狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『夫人利生記/泉鏡花』です。
文字数16000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約39分。
樹島は美しい女の、人妻の写真を見てゾッとした。
その理由とは?
ホラー小説、昼顔展開、からの霊験あらたかな教訓話。
不倫はやっぱりいけないこと?
ところでお墓参りって行きますか?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
山道の途中にある侘しい釣鐘の影の中で、そっと、美麗な女の、人妻の写真を見たとき、樹島は血が凍るように、ぞっとした。
――樹島は十八、九年ぶりに、母の実家の檀那寺に墓参りに行った。そして、子供の頃母に手を引かれてお参りした摩耶夫人(釈迦の生母)のお寺(蓮行寺)に向かった。
清水が流れ、自然豊かな山道。その道中、ひとりの女を見かけ、樹島は心を奪われた。女は人間離れして美しかった。知らないはずもないのに、寺までの道を尋ねてしまった。
蓮行寺天の御堂の壇の片隅に、千枚のかるたを積んだような写真がある。その写真には赤ん坊を抱いた女性たちが写っている。それは安産祈願の礼参りに供えるものだ。
樹島がそれらを見ていると、四、五枚目に、先程出会った美しい女が、赤ん坊を抱いて写っていた。こうした写真は公開されたも同じもので、願掛けにあやかるために持ち帰ることを許されている。樹島は女の写真を半紙に包もうとした――そのとき、とたんに人の気配がした。
どうやらお寺の者らしい女性だった。樹島は赤くなって、とっさに願掛けにあやかりたいだけの、子を欲しがるひとりの夫のふりをした。女性は樹島が写真を持ち帰ることを許可してくれた。
まるで逃げるようにして、侘しい釣鐘のあるところまで来た樹島は、再び半紙をひらいて写真を見た――すると、美女に抱かれていたはずの赤ん坊が消えていた。
樹島は急いで蓮行寺の御堂に駆け戻った。そして面を伏せて写真をそこに戻した。また確認するだけの勇気はなかった。
――山を下りて町口のはずれに、小さな仏師の家があった。樹島はそこで摩耶夫人の像を依頼した。注文について仏師と話をしていると、「もし」と優しい女の声がした。山道で会った美しい女であった。かわいい赤ん坊の声も聞こえた。女は仏師の妻であった。樹島は「奥さんの似顔なら本懐です」と――東京に逃げ帰る覚悟で注文をつけた。
その後震災があって、樹島は右の手の指を二本痛めてしまった。腕が砕けるかと思うほどの激痛だった。しかし医者にかかるほどではなく、包帯を巻くだけですんだ。
この前日、樹島は夫人像の完成と出荷の知らせをはがきで受けていた。そして二日目の午後、届いた小包を開けてみて――樹島は青くなって飛び下がった。
なぜなら、夫人像の片手は手首から裂け、中指と薬指が粉々になっていたからだ。この御慈愛がなければ……、一昨日自分の片腕は折れていたかもしれない。樹島は像を胸に抱いて泣いた――夫人像の面影は、仏師の妻ではなく樹島の亡くなった母に似ていた。
狐人的読書感想
う~ん。はじめはいかにも怪奇小説(ホラー)の趣があり、人妻に一目惚れするという昼ドラ展開かと思いきや、霊験あらたかなオチという、なんだか不思議なお話でした。
むずかしい単語も多く、勉強になりました。摩耶夫人ってゴータマ・シッダールタのお母さんのことなんですねえ(マーヤーは、「母」を意味する単語であって、本名ではないという説もあるそうです。ちなみに「ゴータマ・シッダールタ」という名前のひびきがなんか好きです)。
本作は、主人公の樹島がお墓参りに行ったときの、一連の不可思議な出来事が綴られているわけですが、先日芥川龍之介さんの『点鬼簿』について読書感想を書いたばかりなので、偶然にも「お墓参りもの」が続いたことになりますね(「お墓参りもの」ってどんなジャンルだよ)。
少子高齢化社会の日本においては、「エンディングノート」とか「終活」などが話題となることもありますが、定期的にお墓参りに行っているひとって、どのくらいいるものなのでしょう? そもそもみんながみんな入るお墓を持っているものなのでしょうか? お墓を持っていないひとはどうなるのでしょうね? ――いろいろ疑問が湧きました。
現代では費用や管理面のことで、お墓離れみたいなことが進んでいるようです(相続するひとのいなくなったお墓を撤去することを「墓じまい」というのだとか)。
遺骨をお墓に納めなければならないという法律はないそうで、納骨堂に納めたり、散骨という供養の方法もあるみたいですね。
古くからあるお墓参りの風習がなくなりはじめているのかと思えば、ちょっと寂しいような気がしないでもないですが、僕はこのことにはあまり抵抗がないように思います。
さきほど、定期的にお墓参りに行っているひとって、どのくらいいるものなのでしょう? ――という疑問を持ちましたが、やはりお墓の管理というのは大変なことのようです。立地が悪いと、頻繁にお墓参りに行くのは難しいでしょう。
近年では『自動搬送式納骨堂』というものがあります。
これは都市部のビルが納骨堂となっていて、アクセスがよく、内装もホテルのように明るくきれいなのでけっこう人気があるみたいです。
「立体駐車場のようだ」といえばちょっと聞こえが悪いかもしれませんが、「お墓のマンション」という表現をされることもあるそうで、とはいえお墓参りといえばやっぱりお寺というひとにとっては、なかなか受け入れがたいものがあるかもしれません。
安産祈願のお礼参りに、赤ちゃんと一緒に写った写真を奉納するというのは、ちょっとおもしろい風習のように感じました。いまでも似たようなことをやっているお寺があるのでしょうか?(こちらは調べてみましたが、見つからず……)
人妻に懸想してしまった樹島の後ろめたい心理描写や慌てっぷりは読んでいておもしろかったです(おもしろがってはいけないところなのかもしれませんが)。
最近は主人公が浮気をしようとしたり一目惚れしたりする小説をよく読んでいるような気がしますが(なんの因果か……、坂口安吾さんの『握った手』とか……)、多くの文学作品にこれが取り上げられているということは、やはり「人間は浮気をする生き物である」といった命題が、ひとつ人類の永遠のテーマであるという証左なのかもしれませんね(笑)
写真に写っていたはずの赤ん坊が消えていた件は、樹島と同じようにぞっとしました。最初に写真を見てぞっとする描写があって、中盤でその理由が明かされたわけですが、この手法はいいなあ、と感じました(どこかで活用できる機会があるだろうか?)。
しかしこれが何を意味しているのかについては正直わかりませんでした。……樹島の罪悪感が見せた幻だったのか、あるいは本当に心霊現象だったのか、気になるところです。
夫人像が樹島の身代わりとなってくれたとも捉えられるラストのお話は、たしかに思わされるところがあったでしょうね。
ある意味不純な思いを持って作らせた像が自分を守ってくれたとなってみれば、罪悪を持つ人間でも仏は決して見捨てないでいてくれるみたいな――樹島が思わず涙した理由もわかるような気がしました。夫人像の面影が望んでいた美人妻の顔ではなくて、母の顔をしていたあたりも意味深な感じがします。
このような身代わりになってくれる「お守り」のモチーフというものは、いろいろな作品で見かけるように思います。
胸のペンダントが銃弾から守ってくれたみたいな。あるいは『身代わり地蔵』という昔話もあります。
受験など現代日本人にも必須なアイテムといえそうですし、「お守り」は創作のモチーフとして興味深いです。
読書感想まとめ
不倫はやっぱりいけないこと?
狐人的読書メモ
(……『昼顔』?)
・『夫人利生記/泉鏡花』の概要
初出不明。怪奇(ホラー)小説、昼顔展開、霊験あらたかな教訓話――不思議な話ではあった。
以上、『夫人利生記/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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