狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『やまなし/宮沢賢治』です。
文字数3000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約7分。
不思議とみんなの心に残る童話。
クラムボンとは何なのか?
カニの吐く泡?
プランクトン?
コロボックル?
人間の子供?
ソ連のスパイ?
クラムボンは正体を明かしてはいけない……
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
1.5月
小さな谷川の底で、二匹のカニの兄弟が、クラムボンについて話をしている。クラムボンはかぷかぷ笑い、跳ねて笑い、とにかくよく笑う。水中や天井をつぶつぶ泡が流れていく。
一匹の魚が頭上を通り過ぎていく。カニの兄弟の話によれば、どうやらクラムボンは魚に食べられてしまったらしい。魚は何か悪いことをしているのだという。
その魚は、いきなり飛び込んできたカワセミに食べられてしまう。お父さんカニが怯える兄弟カニをなだめる。
2.12月
カニの兄弟もだいぶ大きくなり、吐く泡の大きさを比べている。お父さんカニは「もう遅いから寝ろ、明日イサドへ連れていかんぞ」と兄弟カニをたしなめるが、弟カニは自分の泡のほうが大きいのだと駄々をこねて泣き出しそう――
そこに山梨が落ちてくる。いい匂いがする。お父さんカニによれば、二日ばかりすると、山梨は下へ沈んできて、おいしいお酒ができるという。三匹の親子のカニは、棲み処の穴に帰っていく。
狐人的読書感想
これはすごい童話ですよね。
不思議と心に残りますね。
クラムボン。
クラムボンってなんだよ!
という感じですが(もちろん、それ以外の水底の情景描写なんかもいいのですが、やはり一番はコレという気がします)。
クラムボンの正体についてはよくわかっていないのだそうです。
というか、「クラムボンは正体を明かしてはいけない」、という説が現代の主流となっているようです。
『やまなし』は、小学校6年生くらいの国語教科書に採用されており、学校で習うお話のようですが、教育的な観点からすると、自由にのびのびと想像してみることが重要視されているみたいですね。
とはいえ気になりますよねえ、クラムボンの正体。
なので以下に、いくつか説を書き綴っておきます。
・クラムボンはソ連のスパイ説
ロシア政府が2009年に公開した旧ソビエト連邦時代の外交機密文書の中に、宮沢賢治とクラムボンの名前がありました。
それによれば、二人は日本で諜報活動を行うソ連側のスパイで、「クラムボン」とはロシア人スパイのセルゲイ=ブレジネフのコードネームでした。
『やまなし』は、ブレジネフが日本の公安警察によって排除されたことを伝えている暗号文章なのだとか……、んなわけあるか!
ネット上の嘘情報でした。
でも、おもしろかったので、書き残しておこうと思いました。
・クラムボンは人間の子供説
川に遊びに来ていた人間の子供が、何者かによって命を奪われるシーンを、川底に住むカニの兄弟が偶然目撃したのだとする説です。
とにかくよく笑うのは子供だからということで、カワセミと思われていたのはモリを持った犯人ということなのですが、レジャーにきている子供を襲い、しかもそのあとにしっかり魚も獲っているって……、サイコ過ぎて意味不明ですが(しかも状況的に犯人は親の可能性も……)。
やはりおもしろい説だったので、一応書いておきます。
・クラムボンはコロボックル説
宮沢賢治さんはアイヌ文化に造詣が深く、クラムボンは「kur=人」「ram=低い」「pon(bon)=子」とアイヌ語の単語にそれぞれ分解することができ、これはアイヌに伝わる伝説の小人・コロボックルだと考えられるという説です(ちなみにイサドは「i=そこの」「sat=乾いた」「to=沼」で「例の乾いた沼」となります)。
ファンタジックでおもしろく感じましたが、コロボックルが魚に食べられてしまうというのは、ちょっとイメージしにくいように思いました。
・クラムボンはプランクトン説
カニは英語でクラブ(crab)、プランクトン(plankton)と合わせてクラムボンという造語になったという説ですが、なるほどなあ、と思いました。
造語ということよりも、1.のテーマをよく表せるように思えたからです。
プランクトン(クラムボン)は魚に食べられ、プランクトン(クラムボン)を食べた魚はカワセミに食べられてしまいます。
これは明らかに食物連鎖を表していますよね。
『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』という魚のことを言った兄カニのセリフにも、宮沢賢治さんらしい思想が垣間見えるんですよね。
説得力のある説だと、僕は思ったのですが、現在ではあまり支持されていないとのこと、なぜなのでしょうねえ……。
・クラムボンはカニの吐く泡説
カニ(crab)+泡(bomb)でクラムボンという造語だとするのもわかりやすく、やはり作中に多用されている「泡」と同一視するのは自然な流れという気がして、有力説の一つです。
「朗読」をテーマにしたマンガ『花もて語れ』の第一巻でも『やまなし』が取り上げられていて、セリフのボキャブラリーの少なさからカニの兄弟を兄:4~5歳、弟:2~3歳くらいの幼児としており、小さなカニの視点では水深30cmは高さ30m、直径5mmの泡は50cmの大きな球体に見えることから、この泡を空想上の生き物のように捉えていたというのは、たしかに説得力があります。
クラムボン(泡)が幼児の想像上の生物だとするならば、泡(生物)が魚に食べられてしまうという描写もすんなり受け入れられるので、食物連鎖というテーマを表すにも無理はないように感じられます。
さらに、2.でカニの兄弟が会話中「クラムボン」ではなく「泡」と言っているところが気になりましたが、冒頭に『蟹の子供らはもうよほど大きくなり、……』とあるので、成長して泡が生き物ではないことを理解したのだ、ともとれますよね。
以上のことから、やっぱりクラムボンは「泡」だと思うのですが、とはいえいろいろ想像できたほうが楽しいような気がして(ミロのヴィーナスの腕みたいに)、教育の世界での定説である「クラムボンは正体を明かしてはいけない説」でいいのかなあ、といった感じもしますが、どうでしょうね?
タイトルの『やまなし』については、2.のテーマが著者の本当に言いたかったことなのだと捉えれば納得できます。
「1.5月」は食物連鎖、奪う世界が描かれているのに対し、「2.12月」は自己犠牲、与える世界が描かれており、たしかに道義的な理想は2.ということはいえそうですが、しかし何かを犠牲にせずに生き物は生きられないわけであって……、現実と理想のギャップ、というか、そこは割り切るしかないでしょ、というか、いいたいことはわかるのだけれど、というか……、そんな感じですかねえ(どんな感じ?)。
とにかく心に残る童話です。おそらく、多くの人の心に残っている作品なのではないでしょうか。おすすめするまでもなくおすすめです。
読書感想まとめ
クラムボンは正体を明かしてはいけない。
狐人的読書メモ
他に、やまなしの花説、アメンボ説、光説、母カニ説、カニ語説、妹のトシ子説、全反射の双対現象として生じる外景の円形像説、などなど、じつに多様な説があり、いかようにも想像できるのが楽しい。
・『やまなし/宮沢賢治』の概要
1923年(大正12年)『岩手毎日新聞』にて初出。賢治の数少ない生前発表童話の一つ。じつに多種多様な想像ができて楽しい童話。6年生教科書に掲載されている。多くの人の心に不思議と残っている作品ではなかろうか。
以上、『やまなし/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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