小説読書感想『羅生門 芥川龍之介』テストに出るはエゴ!黒獣は出ない?

早速ですが問題です。

問1.芥川 龍之介の小説『羅生門』のテーマといえば何か?
答え.人間のエゴイズム

これを意識して読んでみると、『羅生門』をより深く楽しめる……ような気がします。

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回はテスト問題にもなる小説、芥川 龍之介さんの名作中の名作、
『羅生門』
について書いてみたいと思います。

ところで『羅生門』といえば、高校の教科書や大学の講義なんかでも取り上げられる超有名な小説ですよね。はたして、どんな問題が出るのか、ちょっと気になったりしませんか? ということで、どんなテスト問題が出るのか調べてみました。

問2.作中に出てくる「旧記」とはどの作品のことか。作品名を漢字で書きなさい。
答え.今昔物語集

『今昔物語集』は平安時代の説話集です。『羅生門』のお話の舞台も、平安時代の平安京となっています。

と、それではこの流れに乗ってあらすじなどを簡単に。

そこは、平安時代の平安京にある朱雀大路の正門『羅生門』。この頃の平安京では、台風や飢饉といった天変地異が立て続けに起こり、都は衰退の一途を辿っていた。治安は悪化し、人々の暮らしも立ち行かなくなるばかり……。そんなふうにして荒れ果てた『羅生門』の下、ある日の夕暮れ時、若い下人が雨宿りをしている。いや、途方に暮れているのだった。不況のあおりを受けて職を失った下人は、「これからどうやって生きていけば……」と呆然自失の体。生きるためには盗人に身をやつすしかないのだろうか、と思い詰めるもなかなか決心がつかず。下人は悩んでいた。しかしながら、なにはともあれ今夜の寝床。ということで『羅生門』の楼に足を踏み入れた下人は、人の気配を感じ取る。そこには一人の老婆がいた。老婆は亡骸の髪の毛を抜き集めていた。下人が老婆を取り押さえて、その理由を問いただすと、老婆は集めた髪の毛でかつらを作って売るのだと言う。自分も路頭に迷い、これから盗人にならんとしていたことなど忘れて、下男は老婆の行為に激しい憎悪を抱くも……、男の抱いた正義感はやがて強烈なエゴイズムへと姿を変えて――。正義とは、悪とは、何か? 人間の本質を問うた名作中の名作!

と、以上が簡単なあらすじとなります。

問3.男の年齢を答えよ。またその理由も記述すること。
答え.若い男。大きなにきびを気にしているから。

『羅生門』の主人公は、長年仕えていた主人から、四、五日前に暇を出されてしまって、これから先の暮らしをいったいどうしたらよいのだろうか……、と途方に暮れている若い男、下人さんです。

冒頭の問1でも述べたように『羅生門』のメインテーマはずばり『人間のエゴイズム』です。

仕事を馘首され、路頭に迷い、追い詰められた下人さんが善と悪の狭間で揺れ動く、心情の変化がポイントとなります。つまり物語のラストにおいて、下人さんが『人間のエゴイズム』を見せるまで、といった点に着目して読み進めていくと、より味わい深く『羅生門』を楽しめるのではないでしょうか、と僕は思います。

それでは、主人公・下人さんの心の動きに注目して、『羅生門』を読んでいきましょう。

序盤。

『雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた』
『下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら』
『「盗人《ぬすびと》になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。』

(帰る場所もなく途方に暮れている下人さん。これからどうしよう……、もう盗人になるしかない! ――だけどそんな勇気俺にはないよ……)

この段階においては、下人さんにモラル(善悪の観念)があることが分かります。性善説。どうやら最初から悪い人間というわけではなさそうですね。

中盤。

『下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲っている人間を見た。檜皮色の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である』
『その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。』
『老婆に対するはげしい憎悪』
『あらゆる悪に対する反感』

『羅生門』の楼で老婆を見つけ、亡骸の髪の毛を抜くという身の毛のよだつ行為を垣間見た下人さんは、そこに悪を見出して憤慨し、正義の心を湧き起こし、老婆を取り押さえます。

ですが人間の正義というものは非常に揺れやすいものです。
そう。昨日の記事に書いた太宰 治さんの『走れメロス』の勇者(シスコン)メロスのような、強すぎる正義感の持ち主でもない限りは。
(⇒小説読書感想『走れメロス 太宰治』走れメロス…いや走ってメロス!

下人さんは老婆の悪を憎んでいる場合ではないのです。自分だって明日はどうなるか分からない状況で、そう考えるのは至極当然と言えるのではないでしょうか。

自分に全く太刀打ちできない、取り押さえられた老婆。

(この婆さんの生死を今俺は握っている……)

『この意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。』
『後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。』

このように、下人さんの「正義感」は、「優越感」へとその姿を変えていきます。か弱い老婆を取り押さえた力強く若い自分。老婆の生死を支配する自分。

なんとなく、憐れをもよおしてもよさそうなところですが、下人さんも追い詰められていますからね。満たされているときには人に優しくできても、追い詰められたとき、はたして人は人に優しくできるでしょうか? このときの下人さんは、失業して住む家さえも失ってしまったわけなのですから、それと同時に己の自尊心を大いに打ち砕かれてしまったことでしょう。

そんな自分に負けるような老婆は明らかに自分よりも劣っている。そして老婆の話を聞いてみると……、老婆が亡骸の髪の毛を抜いているのは、それをかつらにして売り、飢えをしのごうとしているからだと言います。老婆が髪を抜いている今や亡骸となったその女も、生前は生きるために同等の行いをしていたのだと、そう言うのです。そう、すべては生きるため。

人間は自尊心を打ち砕かれたとき、自分よりも弱い者を見つけ、それを悪と断じ、自己を保とうとするものです。しかし老婆のそれは、下人さんの自尊心を満足させる絶対悪とは程遠いものでした。そして「正義感」に代わって、下人さんの心の内に、新たに沸き起こる「優越感」や「侮辱」といった感情。ここで沸き起こった感情が、一時は正義の心に目覚めた(?)下人さんのエゴイスティックな行動につながってくるのです。

終盤。

いよいよ下人さんが決断を下します。老婆の語りを聞き、下人さんはとうとう勇気を奮い起こすのです。

勇気……。

余談なのですが、西尾維新さんの小説『偽物語』の中で八九寺真宵という女の子が、「勇気ということばを最後につければ、たいていの言葉はポジティブになる」ということを言っていましたね。

曰く、恋人に嘘をつく勇気、仲間を裏切る勇気、怠惰に暮らす勇気、負けを認める勇気……、変態という汚名を受ける勇気!

実におもしろいです。

ここでの下人さんの勇気は「盗人になる勇気」となるわけですが、これをドラクエ的に盗賊への転職(ジョブチェンジ)といった感じに受け取ってみると、確かになんだかカッコいいような気がしてきます。「俺は仲間のためにあえて汚名を着る!」みたいな。『羅生門』はそんな話ではないわけですが……。

『下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。』

下人さんはとうとう盗人になります。転職です。ジョブチェンジです。か弱い老婆から身包み剥ぎます。その行動、その理由にこそ『羅生門』のテーマである下人さんの『エゴイズム』が現れているのです。

老婆の話しを聞いた下人さんは、

「では、己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」

と、老婆の理屈を自分にも当てはめて引剥をしたのです。

老婆を懲らしめて、正義感を満足させる、あるいは優越感に浸ったとしても、路頭に迷っている現状は何も変わらず、であれば、やはり下人さんも生きるため、亡骸となって髪を抜かれていた女が、そして老婆がしていたように、盗人となって奪うしかない。

盗人・下人さんのスキル『エゴイズム』発動!

まとめると、窮状にある下人さんは盗人になる勇気を持てずにいました。そんな折、悪事を働く老婆に出会い、正義感→優越感と心をゆすぶられるも、結局は生きるための現実的な手段を取ります。手段を選ばない、という手段を選びます。こうした下人さんのエゴイスティックな行動に、人間の精神の弱さや汚さを見出すことができるわけですね。

ここまで他人事みたいに語ってきましたが、実際僕が下人さんと同じ立場に立たされたとき、老婆に優しく接することができるだろうか、下人さんと同じ道を選ばないだろうか、と真剣に考えてみると、正直自信を持って下人さんみたいにはならない、と言うことができません。

自分がつらいときにこそ、他者への優しさを失わないような人間に、できればなりたいものだとは思うのですが……はたして(汗)。

それでは最終問題。

問4.芥川龍之介の必殺技といえば?
答え.『羅生門』!

そんなわけで最後に。

記事タイトルの『黒獣は出ない!』の部分は『文豪ストレイドッグス』という漫画からパロってみました。これは文豪をイケメン化した異能力バトルものだそうで、僕も最近知ったのですが。

『文豪ストレイドッグス』の芥川龍之介が放つ必殺技が『羅生門』。身に纏った外套を影のように操って「黒獣」へと変身させて操る能力だそうで、なんかカッコいいですね! ぜひ今度見てみたいと思いました。

以上、『羅生門 芥川龍之介』の小説読書感想でした。

アニメ『文豪ストレイドッグス』とのコラボ文庫。なんかカッコ良さげですね。コレクションしたくなります。

僕も読みます。『文豪ストレイドッグス』はこちら。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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