勇ましいちびの仕立て屋/グリム童話=憎まれっ子世に憚る!熱くない勇者の冒険譚!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

勇ましいちびの仕立て屋-グリム童話-イメージ

今回は『勇ましいちびの仕立て屋/グリム童話』です。

文字数7000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約23分。

「一撃で七!」のキャッチフレーズで人心を操作し、
人々に嫌われながらも生涯王として君臨した
勇ましいちびの仕立て屋。
まさに憎まれっ子世に憚る! 熱くない勇者の冒険譚!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

仕立て屋はちょっとしかジャムを買わなかった。ジャム売りのおばさんは重いかごを持って三段も上がってきたので、ぶつぶつ不満そうに立ち去って行った。

仕立て屋がパンにジャムを塗る。するとたくさんのハエがたかってくる。仕立て屋は布をふって一撃で七匹のハエを撃墜する。

仕立て屋は「一撃で七!」と帯に刺繡し、その帯を身につけて冒険の旅に出る。山道の途中で巨人に出会う。

仕立て屋は勇ましく巨人に話しかける。巨人はちびの仕立て屋を侮る。しかし、「一撃で七!」の刺繍を見て、仕立て屋が一撃で七人の男を倒したのだと勘違いする。

そこで巨人は直接の対決を避け、いろいろな力比べを挑むのだが、ことごとく仕立て屋の知恵の前に敗れてしまう。

仕立て屋は王宮の中庭に辿り着く。草の上で眠っていると、城の人たちがやってきて、「一撃で七!」の刺繍を見る。城の人たちはさっそく王のところへ行き、戦争が起こったときのため、最強の戦士が必要だと進言する。

仕立て屋は王立兵団の団長として迎えられる。が、兵士たちはそのことを快く思わず、次々と王に退団の意思を告げる。困った王は仕立て屋を厄介払いしようとするが、そうした瞬間、自分も家臣も一撃で葬られることを恐れる。

そこで王は、仕立て屋に無理難題を押しつけることを考え出す。森に住む二人の巨人を討伐すること、一角獣を捕獲すること、猪を捕獲すること――その褒美として、姫と国の半分を与えることを仕立て屋に約束する。

仕立て屋は知恵を使ってすべてのミッションをクリアする。仕立て屋は姫と結婚し、国半分の王となるが、それを喜ぶ者は少ない。

しばらくして、姫は夫の寝言を聞き、彼が最強の戦士ではなく、ただの仕立て屋であることを知る。さっそく全てを父王に話す。

王は、仕立て屋が眠っている間に、兵士を寝室へ突入させて捕らえ、島流しにしようと画策する。

その夜――

「おい、上着を作って、ズボンをつくろえ、ちゃんとしないと横っ面をはたくぞ! 俺は一撃で七人を仕留め、巨人を二人倒し、一角獣と猪を捕えた。部屋の外にいる兵士など恐れるに足りん!」

この仕立て屋の寝言を聞いて、外で待機していた兵士たちは、恐れをなして逃げ出した。仕立て屋は眠ってなどいなかった。仕立て屋と懇意にしていた王の家来が、全てをこっそり聞いていて、教えてくれたのだ。

こうして勇ましいちびの仕立て屋は、生涯王として君臨した。

狐人的読書感想

勇ましいちびの仕立て屋-グリム童話-狐人的読書感想-イメージ

巨人退治、一角獣捕獲、まさに勇者の冒険譚! 王立兵団の団長から若き王へ、立身出世のストーリー! これは熱い! 熱いと思ったのですが……、全体的にそういう印象は薄いんですよねえ……、この物語。

それは主人公の勇ましいちびの仕立て屋が、みんなに嫌われているからなんですよねえ……。

たしかに仕立て屋は、冒頭にジャムをちょっとしか買わなかったり、「一撃で七!」の刺繍で周りの人たちを騙していたり――こずるい感じで、好印象とは言いがたいのですが、しかし悪人ではありません。

ジャムをちょっとしか買わなかったのは、必要な分だけ買うという、賢い買い物の仕方ですし、「一撃で七!」の刺繍だって、強烈なキャッチコピーを勝手に勘違いして捉えているのは周りの人たちなんですよね。

仕立て屋は悪人ではありませんが、人々の心情に配慮するということをまったくしておらず、だから、やっていることは知恵と勇気で困難を乗り越えるという、称賛されるべきことなのにもかかわらず、世間の納得を得られずに、嫌われてしまっているのです。

なんかこれ、やっぱりグリム童話って、現実を思わされるところがあるんですよね……。

知恵のある人というのは、やはり人よりも得をできて、しかも多くの場合あまり他人の目を気にしたり気遣ったりすることは少ないように思います。

ワンマン経営の若い実業家のイメージなのですが、どうでしょうね?

そういう人たちの中で、才能、実力、そして運を持ち合わせている人物は、周りに疎まられたりやっかまれたりしながらも、実績で周囲を反感をねじ伏せて、最終的にはみんなが認めざるを得ない大人物になってしまう――まさに勇ましいちびの仕立て屋みたいな感じですよね。

だけど、みんながみんな、それで成功できるわけではなくて、やはり他者の理解を得られず破滅していくケースも、少なくないでしょう。

我が道を行くこと、人に気を遣うこと――このバランスが、現実を生きる上で、とてもむずかしく感じてしまうのは、ひょっとして僕だけ?

「こずるさ」も知恵であって、決して悪いものではないはずなのですが、他人が見るとやっぱり「ずるい」と感じてしまい、人に悪印象を与えることになってしまいます。

しかし人目を気にして利益を得られるチャンスを逃せば、結局は損をするばかり、その損失を他人が埋めてくれることはありません。

人に嫌われず自分ばかりが利益を得るのは難しく、かといって人にも利益を譲ってしまえば自分の利益は減ってしまい、その減った分の利益を誰かが補填してくれるとは限らない――利益か人間感情か――こうした選択は、何も商売ばかりではなくて、人間関係など普段の生活のあらゆる場面に存在しているように感じられます。

人の理解を得られれば、いつかそれが利益になって帰ってくることも考えられるので、こずるく自己利益ばかりを追求して、嫌われ者になってしまうのも考えものだ、とも思うのですが、こんなことを考えてしまうのは、たぶん僕に実力も才能も運もないからなんでしょうねえ……。

「憎まれっ子世に憚る」という言葉を思います。

人から憎まれる人間のほうが、かえって世間では成功するもの。

このグリム童話はまさにこの「憎まれっ子世に憚る」を表している物語だと思いました。

読書感想まとめ

熱くない勇者の冒険譚! 憎まれっ子世に憚る!

狐人的読書メモ

・ジャム売りのおばさんの不満は、宅配業者の不満を思わされた。エレベーターのないマンションの上階に荷物を運んで、留守だったときの宅配業者の不満みたいな……仕事とはいえね……だけど仕事なんだよね……だから仕事なのか?

・童話にまじめにつっこむのもあれだけれど、一撃で七匹のハエを撃墜して、世界に自分の名を知らしめようと考えたところ、バカと天才は紙一重、ということを思わされる。一撃で七匹のハエを撃墜して、単純に「自分はこんなに強いんだ!」と思ったのならバカだし、「一撃で七!」のキャッチフレーズで人心操作しようと思いついたのならまさに天才だと感じた(深読みのしすぎか?)。

・「一撃で七!」の刺繍には自己顕示欲を思わされるところもある。自己顕示欲も嫌われる傾向にあるけど、やはり我を押し通せる才能、実力、運を持っている人間が、世間に認められるのだと思う。裏返せば自己顕示欲のまったくない人間が世の中に認められることはない。身につまされるところ。

・勇ましいちびの仕立て屋はたしかに力はないけれども、戦略的・戦術的な才能はあるように感じる。結局はやはり英雄たる資質があったことになるのではなかろうか? 見た目が派手な才能ばかりがもてはやされる世界を象徴している? もっと突き詰めてみておもしろいかもしれない。

・『勇ましいちびの仕立て屋/グリム童話』の概要

KHM 20。ドイツ語原題『Das tapfere Schneiderlein』。直訳すると「巨人と仕立て屋」。別題名に「ひとうちななつ」「ひとうちななひき」などがある。1812年、グリム兄弟の妹・シャルロッテ・アマーリエ・グリムによって書かれたものが最初とされている。のち、マルティン・モンターヌスなど複数の話と合成され、1819年に現在の形となった。

以上、『勇ましいちびの仕立て屋/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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