狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『女客/泉鏡花』です。
文字数9000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約24分。
いとこで、同い年で、同郷の人妻と部屋に二人きりで。
独特の雰囲気。広く使えそうなシチュ。優れた構成力。
子は浮気な母の中に恐い鼬を見る。
あなたの中にも恐い鼬がいるかもしれませんよ?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
二階の部屋で書き物をしている主人のもとへ、女が手紙を届けに入ってくる。この家の主人・謹は独身、普段は母親と二人暮らし、女中を一人置いている。
女の名はお民といい、一蒔絵師の妻で、五歳の男の子を連れてこの度上京し、しばらくこの家に滞在していた。謹とお民は同い年、いとこ同士の間柄であり、昔から親しく付き合いがあった。
部屋に入ってきたお民の様子は、人妻の艶があって美しい。他愛のない会話を交わす二人。お民の子も謹の母も下で眠っているようで、女中は買い物に出かけてしまった。
それではお話をしていきなさいと勧める謹、では寒いでしょうから障子を閉めましょうと言うお民、貴女がいるのに閉めておくのは気になります――が、そっと障子は閉められる。
二人は火鉢を挟んで向かい合うと話し始める。
謹には暮らしが貧しい一時期があった。母親を満足に食べさせることもできず、道すがらの濠に身投げしようかと考える毎日。お民は当時そのことに気づいてやることができず、何もしてやれなかった自分を悔いていた。
しかし謹は言う。貴女がいてくれたから、自分は生きる気力を失わずにすんだのだ。濠へ何度も飛び込もうとしたとき、貴女を思って踏み止まることができたのだと。
お民は言う。私にもつらいときがある。故郷に帰ってそんなときには、お濠端を歩いて貴方の姿を探しましょう。こんな私の影は、月に照らされて、鼬にでも見えるかもしれないけれど。
謹はお民の手を取った。帰さない――
そのとき、階下から子供の泣き声が響いてきた。お民は立ち上がり階下へ、しばらくして子供を抱いて戻ってくる。子供はひどく怯えていた。夢を見たらしい。お濠に鼬が出てくる夢を……。
ああ、女中さんご苦労様でした。謹さん、早く奥さんを持ってください。ここは閉めないで行きますよ。
狐人的読書感想
独特の雰囲気があっていいですね、泉鏡花さんは。いつも美文調の文章が読みにくいのが難点なのですが、しかしこれが独特の雰囲気を作っている部分はやはり否めないので、読むのも評価も難しいところです。
さて本作は、昔から密かに想い合っていた男女が、それぞれ別々の道を歩み、いつか再開して通じ合うみたいな、ドラマや映画なんかではありがちなシチュエーションという気がします。
日常でも、まったくなくはないのかなあ、といった感じです。
たとえば、ちょっといいかな、とか、友達くらいに思っている異性と偶然二人きりになって、その場の流れで――みたいな感じですかねえ(……どうでしょう?)。
なんとなく創作において幅広く使えそうな設定という気がして勉強になりました。
今回の読書では暗示的な描写も秀逸だと感じました。
はじめ、謹さんとお民さんが二階の部屋で二人きりになったとき、お民さんが部屋の障子を閉めることで二人だけの空間が完成しますが、最後、お民さんがそれを開け放して行ったことで、二人の関係は進展せず、これまでどおりのいとこ同士に戻ってきたのだという――現実回帰の余韻がありますよね。
『これから別れて帰りましたら、私もまた、月夜にお濠端を歩行きましょう。そして貴下、謹さんのお姿が、そこへ出るのを見ましょうよ。』――なんとな~く甘~いようなお民さんの幻想の中で、自分を鼬にたとえるところは、その後、お民さんの子供が見た夢と重なっている点も印象深いです。
たとえ人妻でも、一時の恋愛の熱情に流されてしまい、子供も夫もどうでもよくなってしまう、というのはあるような気はするんですよね(やっぱりメロドラマの印象が強いですが、だけどそうでなかったら現実に浮気があるわけがないので、あるような気がするのではなくてあるんですよねやっぱり)。
『ううむ、内じゃないの。お濠ン許で、長い尻尾で、あの、目が光って、私、私を睨んで、恐かったの。』――子供からすれば、鼬は自分よりも男を優先しようとする悪い母親の化身であり、たしかに恐いものに違いありません。
これを言われてしまったら、どんな熱情に身を焦がしていたとしても、母親ならば恋を諦めざるを得ないでしょうね。
妻は夫や子供を愛していても、他の男性を好きになってしまうことがある。また、夫は妻や子供を愛していても、他の女性を好きになってしまうことがある。
それは道徳的によくないことなのでしょうが、自然な人間感情の揺らぎだとも思えるんですよね。
とはいえ、自分が浮気されたとして、それを許せるのかはまた別の話だとは思いますけれども……。
人間、なかなか確固たる気持ちというのは持ち得ないものです。
それが人間の心の弱さであり、また強さにも通じているという気がします。
謹さんとお民さんの二人の会話を聞いていると、なんだか結ばれてほしかったような気がしないでもないのですが、だけどやっぱり子供のことを考えれば、この結末がベストだと言えそうですよね。
若干浮気肯定派のほうに気持ちが傾きかけたけれども、やっぱり浮気はダメです――というふうに、僕の気持ちも揺らいでしまった、というのが今回のオチです。
読書感想まとめ
浮気しちゃう気持ちがわかりかけたけれども、子供のことを思えばやっぱり浮気はダメなことですね。
狐人的読書メモ
とにかく構成がすばらしいと感じた。構成力とはどのようにして身につけるものなのか……(要勉強)。
・『女客/泉鏡花』の概要
1905年(明治38年)『中央公論』にて初出。独特の雰囲気、創作に広く使えそうなシチュエーション、秀逸な構成力――学ぶべき点の多い作品だった。
以上、『女客/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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