芋粥/芥川龍之介=夢は夢のままで、変化よりも安定を求めて。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

芋粥-芥川龍之介-イメージ

今回は『芋粥/芥川龍之介』です。

文字数16000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約48分。

叶えるまでが夢、祭りは準備が一番楽しい、
相手を落とすまでが恋愛、
みたいな?

夢は夢のまま、安定を求めたほうが、
人は幸せになれるのか?

整形もお笑いも前向きに生きることに違いなく……

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

平安時代、摂政せっしょう藤原基経つねもとに仕えたある五位(下級役人の位)があった。四十を過ぎた五位はみすぼらしい顔と身なりをしていたので、上司、同僚、部下、はては町の子供にまでバカにされていた。

どれだけバカにされても、五位は怒らなかった。彼は意気地のない、臆病な人間だった。人々に蔑まれ、楽しみなど何もない人生を送っているように見える五位にも、たった一つ、ささやかな夢があった。それは、大好物の芋粥を飽きるまで食べてみたい。

当時、芋粥は上流階級の宴に出るようなご馳走で、五位は毎年正月に出るわずかな残り物しか食べたことがなかった。その際、思わず呟いてしまった「芋粥を飽きるまで食べてみたい」という言葉を、その場に居合わせた人に聞かれてしまい、笑われて恥ずかしい思いをした。

五位の呟きを聞いて笑ったのは、その頃基経の恪勤かくごんとなり、勢いのある藤原利仁としひとだった。利仁は軽蔑と憐憫と、自分の権勢を世に喧伝しようという目論見から、五位の望みを叶えてあげようと申し出る。五位は戸惑いつつもその申し出を受ける。

五位は利仁の屋敷に招かれる。こんなにも簡単に夢が叶ってしまってよいものか、いままで何年も我慢して待っていたのはなんだったのだろう、これまでのことが全部無駄なことだったように思えてしかたない――。

そして五位に芋粥が振る舞われる。が、五位は口をつけないうちから、すでに満腹を感じており、そのため用意された芋粥のほとんどを食べることができなかった。

芋粥を飽きるほど食べたい、との夢を持っていた頃の彼は、いまよりも幸福だったのである。

狐人的読書感想

いろいろと考えさせられる小説でした。

テーマは「欲望(夢や願望)は実現していない状態が一番価値があり、実現してしまうと価値がなくなってしまう」といったような「矛盾する人間心理を描いている」ということのようです。

たしかに「叶えるまでが夢」だとか「祭りは準備のときが一番楽しい」だとか「相手を落とすまでが恋愛」みたいな言葉を聞いたことがありますね。

夢は夢のままであり続けたほうが人は幸せなのでしょうかねえ……。

とはいえ、五位は何の努力もせずに、いきなり夢が叶ってしまったから、そこにむなしさや情けなさを感じたのかなあ、と思います。

一生懸命努力して、一つの夢を叶えたら、またつぎの夢を叶えるためにがんばって――その繰り返しが理想の人生だ、という気もします。

人の欲望には際限がない、などと言い直せば、やっぱり夢は夢のままで――と思い直してしまいますが、どうでしょうね?

五位はかわいそうな人だなあ、と思いました。

いじめはよくないだとか、平等な社会だとかいわれますが、人間はどうしても優劣をつけたがり、誰かを見下さずにはいられない生物ですよね。

外見が悪いのは生まれつきでどうしようもないことなのに、周囲の人々は誰も彼もが五位を見下して、嘲笑い、無視して、バカにして――だけど、五位も五位で、なんで反論しなかったのでしょう、なんで状況を改善しようと努めなかったのでしょうね?

反撃が怖くて何も言い出せなかったのかなあ、などとも想像します。そのうちに蔑まれる状況に慣れてきて、諦めて、向上心のようなものを失ってしまったのかもしれません。

いじめに反論したり、状況を変えようとするのは、とても勇気のいることだと思います。それをすることで、もっといじめられるようになったり――どうしても、いまより悪くなることを想像してしまいますよね。

そうであれば「人間は変化よりも安定を求めてしまう」ということがいえる気がして、これは本作のもう一つ大きなテーマになっているように感じました。

よく「整形して自分をバカにしてきた人たちを見返してやりたい」みたいな話を聞くことがあって、賛否両論ある気もしますが、僕としてはこういう人たちの向上心というか敵愾心というか、そういうものはすごいなあ、と感じます。

外見が悪いのを笑いにして、活躍している芸人さんなどはもっとすごいなあ、と感じます。

五位の在り方は、たしかに人間の本質が描かれているように思います。が、それは人間が持つ本質の、一側面に過ぎないというふうにも考えます。

五位の境遇には同情を禁じ得ませんでしたが、もっと能動的に、自分の力で芋粥をいっぱい食べられるように、もっとがんばれ!

――と、五位ではなくて、自分自身に言いたい気持ちになった、というのが今回のオチです。

読書感想まとめ

夢は夢のままで、変化よりも安定を求めて――とはいえ、もっとがんばらなくっちゃ!

狐人的読書メモ

夢、欲望、願望――言葉によって捉え方が若干変わってくるかもしれない。

・『芋粥/芥川龍之介』の概要

1916年(大正5年)『新小説』にて初出。典拠、『今昔物語集』の巻第十六「利仁将軍若時従京敦賀将行五位語第十七」、『宇治拾遺物語』の巻第一「一八利仁薯芋粥の事」。ニコライ・ゴーゴリの『外套』との類似も指摘されている。芥川龍之介の本格的な文壇デビュー作とされる。芋粥は意外とおいしい、らしい。

以上、『芋粥/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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