狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『雨ばけ/泉鏡花』です。
文字数4000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約15分。
油売りの首が雨笠ごとポトリと落ちた。
怪異譚だけど怖くない。
なぜなら怪異は、常にあなたのそばに、
自然とあるものだから。
クサビラ神、キノコの娘。
日本でキノコは昔から愛される存在。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
中国、雨の降り出しそうな陰気な夕暮れ時、邸宅が続く町の通りを、一人の役人が従者を従えて通りかかった。と、前方に、青牛(小形の牛)に乗って進み行く者の姿が朦朧と見える。
大きな雨笠を、合羽を着た両肩が隠れるほど深くかぶり、ときどき「とう、とう、とうとう」と口の中で呟きながら、前を進んでいく。どうやら油屋のようだ。
従者が「道を開けろ」と叱ったが、油売りは振り向きもせず、青牛もまたのそりのそりと歩き続ける。顔色を変えて怒った従者は、石垣に身体を擦りながら、鞍の横にふんばって、肘でドンと油売りの身体を小突いた。油売りの首が雨笠ごとポトリと落ちた。
主従が驚きに目を見張っていると、首のない胴が鞍を一つ揺すり、青牛は駆け出した。なんと奇怪な、くせものめ! 役人は急いでその後を追った。
青牛は大きな屋敷の門内へ入ると、正面玄関の右わき、庭園に続く木戸の傍にある、古い槐の大木の、その根元まできて、ぽっ、煙のように消えてしまった。
役人はしばらく呆然としたのち、家の下男に声をかけた。屋敷に入り槐の根元を調べてみると、そこには手に余るほどの大きなキノコが一本、笠は落ちている。その近くには大きなガマガエル。井戸水を汲むための桶には、槐の樹液が雨のように滴っている。
すなわち、油売りはキノコ、青牛はガマガエル、槐の樹液は油――妖怪だった。ガマガエルが「とう。とう、とうとう」と鳴くと、キノコの軸がぶるぶる震え、桶の箍がきしみ――やがて雨が降り出した。
屋敷の家令が役人を見送るとき、門際の古井戸を覗かせて、こんな話をした。
つい先日も、雑炊をつくるためにこの井戸の水を汲ませようとしたら、どんなに力を入れても桶が上がってこない。数人で勢いよく引っ張ると、アハハと笑う化物がいた。井戸に逃げ込もうとする化物の頭を掴むと、その帽子だけが抜けて残り、生垣にひっかけておいたら、この頃雨続き、その帽子があれです。
それはイグチに似たキノコだった。
この話が知れ渡ると、この近辺で油を買った人々が、塩や楊枝を使って口の中を清めようと、大騒動になったという――怪異譚、私はこの話が好きだ、たそがれのしょぼしょぼ雨、しぐれが目に浮かぶ。
狐人的読書感想
僕もこの話が好きになりました。
キノコの妖怪が怖いといえば怖いのですが、人に致命的な害を及ぼしているわけでもなくて、ただ自然とそこにあるもののような描かれ方をされているのが、なんだかいいなと感じるんですよね。
『雨ばけ』は中国の怪異譚を著者(泉鏡花さん)が紹介しているような形式で書かれているのですが、ちょっと調べてみると、日本にもキノコにまつわる怪異譚があります。
それは滋賀県栗東市にある菌神社(菌とはキノコのこと)で祀られているという「クサビラ神」についてです。
大昔の大飢饉のとき、そのあたりにキノコがたくさん生えてきて、多くの人々の命を救った――という言い伝えがあります。
水木しげるさんも著書の中で取り上げているそうで、それによればやはり大昔、大飢饉に襲われた滋賀県北東部で、ある男が空腹のため朦朧と森の近くを歩いていると、目の前を小さな何かが歩いているのが見えて、森の中へと消えていく……、男がその後を追って森の中を進むと、たくさんのキノコが生えている場所にたどり着き、人々はそのキノコを食べて飢えをしのぐことができたといいます。
日本でも、キノコの妖怪(神)は人に害を与える存在ではなくて、むしろ善いことをする存在として知られているみたいですね。
クサビラ神で検索してみたら、『天下統一クロニクル』というゲームのキャラクターになっていました(『【クリスマス】クサビラ神 ―R―』)。たぶんクサビラ神はそんなに有名な妖怪(神)ではないと思うのですが、最近はなんでも擬人化キャラ化されているなあ、などとちょっと驚いたところです。
そういえば、前にキノコを取り扱った作品の読書感想で、『oso的キノコ擬人化図鑑』なるものを紹介したことがありました。『森の妖精 キノコの娘』というタイトルでアニメ化するとの話でしたが。
キノコ擬人化の歴史はかなり古いです。サハラ砂漠にある紀元前1万年の壁画に描かれていたり、日本の室町時代の『精進魚類物語』という作品に見られたりします。
マリオとか、なめことか、サイクル的にキノコブームみたいなものもあったりして、日本では昔から愛される存在として「妖怪化、神格化、擬人化されたキノコ」があるように思えます。
そう思えば、やっぱり、キノコの怪異は怖いものというよりは、もっと身近な自然にあるものだという気がします。
怪異や妖怪といえば当然のごとく、怖いもののイメージが先行するので、なんだか不思議な感じですが……。
先月は雨ばかり続きましたね。キノコの季節、秋はもう過ぎ去ろうとしていますか……。
怪異好き、キノコ好きに、とくにおすすめします。
読書感想まとめ
そんなに怖くない、身近に感じられるキノコの怪異譚。
狐人的読書メモ
てか、感想最初の一行だけて……。
・『雨ばけ/泉鏡花』の概要
1923年(大正12年)『随筆』にて初出。キノコ怪異譚。雨の日、秋の日におすすめ。
以上、『雨ばけ/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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