小説読書感想『夜のピクニック』歩行祭!少年少女が脱皮する儀式

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全校生徒1200人が、
フルマラソンのおよそ2倍の距離を、
1日がかりで踏破する。

3年生にとっては、
高校生活最後のイベント

北高鍛錬歩行祭

僕などは、
字面だけで憂鬱な気分になってしまうのですが……

だから北高の生徒たちが、
なんだかんだと言いながらも、
歩行祭を楽しみにしている様子は、
とても不思議でなりませんでした。

実際作中でも、
冒頭主人公の少年が、
なぜこれだけ続いてきたのか、
疑問を呈する場面があります。

僕もまったく同じ気持ちだったのですが。

彼らと一緒にゴールする頃には、
その理由を理解できたように思いました。

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回の小説読書感想は、
恩田陸さんの『夜のピクニック』
について書いてみたいと思うのです。

恩田陸さんは、
『六番目の小夜子』
が第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作となり、
同作の刊行にて作家デビュー。

「ノスタルジアの魔術師」とも呼ばれ、
ジャンルに捉われず幅広い小説を続々と発表しています。

とか言いながら、
僕は恩田陸さんの小説をこれまでに読んだことがなく、
今回の『夜のピクニック』がはじめて。

話しは少し逸れるのですが僕は、
まったく前知識をもっておらず、
ペンネームで男性か女性かの判別がしにくい作家さんは、
その小説を読んでどちらであるかを想像するのが、
読書する上でのひとつの楽しみになるときがあるのです。

たとえば有川浩さんとか。

今回の読書もその楽しみがありました。

さらに蛇足なのですが、
恩田陸さんは女性の作家さんで、
僕の予想は見事で的中したのでした!

コホン(軌道修正)

『夜のピクニック』は、
2004年新潮社より発行されました。

<第2回(2005年)本屋大賞>
<第26回(2005年)吉川英治文学新人賞>
を受賞!

2006年映画化!

簡単なあらすじは以下のとおり。

西脇融と甲田貴子は北高の3年生。

高校生活最後のイベント、
北高鍛錬歩行祭に臨む。

貴子はある思いを抱いて歩行祭に参加していた。

それは、
一度も話したことのないクラスメイト、
西脇融に声をかけること。

それは自分の中の賭けだった。

恋心とは違った想い。

しかしお互いに不自然な態度をとってしまう、
ふたりを見ていたクラスメイトたちは、
あらぬ誤解をしてしまい、
ふたりをくっつけようとするのだが――

まずやはり気になるのが歩行祭は実在するのか?

なんと実在したのです!

歩行祭のモデルは、
茨城県立水戸第一高等学校の「歩く会」

茨城県立水戸第一高等学校は、
著者・恩田陸さんの母校とのこと。

自身が経験したイベントだからこそ、
これだけ鮮やかに描けるのだなぁと、
納得させられました。
(もちろん作家としての才能も大きいとは思うのですが)

多感な年頃の少年少女たちの心情描写には、
説得力がありリアリティを感じました。

実際の高校生が、
そうした思春期特有の思いや悩みを、
言葉で表現するのは難しいかもしれません。

いろいろな語彙や表現力を身につけた、
大人だから描ける小説だと思う一方で、
思春期特有の思いや悩みを色褪せずに、
ひとつひとつ丁寧に描くということは、
大人だからこそ難しいのではないかと、
思わされて、
そこに作家の才能というものを強く感じました。

ただただすごいと唸るしかないのです。

さて、

親友とはどんな友達をいうのだろうか、
誰でも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

融にも戸田忍という一対一の親友と呼べる友達がいます。

そこに林檎があるとわざわざ口にしなくても、林檎の影や匂いについてちらっと言及さえしていれば、林檎の存在についての充分な共感や充足感を得られるのだ。

恩田陸(2004)『夜のピクニック』新潮社,p142.

親友について漠然とした思いはあっても、
それを言葉で表現するのはなかなか難しいのです。

上記の引用は、
まさにそれを的確に表現しているのではないか、
と思いました。

親友だからこそ、
相手の性格や態度や姿勢などがもどかしく、
それについて意見したいと思うこともあります。

歩行祭の中盤、
忍は融に対して、
もっと昔に読んでおかなかったことを後悔した本、
『ナルニア国ものがたり』
を引き合いに出して訴えます。
(狐人的にもよく思うことなのでとても共感できたのです)

それから忍が融に続けて言う、
「もっとぐちゃぐちゃしてほしい」
という言葉は漠然とし過ぎていて、
いかにも高校生の男の子らしい率直なものだと思いました。

この言葉の意味は、
自身の置かれた家庭環境などから、
大人になることを焦っている融に、
今を未来のためだけに使うべきではなくて、
もっと今しかない今を楽しんでほしいといった、
忍の親友に対する想いが込められており、
融もそのことにやがて気づきます。

こういう親友がいたらいいなぁ、
と思わずにはいられません。

そして自分が誰かにとって、
こういう親友であれたらいいなぁ、
とか。

青春小説に欠かせないファクターといえば、
やはり恋でしょう。

『夜のピクニック』においても、
思春期の高校生だからこそ、
と思わされるいろいろな恋模様が描かれているのです。

融はとてもモテるのですが、
大人になることへの焦燥感から、
周りの女の子が子供に思えてしまい、
あまり興味をもてないでいます。

歩行祭の最中、
そんな融に積極的にアプローチする、
内堀亮子は恋に恋する女の子といった感じ。

自己中心的で打算的、
融を好きだというのも、
単に高校時代の思い出を作りたいだけで、
子供だと評されてしまいます。

貴子の友達の梶谷千秋も、
やはり融に思いを寄せる女の子のひとり。

融のことが好きだけど、
それを打ち明けるつもりはないのだと、
貴子に語ります。

「今、そう思える相手がいるだけでいいんだよ」

貴子には千秋の言いたいことがよくわかり、
好きという感情には答えがないのだと考えます。

どうなれば成功なのか、
満足できるのか、
いろいろなかたちがあって、
それはそれぞれが見つけるしかないのだと、
貴子と同じように僕も思いました。

貴子の親友の遊佐美和子は才色兼備、
1年の頃から文武両道でハンサムな彼氏がいましたが、
少し前に別れたのだと貴子に打ち明けます。

校内の誰もが羨むパーフェクトカップル、
しかし美和子はその事実に酔っていただけで、
結局は自己満足に終わり、
本物の恋ができなかったことを淋しく思っています。

人を好きになることや、
恋をすることについて、
思春期だからこそ、
感じられるのだと思える、
こうした感情を大切にしまっておいて、
そこを通過してからも文章として表現できるというのは、
ものすごいことなのではないかとただただ感心してしまいます。

『夜のピクニック』の核になるのは、
融と貴子の不和と和解。

不仲なふたりが互いに歩み寄り、
和解を果たすまでの超メロドラマといってよいでしょう。
(なにせ本人たちがいっているのです)

不和の原因は融の父親にあります。

ふたりは腹違いのきょうだいなのです。

西脇融の父親が不倫をして産まれた子が甲田貴子。

父親が亡くなって葬式のとき、
不倫という悪を働いた甲田母子が、
本来はこそこそすべきはずなのに、
のびのびと好き勝手に暮らしていて、
逆に自分のほうが後ろめたいような不条理さを感じ、
融は貴子にはなんの罪もないことを承知しながらも、
自己嫌悪を感じつつその存在を憎らしく思ってきました。

貴子はその理不尽さに困惑し、
ときに憤りを覚えるも、
やはり異母きょうだいを否定し続けることはできず、
なんとか話ができないだろうかと、
今度の歩行祭で自分の中の賭けをします。

道中ふたりはお互いを意識しつつ、
それぞれの親についても考えるのです。

融は父親のことを。

几帳面でプライドの高い男だった、
だから自分のしてしまったことがストレスとなり、
胃を病んでこの世を去った。

それを融は逃げだと非難するも、
その性格ゆえに開き直ることも謝ることもできず、
二組の妻子を見守ることからも、
一人で妻子の軽蔑に耐えることからも逃げるしかなかった。

つらかっただろうな、
ふと悟ります。

貴子は母親のことを想います。

貴子とは血の繋がらない父とは別れて、
その会社をひとりで引き受け切り盛りし、
本当の父親は西脇家へと帰ってしまい、
ずっとひとりで、
だれにも頼らず、
それでもいつも平然としている。

よくひとりでやってこれたなぁ、
と感慨深く思うのです。

歩行祭で、
融と貴子はくだらなく、
ときに大切な話しをそれぞれの友人たちと交わし、
いろいろなことを考えて、
周りの協力もあって最終的には和解をはたします。
(春にアメリカに行ってしまった榊杏奈の深慮遠謀には脱帽)

融や貴子と同じように、
参加したほかの生徒たちにも、
こうした学びを与えてくれる学校行事が歩行祭なのだとしたら、
冒頭で述べたように、
なぜこれだけ続いてきたのか、
その答えは明白なように僕には思えました。

『夜のピクニック』は読書を通じて、
融や貴子と一緒に歩行祭に参加して、
休憩の笛がなれば一緒に足を止めて、
そこから見える世界の裂け目のような水平線に感動したり、
疲労困憊になりながらも友達と面白おかしくお喋りしたり、
いろいろなことを学ぶことのできるすばらしい小説なのです!

なつやすみも後半!

新潮文庫は455ページ!
(僕は単行本で読んだのですが)

若干厚めかもしれませんが、
一度足を止めてしまえばもう歩き出せないかもしれない、
といった思いを抱えながら歩く北高生たちと同じように、
一度読みはじめたら読了まで止まりたくない小説!

そういえば読書は歩くことに少し似ているかもしれません。

思春期の高校生たちの青春小説だけに、
彼らの言葉や考えや行動など、
感じる部分がとても多く、
読書感想文が書きやすい小説!

『夜のピクニック』

そろそろ宿題の読書感想文に取り掛かろうか、
といった学生のみなさん、
小説を書く小説仲間たち、
小説を読む小説仲間たちも未読の方はぜひご一読あれ!

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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