律子と貞子/太宰治=天空の花嫁選びするつもりで読んでみて。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

律子と貞子-太宰治-イメージ

今回は『律子と貞子/太宰治』です。

文字数5000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約15分。

三浦君は幼なじみの姉妹から花嫁選びをすることに。
姉妹は自分を「お兄ちゃん」と慕っている。
物静かでしっかり者の姉、明るく元気な妹。
「私」なら一瞬も迷わぬが、あなたならどっち?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

三浦君は大学を卒業し、田舎の中学校の先生をすることになり、結婚するかもしれないのだが、姉と妹、どっちにしたらいいか迷っている、一長一短でどうも決心がつかないのだ、と私にいう。

姉妹は、二十二歳の姉の律子、十八歳の妹の貞子、三浦君の遠縁にあたる古い旅館の娘で、二人とも学生時代、三浦君の実家に寄宿していて、三浦君のことを「お兄ちゃん」と呼ぶほど親しい間柄だ。

最近、三浦君は妹のほうから手紙をもらって懐かしくなり、姉妹の実家の旅館へ遊びに出掛けた。妹は三浦君の来訪を喜び、にこにこ話しかけてきて離れようとしない。一方の姉は、旅館の仕事に忙しく、そっけない態度だ。

よく働くしっかり者の姉律子。明るく元気で楽しい妹の貞子。

三浦君に意見を求められた私には明白なことだったが、三浦君の将来について責任を負うことはできない。そこで私は聖書の一節を三浦君に読ませた。

『ある村にマルタという女がいて、イエスを家に迎えた。マルタにはマリヤという妹がいて、イエスの足元でその話を熱心に聞いた。イエスの歓迎に忙しく働いていたマルタが心を乱して言った。「主よ、妹がわたしにばかり歓迎の準備をさせているのを、あなたはなんとも思わないのですか」。イエスは答えた。「マルタよ、あなたは多くのことに心を配り、思い煩っている。しかし欠かせないものはたった一つ、マリヤはそのよいものを選んだのだ。彼女からそれを取り上げてはならない」。』(新約聖書 ルカ福音書10章38~42節)

私は、ただ読ませただけで何の説明もしなかった。三浦君はちょっと考えてから、さびしそうに笑って私に礼を言った。

それから十日後、三浦君から「姉の律子と結婚することに決めた」という意外な手紙がきて、私は義憤に似たものを感じる。なにやっとんじゃ、三浦よ……、読者は如何に思うや?

狐人的読書感想

まさに贅沢な悩み、リア充ですね、三浦君!

読んでいて、ドラクエ5の花嫁選び、ビアンカとフローラ(とデボラ)を思い浮かべたのは僕だけ?(とくに『私は、義憤に似たものを感じた』というところなのですが、どうでしょう?)

まあ、いまや、男性向け(ギャルゲー)および女性向け(乙女ゲー)の恋愛シミュレーションゲームでありふれたシチュエーションですが、姉妹のうちどちらかを結婚相手として選ぶというのは、現実的にどうなんでしょうねえ……、ちょっと気になるところです。

よく働くしっかり者の姉キャラと明るく元気な妹キャラ、あなたならどちらを選びますか――と、読者にも問いかけているところがおもしろいですね。単純な二択なので、誰とでも気軽に楽しめそうな話題です。

三浦君は結局お姉さんのほうを選びましたが、これはいかにもまじめで勤勉だといわれる日本人らしい選択だと思いました(いまでは古い考え方かもしれませんが)。

だけど、「私」に見せたさびしそうな表情から察するに、本当はやはり妹のほうに惹かれていたんじゃないかなあ、とは感じられるんですよね。

そうなると、「私」がした聖書の一節を示す行為は余計なことだったようにも思えるのですが、「私」はそれを示して妹を選ぶのが良いと言いたかったわけですから、物語などで暗示的に物事を示されたとき、人によって捉え方が違ってくるのだということは、考えずにはいられませんね。

聖書の一節の解釈は、マルタのように働いて奉仕することも、マリヤのように相手の話を熱心に聞いて奉仕することも、どちらも大切なことなのだといいたいのでしょうが、どうしてもうがった見方をしてしまいますよね、これ。

姉のマルタも妹のマリヤも(イケメン)イエスに惚れていて、どちらもそれぞれの方法でイエスの気を惹こうとしているのだけれど、やっぱり自分の話を熱心に聞いてくれるマリヤのほうがイエスには良く見えていて、それに不満を覚えたマルタが思わず不平を漏らすわけなのですが、イエスは妹のマリヤをかばうという――そういうふうに読んでみると、イエスが妹を選んでいるのは明らかで、きっと太宰治さんもこんな感じで聖書を読んでいて、だから三浦君にも読ませたわけなのですが、結果は予想に反したものとなり、なにやっとんじゃ三浦よ、となってしまったのでしょうね(たぶん)。

明るくて元気で楽しくて、あけすけに自分のことを慕ってくれる女の子に、やはり男子は弱いのだ、ということを太宰さん(イエスさんも?)はいいたかったんですかねえ。

とはいえ、よく働いてしっかり者で物静かな女の子のほうが、結婚相手としては適していると考えた三浦君の気持ちもわかります。

てか、こういう現代の恋愛ゲームで見られるような悩み(?)が、昔の聖書にも見られるというあたりに、今も昔も変わらない人間らしさみたいなものが感じられて(だいぶ読み方が偏ってはいますが)、おもしろく思いました。

読書感想まとめ

ぜひ、恋愛ゲームをするつもりで読んでみてください。

狐人的読書メモ

まったく関係のないドラクエ5の花嫁選びの話に戻るのだが、幼なじみで母親を病気で亡くし、やはり病気の父親と山奥の村で暮らすビアンカを心情的には選びたくなってしまう気がする。だからフローラ(またはデボラ)を選んだ友人に、『私は、義憤に似たものを感じた』という話。

・『律子と貞子/太宰治』の概要

1942年(昭和17年)『若草』にて初出。聖書の内容が下敷きとなっている短編小説。ドラクエ5好き、恋愛ゲーム好きにおすすめ。話題に挙げたら意外と楽しめそうな気がする。

以上、『律子と貞子/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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