冬の日/梶井基次郎=メンヘラ文学は一つの頂点?コロッサールな小説!

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

冬の日-梶井基次郎-イメージ

今回は『冬の日/梶井基次郎』です。

文字数12000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約44分。

冬の日に見る生の絶望。梶井基次郎のメンヘラ文学。
文学的一つの頂点をなす小説。

金魚の仔のようなたん。コロッサールな悲しみ。

気遣いや親切は相手を傷つけ、気兼ねなく話せる友を思う。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

1.

冬至に間もない頃、たかしは窓の外を眺めていた。桜の最後の葉がなくなり、けやきが風にかさかさ身を震わせるたび、隠されていた風景が現れる。肺結核のために洗面のつど吐くたんは、まるで金魚の仔のようだ。路上の小さな石粒は、どんなに小さなものでも一つ一つが影を持っている。それはエジプトのピラミッドのような、巨大コロッサールな悲しみを浮かべている。この頃、堯は生きる熱意を感じなくなっていた。

2.

堯が受け取った母からの手紙には、堯を心配する母の気持ちが綴られていた。人々の寝静まった夜、堯と母は互いのことで悩み苦しんでいる。堯の不吉な拍動はくどうが、母の眠りを妨げないとは誰にも言い切れないだろう。どうして医者は、「今の一年は後の十年だ」などと言うのだろう。何か自分が、十年で到達すべき理想でも持っているかのように。生きる意志を奪われ、取り返し、また奪われ、その繰り返し。堯は陰鬱な心で呟く。「おやすみなさい、お母さん」。

3.

堯は家の門を出た。冬の日の風景、黄色に染まった芝や公孫樹いちょう、郵便局の扉が開閉のたびまき散らす朝の新鮮な空気。遊ぶ童子や童女の姿は、自分が子供の頃の情景を思い出させて、堯は微笑みを浮かべる。希望を持てないものが、どうして追憶をいつくしむことができよう。が、日が沈んでしまうと、堯は外から見る自分の部屋の中に、ドッペルゲンガーの存在を感じてしまう。

4.

「何をしに自分は来たのだ」。風が枯葉をさらってしまった頃、夜、堯はクリスマスや歳末の売り出しで賑わう銀座に来ていた。金と健康を持っている人はみんな誰かと一緒で、みんな誰かを待っている。「何をしに自分は来たのだ」。

5.

冬至が過ぎた頃、友人の折田が訪ねてきた。折田は他の友達の噂や学校の話などをしてくれた。ふと、折田が肺結核の自分の茶碗で茶を飲んでいるのが気になった。だんだんと気分が重くなってきた。肺病の茶碗を使うのは平気なのか? いやならいやだとはっきり言ってほしい――言ってしまった。折田は少し黙ると、「しばらく誰も来なかったかい」と訊ねた。「しばらく誰も来なかった」。堯にはなぜかこの会話が快かった。

6.

堯を駆り立てるものは、遠い地平へ落ちていく太陽の姿だった。どの日もどの日も消えてゆく冬の日に、もう耐えることができなくなった。「あああ大きな落日が見たい」。堯は家を出て、展望のいい場所を探した。夕焼けの照らす町の情景は切なかった。空では浮雲がつぎからつぎへと燃えていった。「こんなに美しいときが、なぜこんなに短いのだろう」。燃えた雲は灰となる――堯の心はもう再び明るくはならなかった。

狐人的読書感想

冬の日-梶井基次郎-狐人的読書感想-イメージ

現在でいうところの、メンヘラという言葉を当てはめてしまってもいいんでしょうかね、病んでるなあ、たかし、といった感じですが(本当に肺を病んでいるので、これはただ当然のことを言っているだけに過ぎないのかもしれませんが)。

散文的な文体と評されることも多い梶井基次郎さんの作品は、多くの場合どこか読みにくさを感じてしまうのですが、今回の読書でも普段よりちょっと時間がかかった印象を受けます。

とはいえ、「だからもう読みたくない」とはならないところがすごいんですよねえ、梶井基次郎さんは。心に残るフレーズが多く、たぶんまた読みたくなってしまうような予感の残る作品でした。

『冬の日』は梶井作品の中でも極めて文学的評価が高く、「一つの頂点をなす小説」とまでいわれているのには驚きましたが、それだけのことはあるなあ、と頷かされるところがあります。

ちなみにタイトルは、松尾芭蕉さんの『芭蕉七部集』の一集「冬の日」から取られているそうで、最近は松尾芭蕉さんを取り上げることが多く(織田作之助さんの『秋深き』の読書感想)、狐人的に不思議な縁を感じたところですが、松尾芭蕉さんが文豪のみならず、後世多くの芸術家に影響を与えているという、ただそれだけのことですかね。

さて、『冬の日』の主人公の名前は「たかし」ですが、『ある心の風景』の主人公の名前も「たかし」で、のみならず梶井作品の主人公の名前は全部「たかし」という話もあって、「たかし」は梶井基次郎さんの分身といっても過言ではないキャラクターです(この「たかし」という名前に何か思い入れがあったのかなあ、とちょっと気になって調べてみたのですが、わかりませんでした)。

今回もやはり全編を通じて、肺結核で自分の生の終わりを明確に意識している主人公が、周囲の景色や人や物に自己の意識を投影して鬱々と考えているさまが克明に描かれているのですが、この情景描写は毎回唸らされるところです。

健康な人にとって、重い病気の人の気持ちを知るのはなかなか難しいことのように思うのですが、梶井基次郎さんの作品を読むとその気持ちがひしひしと伝わってきて、そのたびに考えさせられてしまいます。

とくに今回の読書では、「病気の人への接し方の難しさ」みたいなものを思わされたところが印象に残りました。

堯がお医者さんに言われた一言、「今の一年は後の十年だ」を回想するシーンでは、堯はばつの悪いような感情を抱いたと語っています。

それは「まるで自分がその十年で到達しなければならない理想でも持っているかのように」感じてしまったからだというのです。

お医者さんとしては、「時間を大切に使ってほしい」みたいな、親切や気遣いのために言った一言だったのでしょうが、その親切や気遣いの言葉でさえ、病人にとっては重たい言葉になることがあるんだなあ、と、しみじみと感じました。

たしかに、みんながみんな、そのときそのとき、目標や夢を持って生きているわけではないのでしょうし、むしろ僕などただ漠然と生きている感が否めないわけで、堯の感じた「ばつの悪さ」、うしろめたさ、のような感情はすごくよくわかるように思いますが、しかし普段だったら絶対に考えないことのように思います。

多くの人が言われてみてはじめて気づくところじゃないかなあ、などと愚考するのですが、どうでしょうね?

仮に目標や夢を持っている人が、重い病気を患ってしまったとして、「もう先は短いから、時間を大切にしてほしい」と言われたとしても、では「よし、そうしよう!」と前向きになれるかといえば、それも難しいことに思います。

こちらは親切や気遣いのつもりでも、相手にとっては重たく聞こえているのかもしれない、ということは、日常生活においてもありえることで、ちょっと勉強したつもりになった部分でした。

同じようなことは堯と友人・折田の会話でも見られます。

うつるかもしれない病気である自分の使った茶碗を友達が使っていて、病気がうつるのが平気なら衛生観念がないんだな、とか、気を遣って我慢しているなら感傷に過ぎないだとか、堯が思わず皮肉を言ってしまうシーンです。

気が滅入っていると、思わず「ちょっとひどいんじゃないか」というようなことを口走ってしまい後悔することがありますが、まさにそのことを思わされたところでした。

ただし、これは気兼ねない友達だからこそ言えたことでもあって、その後の堯と折田との短いやりとりもそのことをうかがわせるものになっていて、だからこそ堯もそのやりとりに「なぜか快さ」を感じたのかなあ、という気がします。

友達から気を遣われるのは、ときにたしかに孤独を感じることがあって、なんの気兼ねなく話のできる友達のいることは幸福なことだと思います。

堯に折田のいたように、梶井基次郎さんにもこういった友達がいたのかなあ、などと想像してしまったシーンでした(これまでの読書感想ブログを通じて、なんとなく梶井基次郎さんは友達に恵まれていた印象を受けます)。

あなたにはそんな友達がいますか?

読書感想まとめ

冬の日-梶井基次郎-読書感想まとめ-イメージ

才能と病、たしかにこれは普通の人には書けません。「文学的一つの頂点」といわれるのも納得の小説です。気遣いや親切はときに相手を苦しめます。気落ちしているときに気兼ねなく話せる友達がほしいし、そんな友達になりたいですね。

狐人的読書メモ

創作的に気になるところも多かった。ここにメモしておく。母子の虫の知らせ、テレパシー。エーテル、天体を構成する第五元素。「まるでものを言うたび口から蛙が跳び出すグリムお伽噺とぎばなしの娘のように」、ペロー童話の『仙女』(『宝石ひめ』)のこと(?)か。ドッペルゲンガー。

・『冬の日/梶井基次郎』の概要

1927年(昭和2年)『青空』(青空社)にて初出。生の絶望を「冬の日」の情景として描いた心象的作品。文学的一つの頂点をなす作品ともいわれている。未完とされていて著者は続きとなる「春の結末」を書くつもりであったらしいが、結局は永遠の未完作となってしまった。

以上、『冬の日/梶井基次郎』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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