狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『モノグラム/江戸川乱歩』です。
文字数11000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約29分。
主人公はある若者にデジャヴを感じる。
若者の正体、モノグラムに秘められし青春。
二重のびっくりと二重のがっかり。
自分と同じ顔の人、科学的には存在するそうですが、
会いたい?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
四十歳、失業中の栗原一造は浅草公園のベンチに座ってぼんやりしていた。そこへ三十前後の若者がやってくる。ふと目が合う。若者は栗原の隣に腰かけて、「どこかでお会いしましたね」と口を切る。
若者は田中三良と名乗る。栗原はその名前に覚えがない。しかし、たしかに田中の言うとおり、栗原はこの若者にどこかで出会っているような気がする。田中の笑顔は親しい誰かのような、妙に懐かしい感じがする。
そこで栗原と田中はひまつぶしに、互いの経歴について語り合うが、住んでいた場所や旅行した場所、その期間はまったくかみ合わず、二人が知り合う機会はほとんどなかったことがわかる。
それでも話をしているうち、二人は互いが知り合いであることを確信する。が、誰なのかがどうしても思い出せない。しかたなく、その日栗原と田中は連絡先を交換して別れた。
四、五日後、栗原はふと田中の下宿先を訪ねてみる。すると田中は「わかりました、北川すみ子という女性をご存知でしょうか」と尋ねてくる。栗原はその名前を知っていた。
北川すみ子は栗原が学生時代に片思いをしていた相手だった。美しい人で、仲間内の集まりがあれば、いつもクイーンといった感じの女性だった。結局この片思いは実ることなく、栗原はすみ子と同じ女学校を出たお園と結婚した。
姉はある事情で小さい頃北川家へ養子に出され、女学校を卒業する頃やはりやむを得ない事情で田中家へ戻され、それからまもなく病気でなくなった――田中はすみ子の弟だった。なるほど、田中の顔にはたしかにすみ子の面影があった。
田中はすみ子の形見だという懐中鏡を栗原に見せる。鏡の裏には若い頃の栗原の写真が隠されており、田中はその写真で栗原の顔を知っていたのだ。さらに鏡には、SとIの刺繍がしてあり――田中は、「すみ子のS」と「一造のI」に違いない、姉は栗原のことが好きだったのだと指摘する。
栗原は懐中鏡とすみ子の写真をもらい受けて家に帰る。すみ子が自分のことを好きだったなんて――まだ信じられなかった。しかし嬉しくないわけがなく、それからはすみ子のことばかり考えるようになる。
ある日、妻のお園に懐中時計と写真が見つかってしまう。妻のヒステリーを恐れる栗原だったが、案に反して、お園はそれらを懐かしそうに手に取る。あら、女学校の修学旅行のとき、手提げごと盗まれたとばかり思っていたのに……。
Sは園のSだった。写真も妻が入れていたものだった。女学校時代、すみ子の手癖の悪さはクラスでは有名だったらしい。
栗原は二重にがっかりした。
狐人的読書感想
おもしろかったです。
すみ子のSじゃなくて、園のSだったんですね。読書中、途中で気がついてもよさそうなものでしたが、僕は最後まで気づけませんでした。
ちなみにタイトルの『モノグラム』とは、2つの文字を組み合わせた記号のことで、作中ではIとSの組み合わせ文字のことを表しています。日本ではルイ・ヴィトンのLとVが有名ですかね。
さて、このモノグラムから、かつて片思いをしていた相手が自分のことを好きだったのだ、という勘違いをしてしまった栗原の気持ちは想像しやすいですね。
自分が好きな人が自分を好きかもしれない、と想像するのはとても楽しいことのように感じます。とはいえ、それが二十数年も経ってのことだったらどうなんだろう? という気はしましたが。
栗原と田中がお互いの顔を見て覚えた感覚・体験をとても興味深く思いました。既視感――デジャヴといっていいんでしょうかね。
たしかに見たことがあるんだけど、いつ、どこで見たのか思い出せない、といった感じです。
デジャヴは「すでに見た」というフランス語由来の言葉、たくさんの説はあってもはっきりとした理由はわかっていないのだそうです。
同じく江戸川乱歩さんの『パノラマ島奇談』とか、『STEINS;GATE』(線形拘束のフェノグラム、負荷領域のデジャヴ)とか、小説やゲームやアニメや映画で取り上げられることも多いデジャヴですが、けっこう体験したことのある人も多いかもしれません。
ネットで調べてみると、健康な人の6割ほどがデジャヴを体験したことがあるといいます。
僕は似たようなことを思ったことはあっても、それをはっきりとデジャヴだと意識したことはないような気がします。振り返って見ると、これじゃないかな? ということがあるように思います。
デジャヴが起こりやすい人の特徴は、①15~25歳の若者、②感受性豊かな人、③強いストレスを感じている人、④よく旅行に行く人、だといいますから、ひきこもりで鈍い僕はデジャヴを感じにくいんですかねえ……。
デジャヴに興味を持ったという雑談でした。
もう一つついでに、僕は、栗原も田中も相手にそっくりな人をどこかで見たのではなかろうか、などと、ふと思ったんですよね。
世界には自分に似た人が3人いる、みたいな話を聞いたことがありますが、どうなんでしょうね?
SNSやインスタグラムが流行っている昨今では、なんとなく、自分のソックリさんを見つけるのも簡単になっているようなイメージを持ちますが。
科学的には「顔の特徴を決める遺伝子の数は限られている」ため、同じ顔の人間が存在するのはそれほど不思議なことではないのだそうです。
自分と同じ顔の人がどのような人生を歩んでいるのか、というのは興味があるようにも感じますが、一方でまた、会いたくないなあ、という気持ちもあるように思います。
こちらもなかなかに興味深い題材だと思いました。
読書感想まとめ
好きな人が自分を好きかもしれないと想像するとニヤニヤしてしまいます。「デジャヴ」と「世界には自分に似た人が3人いる」ということは、創作のテーマとして興味深く思います。
狐人的読書メモ
勝手に他人を理想化して、勝手に現実とのギャップに失望して――これは人間のエゴであり、相手に対して失礼なことかもしれない。
・『モノグラム/江戸川乱歩』の概要
1926年(大正15年)6月『新小説』にて初出。江戸川乱歩の初期短編。モノグラム。デジャヴ。ダブル。
以上、『モノグラム/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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