奉教人の死/芥川龍之介=ロオレンゾ×シメオンのBL展開かと思いきや…

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

奉教人の死-芥川龍之介-イメージ

今回は『奉教人の死/芥川龍之介』です。

文字数10000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約33分。

教会に暮らすロオレンゾ。
少女のように優しい声の美少年。
同じ教会に暮らす青年シメオンは
彼を弟のようにかわいがっていたがある日…。

BLを期待した者に待ち受ける衝撃の真実!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

安土桃山時代、日本の長崎の教会サンタ・ルチアに、ロオレンゾというこの国の少年がいた。あるクリスマスの夜、教会の前で行き倒れているのをキリスト教徒たちに助けられ、そのまま教会で養われることになる。

素性を尋ねても、ロオレンゾは「故郷はハライソ(天国)、父の名はデウス(神)」と言うばかりで、何もわからない。が、その固い信心と美しい容姿、まるで少女のように優しい声――神父も宣教師たちも、みながこの少年を愛するようになる。その中でもとくにシメオンは、ロオレンゾをまるで弟のようにかわいがった。

三年の月日が経ち少年が年頃になると、傘張の娘との怪しげな噂が流れる。神父に問い質されたロオレンゾは「そのようなことは知りません」と涙声で繰り返すばかり――そのあわれな様子、日頃の信心……神父はロオレンゾを信じることにする。

ロオレンゾを弟のようにかわいがっているシメオンも心穏やかではなかった。ある日、庭で傘張の娘のラブレターを拾ったシメオンは、そのことをロオレンゾに問い質す。ロオレンゾは「あなたさえ私を疑うのか」と部屋を立ち去ってしまう。シメオンは自分の猜疑心を恥じる。が、まもなくロオレンゾが駆け込んできて、シメオンに抱きつく。「私が悪かったのです。どうか許してください」。

傘張の娘が妊娠した。父親はロオレンゾだと言う。ロオレンゾは破門されサンタ・ルチアを追い出されることになる。シメオンはロオレンゾを殴る。ロオレンゾは「主よお許しください。シメオンは自分が何をしているのか、わかっていないのですから」。ロオレンゾはサンタ・ルチアを去っていった。

その後ロオレンゾは乞食となるしかなかった。蔑まれ、石を投げられ、熱病にかかり――それでも毎夜サンタ・ルチアの前を訪れ、主への祈りはかかさない。が、キリスト教徒たちも神父も宣教師たちも、少年に同情することはなくなっていた。

傘張の娘は女の子を産んだ。父の翁も、さすがに初孫は憎からず思い、大切にした。シメオンもひまあるごとに傘張の家を訪ね、女の子を抱かせてもらい、その顔にロオレンゾの面影を想い涙した。ただ傘張の娘一人、ロオレンゾが姿さえ見せないのを恨めしく思った。

それから一年が経ち、長崎の町を大火が襲う。傘張の家も炎に包まれる。慌てて逃げ出した娘の腕に女の子は抱かれていない。まだあの炎の中に……。シメオンが助けに入ろうとするも、火勢が強くて近づけない。

そこへロオレンゾが現れて、まっしぐらに火の中へ飛び込んでいった。火の中から女の子を救い出したロオレンゾは、全身に大やけどを負って――もはや息絶える寸前だった。

突然、傘張の娘がサンタ・ルチアの神父の前にひざまずき、泣きながら自分の罪を告白した。「この子はロオレンゾ様の子ではありません。私はロオレンゾ様を恋い慕っていましたが、あまりにつれなくされて逆恨みし、あのような嘘をついたのです」。

娘の言っていることが嘘ではないことがすぐに証明された。美しい少年の焦げ破れた衣の破れ目から、清らかな二つの乳房が、玉のように顕れていたから――ロオレンゾは女だった。

神父も宣教師たちもキリスト教徒たちも、シメオンも、誰もが涙せずにはいられなかった。ロオレンゾと呼ばれた少女は、天国の栄光を仰ぎ見て、安らかな微笑みを唇にとどめたまま、静かに息絶えたのだった。

狐人的読書感想

単純におもしろかったです。

「ロオレンゾ(美少年)×シメオン(青年)」のBL展開かと思いきや、「ロオレンゾ(美少女)×シメオン(青年)」の正統派ラブロマンスだったとは……(そこ?)。

純真無垢な主人公やヒロイン、彼らが示す自己犠牲・利他的行動――ひねくれものな僕は、人が示す自己犠牲・利他的行動には懐疑的です(それをするだけのバックボーンが何かあったのでは……ロオレンゾの過去が俄然気になります)。

とはいえ、純真無垢、躊躇なく自己犠牲・利他的行動を取れる主人公やヒロインは、純粋に好きになれますし、憧れますし、感動します。

思えば現実にはなかなかありえない人物像だからこそ、物語の中にそれを求めてしまうのかもしれませんね。

しかし、「心が清らかなさま」というだけでなく、「嘘や偽りなどの心のけがれを知らない様子」を表す純真無垢という言葉。

「嘘や偽りなど……」の部分については、ロオレンゾに当てはめることはできないかもしれません。

というのも、ロオレンゾは自分が女である事実を隠していたから、なんですよね。

その事実を隠してさえいなければ、傘張の娘もロオレンゾのことを諦めていたでしょうし(傘張の娘がレズだった場合を除く)、ロオレンゾも教会を追い出されなくてすんだはずです。

が、ロオレンゾがシメオンのことを信仰を共にする仲間、あるいは兄のように、ばかりでなく、じつは異性としても愛していたのだとしたら、なんだかその気持ちはわからなくないような気がしてきます(そこにロオレンゾの罪があったのでしょうか?)。

やはり宗教的な場所で、互いに何らかの好意を寄せ合う男女が、一緒に生活するのは難しいことのように感じます。

まあ、ロオレンゾの場合、傘張の娘を傷つけないため、という部分が大きかったのだとは思うのですが。しかし作品を読んでみたかぎり、シメオンへの恋慕の情もなくはないか、という気がしています。

理由はどうあれ、誰かのために自己を犠牲にできるというのは、やはりすごいことのように感じてしまい、感動してしまうところですね。

自分ばかりが損をして、自分ばかりがいやな目に遭う、そしてそれが報われるわけではない――それがわかっているにもかかわらず、自分一人がいやなことを引き受けるというのは、見習いたい姿勢だとは思いつつも、絶対自分には無理だと思ってしまいます。

どういった心境なら自己犠牲ってできるものなんでしょうね?

みんなの幸せが自分の幸せだと感じられる心、あるいは誰も見ていなくても神様だけはちゃんと見てくれているという強固な信仰……どちらも持つことが容易ではなく感じられてしまいます。

ロオレンゾとシメオンに幸せになってもらいたかった読書感想でした(……違うか)。

読書感想まとめ

BL展開かと思いきやの正統派ラブロマンス。
自己犠牲の精神と利他的行動について。

狐人的読書メモ

ロオレンゾがみんなから愛された理由は、やはり優れた容姿によるところが大きかったのではないかと、ひねくれものな僕は思う。「かわいいは最強」はマジでひとつの進化の在り方だと思う。パンダとか。確信犯だろ。って感じがする。

てか、女の逆恨み恐し……。

・『奉教人の死/芥川龍之介』の概要

1918年(大正7年)『三田文学』にて初出。芥川龍之介の「キリシタンもの」。『きりしとほろ上人伝』と共に「キリシタンもの」の傑作との呼び声が高い。芥川龍之介の「キリシタンもの」は正直どれもおもしろい。

以上、『奉教人の死/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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