皮膚と心/太宰治=自然に気を遣えるのが夫婦であるということ?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

皮膚と心-太宰治-イメージ

今回は『皮膚と心/太宰治』です。

文字数16000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約37分。

ブスな私は結婚してくれた夫に感謝する。再婚、無学歴・無財産なあの人は、過剰に妻を気遣ってしまう。劣等感からくる気遣いはなんだか寂しい。自然に気遣える関係が本当の夫婦ってこと?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

28歳の女性である「私」は、おたふくと自称する醜い顔から結婚を諦めていたが、つい今年の3月に結婚する。

「あの人」は35歳のデザイナーで、有名な化粧品メーカーのロゴを手がけ、最近は収入も安定してきているが、初婚ではなく、学歴もなく、親兄弟もなく、財産もなく――やはりもう結婚は諦めていた。

夫婦となった「私」と「あの人」は、自身の容貌や経歴のことで、お互いに引け目を感じており、相手に気を遣ってしまう。

その優しさはもちろん引き目ばかりのものではないのだと、理解しているつもりの「私」だが、そのことに寂しさを感じずにはいられない。

そんな「私」の胸の下に吹き出物ができ、それは瞬く間に全身に拡がっていく。昔から皮膚病というものに嫌悪感を抱いていた「私」は激しいショックを受ける。

6月のはじめ、吹き出物のことを「あの人」に打ち明けると、「あの人」はいろいろと優しく気遣ってくれて、病院へ連れて行ってくれる。

顔も肌も醜くなってはもう終わりだ、と絶望していた「私」だったが、病院の待合室で、自分への自信のなさ、「あの人」が初婚でないことへの嫉妬、女としての自分――いろいろな葛藤が頭を巡り、ふいに何かを吹っ切ったような心境に至る。

「いろんなことを考えたのよ。あたし、ばかだわ。あたし、しんから狂っていたの。」
「むりがねえよ。わかるさ。」

結局、「私」はアレルギーだと診断されて、注射を打った帰り道、陽の光に両手をかざすと、そこにあった吹き出物はもう治っていた。

「うれしいか?」

「あの人」にそう言われて、「私」は恥ずかしく思った。

狐人的読書感想

とてもいい小説でした。

これまで読んできた太宰作品の中でも、トップクラスに好きな作品かもしれません。

新婚夫婦の絆が感じられる物語でしたが、妻も夫も、互いに引け目、劣等感を抱いていて、そのため相手に気を遣ったり、過剰に優しくしている、あるいはされていると感じてしまっている、というあたり、あまり考えたことがなく、新鮮な思いで読みました。

思えば気遣いや優しさの根底には、必ず劣等感というものがあるのかもしれません。自分に自信がないから謙虚になれるのだし、自分が心を痛めてきたからこそ相手の心の痛みもわかるのだと、たしかにそんな気がします。

僕はこの小説を読んで、自分をおたふくだと言う「私」の顔を「いい顔だと思うよ。おれは、好きだ。」と言ってくれる「あの人」を、とても素敵な旦那さんだと思い、「結婚して、私は幸福でございました。」と素直に感じられる「私」を、とても素敵なお嫁さんだと思いました。

しかしその根底に、自分に対する自信のなさ、劣等感、卑屈な思いがあるのだとしたら、「私」が言っているように、それはなんだか寂しいことのようにも感じます。

とはいえ、結婚生活に多少の気遣いはやっぱり必要ですよね。

劣等感や卑屈さを感じさせないような、自然な気の遣い方ができる関係が、本当の夫婦のあり方なのかなあ、と感じ、「私」と「あの人」にも今後そのような夫婦になってほしいなあ、なんて、勝手に願ってしまうのですが、どうなんでしょうね?

病気や大きな事故にあうと人が変わる、みたいなことはよくいわれますが、「私」のアレルギーも、今後の夫婦関係にいい方向へ、「私」を変えてくれたのではないかと、そんなふうに感じられた、今回の読書感想でした。

読書感想まとめ

自然に気を遣えるのが夫婦であるということ?

狐人的読書メモ

・「あの人」のデザインした「銀座の有名な化粧品店の、蔓バラ模様の商標」とは、やはり資生堂の椿の花のデザインを意識したものであるらしい。太宰治は資生堂のデザインに、何か惹かれるものを感じていたのかもしれない。

・自分の好きなロゴが「あの人」のデザインしたものだと知り、「胸がときめいた」と語る「私」――「私は、人間太宰治と結婚したのではなくて、芸術家と結婚したのです」「良い作品のためならどんな犠牲もはらいます」と言ったという、太宰治の2番目の妻、美知子を彷彿とさせられた。

・『痛さと、くすぐったさと、痒さと、三つのうちで、どれが一ばん苦しいか。』――という論題はとても興味深く思った。「私」が言うように、痛さとくすぐったさは、刑罰でも絶命という終わりをイメージしやすいが、痒さはイメージしにくい。実際の刑罰でも痒い毒を持つ虫を使ったものが最もきついという話もある。

・「女が永遠に口に出して言ってはいけない言葉」として「プロステチウト」(プロスティチュート)が出てくるが、これは娼婦の意味である。

・『皮膚と心/太宰治』の概要

1939年(昭和14年)11月、『文学界』にて初出。太宰治が「男のくせに、顔の吹出物をひどく気にする」と語る自身の気質から着想を得たという。他作にも見られる女性独白体が印象的な小説。

以上、『皮膚と心/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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