか、極楽へ行けるとか――宗教のそういった教えに救いを見出し、自ら進んで命を差し出すような場所へ赴かなければならなかった人たちは、本当に悲しいと感じますし、また、そういった宗教の教えの利用のされ方にも疑問を抱かざるを得ませんね。
良かれ悪しかれ、宗教とはときの権力者によって利用されてきた面がありますが、その使い方によっては人を救うことも滅ぼすこともできて――なんだか自分の身を守ってくれたり傷つけたりする、銃などの武器にも似ていますよね。
現代でも悪徳宗教なんかがあったりもしますし、宗教は真実人々を救済するものであってほしいな――なんて、無宗教な僕などは単純に思ってしまいますが、それがなかなかにむずかしいところに、人の心のむずかしさが表れているような気がしてしまいます。
島原の乱については「天草四郎が起こしたキリシタンの反乱」というイメージが僕にもあったので、じつは「重税に苦しむ農民一揆だった」というのは、ひょっとすると多くの人が知っている当たり前の知識なのかもしれませんが、勉強したような気分になりました。
天草四郎といえば山田風太郎さんの伝奇小説『魔界転生』を思い出しますが、最近ではアニメやゲームなどが大人気、奈須きのこさんの『Fate/stay night』がこの『魔界転生』のオマージュとして生み出された作品であり、たしか天草四郎が登場していたように思い起こすのですが(厳密には派生作品のほうの『Fate/Apocrypha』?)、好きな方には有名な話ですかね?
鉄砲(棒火矢)、威嚇にしか役立たない大砲、解剖学――島原の乱が、当時では最先端の科学戦だったというくだりも興味深くよむことができます。
また、この戦争にはじつは忍者も登場していて大活躍! ……ならず、言葉の違いに対応できず、大失敗したエピソードなんかもおもしろかったです。
幕府側の忍術に対する、天草一揆側の妖術――金鍔次兵衛という人物についてはまったく知らなかったのですが、バテレンの妖術師みたいな書かれ方がされていて、興味をそそられてしまいました。
創作のよいモチーフになりそうな予感がするので、また時間があるときにでもじっくり調べてみたく思います。
そんなこんなで、今回の読書感想は、『島原の乱雑記』の狐人的読書雑記でした!(いわずもがな、いつものとおりでした!)
読書感想まとめ
「乱」「変」「役」「陣」ならびに「~の戦い」「~の合戦」の違い。武器にも似た宗教的思想。『魔界転生』や『Fate』にも登場する天草四郎。科学戦としての島原の乱。バテレンの妖術師・金鍔次兵衛。
――などについての(いつもの)狐人的読書雑記です。
狐人的読書メモ
・作中の私が名刺を差し出すシーンがあるんだけど、(文豪も名刺とか持ってたんだ……)って意外に思ったところ。しかし考えてみると、取材や講演会を行う文豪だからこそ、ともいえるのかもしれない。
・江戸時代のキリシタン弾圧が、近代の昭和に入っても人々の心に疑心暗鬼の影を落としていたあたりに、犠牲者の数ばかりではない、島原の乱が日本史上最大の一揆といわれるゆえんを見たように思った。
・『目当の土地へつき、知らない土地を目の前にして、地図をひろげるぐらゐ幸福な時はない。』――旅行好きには共感できる? てか、坂口安吾さんは旅行好きだったの?
・ちなみに、天草四郎は豊臣秀吉の孫だった!? という説がある。
・『島原の乱雑記/坂口安吾』の概要。1941年(昭和16年)『現代文学』にて初出。島原の乱について、現地長崎で取材旅行した体験を紀行文風に描く、まさに雑記といった感じの作品。狐人的にとても興味を持って読むことができた。
以上、『島原の乱雑記/坂口安吾』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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