狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『信濃の山女魚の魅力/葉山嘉樹』です。
文字数2400字ほどの随筆。
狐人的読書時間は約6分。
信濃、天竜川。
人と魚の心理戦!
彼等の戦いの日々は続く――。
おもしろいです。釣りがやってみたくなります。
魚の漢字の読み方って難しいですよね。
「赤魚定食」読めますか?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
――信濃は天竜川にて。
繰り広げられる人と魚の心理バトル!
【私】:
(ヤマメが下流から上ってくるところに餌を流せば、……ダメか。ではちょっと横のほうに流してやれ、……振り向きもしない。だったら奴の鼻先に、……よけただと!? ……奴め、私の顔をじっと見てやがる)
【ヤマメ】:
(ダメダメ。キジミミズから釣り針が見えてるじゃないか)
【私】:
(ふん。こちらから見えてるってことは向こうからも見えてるってことか。よし。ならば私とお前、知恵比べといこうじゃないか。餌を新しいのに変えて……、ちゃんと釣り針の先も隠した。奴の視野外に……、よし! 自然に自然に……)
【ヤマメ】:
(あれ? 何だろう、ゴミかな、木の枝かな?)
【私】:
(餌はだんだん流れていって奴の正確な視界に入る。するとそこには、奴の食欲をそそらずにはいられないキジミミズが、元気はつらつ、ピリピリ尻尾を振っている。さあこい!)
【ヤマメ】:
(…………)
【私】:
(……おかしいな。どうしたんだろう? ……がっ、野郎! 餌だけ食い逃げしやがった! 私の技術が稚拙なのか、それとも奴め、「餌は食うが針はごめんだ」という信条でも持っていやがるのか……、丹田に力を込めてじっとしていやがる……、おもしれえ!)
【ヤマメ】:
(ミミズの後には人間がいる。これ常識。最近の魚の教育は進歩している。以前のように無謀に飛びついたりしないのさ。人間の世界でもそうだろう? 犯罪の手段は常に警察をリードするし、ウイルスはワクチンに対して抵抗を増加する。魚釣りなんていう詐欺に引っかかったりするもんか)
…………………………。
【私】:
(……ふん、まあ今日はこのくらいにしといてやる。じゃあ、さようなら、また明日会おうぜ! ……しかし考えすぎもよくないのかもしれないなあ)
彼等の戦いの日々は続く――
狐人的読書感想
「どうやったらうまく釣れるだろうか?」
魚釣りをされる方々は、こんなふうに魚の気持ちを考えながら、あれこれ工夫するのでしょうか?
なんか魚釣りっておもしろそうですね。
ひきこもりがちの僕は、無論魚釣りなどやったことないのですが、ちょっと興味を覚えました。
(想像力を刺激されて、あらすじがあんな感じになってしまいましたが。これ、僕は書いてて楽しかったのですが、読んでて楽しいものになっているのでしょうか? ……)
葉山嘉樹さんといえばプロレタリア文学ですが、僕は随筆のほうをおもしろく感じています。
(▼これまでに読んだ葉山嘉樹さんの随筆)
最近は坂口安吾さんの随筆、エッセイをおもしろいと感じることも多くて、……これまで小説にウェイトを置いた読書をしてきたのですが、もっと随筆、エッセイにチャレンジしてみようかなあ、といった今日この頃なのです。
さて。
作品の舞台は信濃の天竜川。諏訪湖を源流とする一級河川。長野県から愛知県、静岡県を経て太平洋に注ぐ。長さは213kmで日本全国第9位、面積は5090k㎡で日本全国第12位の川です。
「天竜川」って名前、カッコいいですよね。川の名前は普通その地名から付けられることが多いのだそうですが、天竜川は違うらしいです。
古書によれば、奈良時代には「麁玉川」、平安時代には「広瀬川」、鎌倉時代には「天の中川」と呼ばれていて、その後「天竜川」となったとか。
もともとは「天から降ってきた雨が、山を下って諏訪湖となり、川の流れ」となることから「天流川(アメノナガレガワ)」と呼んでいたのが、いつしか「流」という字が「竜」に変化し「天竜川」となりました。
東に南アルプス山系の仙丈ヶ岳や、白根山系の山々、など、殆んど年中雪を頂いている、一万尺内外の高山の屏風を遠望し、西には、僅か数里の距離を置いて、西駒山脈、詰り中央アルプスが亙っている。
作中冒頭にもあるように、この地方には急峻な地形が多く、この川は「暴れ川」であったため、その様子が天に昇る「竜」を想像させることから、天竜川。あるいは諏訪神社の竜神から、といった説もあるようです。
こちらも作品によれば、天竜川では「鯉、鮎、鰻、赤魚、山女魚」などが釣れるそうです。
(……しかしながら魚の名前って、読めないのが結構あったりするのですよねえ、……和食屋に入って「赤魚(あかざかな)定食ください」ってならないように、勉強しておきたいところ)
【私】は、キジミミズでヤマメを釣ろうと奮闘していましたが、……ミミズって、僕は絶対触れない気がします――という方にはルアーもあるので一安心(?)。
(……そもそも魚を触れるのだろうか、というもっと根本的な問題がありますが)
「駄目だよ。釣針が出てるじゃないか」
――でも、ルアーって針むき出しなんですよね? それでも釣れるということは、実際の魚に針は見えていないのでしょうか?
とはいえ、
私が、ハッキリ山女魚の姿を見ているのだから、山女魚だって、私を見てるには違いない。
――というところは、狩りの基本を言ってるというか、理にかなっていると思い、こういったささいな発見を自分でできたら、たしかにちょっと楽しいだろうなあ、とか想像が膨らんだ部分です。
『信濃の山女魚の魅力』は、とにかく葉山嘉樹さんが魚釣りを(純粋に?)楽しんでいるのがよく伝わってきて、読んでるこちらも本当に魚釣りをやってみたくなります(嘘じゃないよ?)。
前述の「読んで楽しいあらすじ」になっているのだろうか、という話と通じますが、自分が楽しんでいるものの魅力を、誰かに伝えるのは結構難しいように思うのですよねえ。
語ってみても熱が入りすぎて、相手に上手く伝わらない、みたいな。
『楽しいことを楽しく書いて楽しく伝えることができる』
――というのは、ひとつ作家の才能のように、改めて感じてしまいましたが、いかがでしょうか?
その点、『信濃の山女魚の魅力』が、僕には伝わってきたので、葉山嘉樹さんはやはり凄いな、と生意気にも感心させられてしまいました。
「キジ蚯蚓が水に流れて行く。が、奴のように、一度や二度では食わないと云うことになると、俺がただ、餌を流して行ったって、どいつもこいつも、餌を見送って、それにつづいて現われる俺の姿を見て、『蚯蚓の後からはきっと人間がついて来る』と云う真理を発見するだろう。そうすると、俺は、山女魚に詐欺の本質を、身を以て教育することになる。魚にそう云うことを教育するのは、どうも余り面白いことではない。だが、近来、魚の教育は進歩していると考えられる傾向がある。以前のように、無謀に飛びついて食わない。犯罪の手段の方が、検察陣の方をリードするし、国民の体質低下が軍部を刺戟するし、毒菌は注射薬に対して抵抗を増加するし、と云うことになると」
プロレタリア文学というと、どこか暗~いイメージがあって、それを著者の人物像と重ね合わせて見てしまいがちになりますが、『信濃の山女魚の魅力』からは全体的に(ちょっとブラック?)ユーモアが感じられて、そこも楽しめました。
『信濃の山女魚の魅力』
まさに「日本の名随筆『釣』」に相応しい、その名のとおり釣りの魅力に溢れた作品です。釣りをする人にもしない人にもおすすめできる随筆でした。
読書感想まとめ
魚釣りをやってみたくなりました!
狐人的読書メモ
ヤマメですか(笑)
(――というネタを言いたくなるけど悪意はまったくありません)
ちなみに、ヤマメはサケ目サケ科サクラマスのうち、一生を川で過ごす個体をいうそうです。
やはり塩焼き! 味噌焼き! 甘露煮や唐揚げにしても美味しそう。寄生虫がいるそうなので、刺身はご遠慮願います。
(▼釣りをテーマにした作品集があるくらいですし、創作のテーマとしても釣りはおもしろいと思う今日この頃)
・『信濃の山女魚の魅力/葉山嘉樹』の概要
楽しい釣りの随筆。『日本の名随筆4 釣』(1982年―昭和57年―発行、作品社)『葉山嘉樹全集第五巻』(1976年―昭和51年―発行、筑摩書房)に収録。
以上、『信濃の山女魚の魅力/葉山嘉樹』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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