狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『競馬/織田作之助』です。
文字数14000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約33分。
寺田は心の穴を埋めるため競馬にのめり込む。
恨んでいる相手とも涙を流して喜び合える。
それは人間の弱さである。
パートナーの裏切りを自分の病気のせいにされたとき、
あなたはどう感じる?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
寺田が競馬にのめりこみ、1の数字ばかり買うのにはわけがある。
寺田はもともと小心な律義者だった。大学を出ると中学校の教師になったが、ある夜同僚に無理矢理誘われた高級クラブで一代に出会い、一目惚れをする。
寺田と一代は結婚するが、寺田はこれに反対した両親に勘当され、素行不良で中学校も免職になってしまう。しばらくすると一代が乳がんを発症、手術で乳房を切除するも、がんは子宮に転移していた。
寺田は雑誌編集の仕事をしながら、一代の看病に明け暮れる日々。もともと注射が大の苦手だったが、いまでは適切にそれを打ってやることもできる。
そんなある日、一代宛てに速達のハガキがきた。競馬場に来い、という男からの手紙だった。寺田は一代に何人かの男があったことを薄々知ってはいたのだが――嫉妬は凶暴に心の中を荒れ狂う。
それから一週間後、一代はついに息を引きとる。
寺田は雑誌編集の仕事の関係で、作家から原稿を受け取るため、指定された競馬場へと足を運ぶ。付き合いでしかたなく買った馬券が当たってしまう。そこから寺田は競馬に溺れていく。
会社の金を使い込み、洋服を質に入れ、ついには一代の着物までも手放してきた。これで負ければ自分も――というレースで、寺田は一代の1の番号ばかりを執拗に追い続ける。するとなぜかその日は1ばかりがきた。
寺田は競馬場で一人の男と知り合う。やはりその男も、寺田と同じように1という数字に思い入れがあり、1番一点張りの買い方をしていたのだ。話しているうちに、男が一代を知っていることがわかり、寺田は男に激しい嫉妬心を抱くようになる。
その日、寺田は負け続けていた。最終レース。これで1がこなければもう金は一銭もない状況。それはもちろん振り向いた先にいるあの男も同じだ。
最終レースが始まる。1番はスタートで出遅れる。もうだめか。寺田は懸命に1番の馬を応援する。あの男も同じだ。抜かすな、抜かすな。逃げろ、逃げろ! がんばれ! ゴールイン。大穴の1番が勝った。
寺田は男と抱き合って、涙を流して喜んだ。まるで女のように離れず、嫉妬も恨みも忘れてしがみついていた。
狐人的読書感想
競馬を通して一人の人間の弱さが描かれている小説だと感じました。
寺田は女に依存し、競馬に依存し――とても弱いひとのように思えるのですが、しかしこの弱さはたいていのひとが持っているものなのではないでしょうか?
一代ががんになって、寺田が看病に疲れていくシーンは、胸が締めつけられる思いがします。これは超高齢社会である、いまの日本の介護にも通じるところがありますよね。
最近、介護について思わされるニュースがありましたね。
夫が妻の介護に疲れて、心のよりどころとして別の女性を求めてしまった、というような報道がされていました。
結婚するからには「相手がどんなことになっても一生面倒を見るんだ!」という覚悟を持つべきなのかもしれませんが、なかなかその覚悟をするのはむずかしいことのように感じますし、覚悟はできていても実際介護の現実を目の当たりにしてしまうと、やはり心が折れてしまう、というのもわかるような気がします。
とはいえパートナーが浮気した原因を、自分の病気のせいだと言われてしまうのもつらいだろうな、という気がします。
それとも案外納得できるものなのでしょうか? 自分が病気のせいで、相手に迷惑をかけていたり、満足させてあげられないのだから仕方がないと、諦めてしまえるものなのでしょうか?
正直、どんなに想像を巡らせてみても、こればかりはそのときになってみなければわからない、という気がします。
寺田の場合は競馬に救いを求めて、しかも奥さんが亡くなったあとのことだったので、その意味では苦しむ人の数は少なくてすんで幸いだったのかもしれませんが、とても幸いだったとはいえないですよね。
人間は弱い。だから疲れ、悲しみ、怒り――心の穴を埋めるために何かよりどころを求めてしまいます。そしてそれが女性関係だったり、お酒であったり、賭け事であったり――身を滅ぼすことにつながるものの場合もあるでしょう。
寺田があれほど嫉妬していた男と、最終レースで勝った瞬間、嫉妬も恨みも忘れて抱き合ったのも、やはり弱さだったと思えるのです。
人間は弱いです。弱さは悲しいです。だから強くなりたいと願わずにはいられません。
大切な人と支え合って生きていける間、人は強くなれます。しかし大切な人を失ったとき、人は弱くなります。
弱さは誰かを傷つけて、自分も傷つけて、だからそれは甘えだといわれて、人の弱さを許せる人間になりたいものですが、それもむずかしく感じていて、弱いからこそ人間ということもいえるのかもしれませんが、誰かを傷つけたくないし、自分が傷つきたくないし、だから強くなりたいと願うのは強さなのかと考えてみると、はたしてそれが強さなのか自信が持てず――強くなりたいと思いますが、強さってなんなんでしょうねえ……。
――という、締まらない結びになってしまいました(いつものことか……と言う弱さ)。
読書感想まとめ
競馬を通じて人間の弱さが描かれています。その弱さは超高齢社会と呼ばれる現代の日本において、介護の抱える問題にも通じているところがあります。強くなりたいと願いますが、強さとは、はたして何なのでしょうね。
狐人的読書メモ
・本作では大穴の馬が勝つ、という番狂わせが描かれているのも印象的だが、なんとなく2002年のソルトレークシティオリンピック、ショートトラックスピードスケート1000mで金メダルを獲得したスティーブン・ブラッドバリー選手のことが思い浮かんだ。最近ワイドショーで取り上げられていて知ったからだろう。
・ビギナーズラックから賭け事にのめり込むようになるというのは説得力を感じる。ビギナーズラックでも負けるよりはいいはずなんだけれども……。
・賭け事では理性を失くしがちになるようだ。何事においても冷静であらねばならない。わかっているのにそれがむずかしい。
・乳がんの早期発見は重要だと再認識した。
・『競馬/織田作之助』の概要
1946年(昭和21年)『改造』にて初出。嫉妬、生の息苦しさが描かれている。
以上、『競馬/織田作之助』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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