狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『冬の女/横光利一』です。
横光利一さんの『冬の女』は文字数900字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約3分。
冬の女が「秋の歌」と言い出したら男にとっては口説くチャンス?
小説の神様横光利一は恋愛の神様でもあったのか。
「冬の女の落とし方」「冬はまさに恋の季節」「冬の女の趣味」
の三本です。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(短いので全文どうぞ)
『冬の女/横光利一』
女が一人籬を越してぼんやりと隣家の庭を眺めている。庭には数輪の寒菊が地の上を這いながら乱れていた。掃き寄せられた朽葉の下からは煙が空に昇っている。
「何を考えていらっしゃるんです。」と彼女に一言訊ねてみるが良い。
彼女は袖口を胸に重ねて、
「秋の歌。」
もし彼女がそのように答えたなら止めねばならぬ。静に彼女の手を曳いて、
「あなたは春の来るのを考えねばなりません。家へ帰ってお茶でもお煎れになってはどうですか。春の着物の御用意はいかがです。湯のしんしんと沸き立った銅壷の傍で縫物をして下さい。あなたの良人は間もなく手先を赤くして帰って来るでしょう。それまであなたは過ぎ去った秋の物思いに耽ってはいけません。秋には幸福がありません。さあ家の中へ這入ろうではありませんか。もし炭箱へ手を入れることがお嫌いなら手袋を借しましょう。水は冷めたくとも間もなく帰る良人の手先を考えておやりなさい。花々はまだ花屋の窓の中で凋んではおりません。暖炉の上の花瓶から埃りをとって先ず一輪の水仙を差し給え。縁の上では暖く日光が猫を眠らせ、小犬は明るい自分の影に戯れている筈です。だが、あなたはあの山茶花を見てはなりません。あの花はあれは淋しい。物置の影で黙然と咲きながら散って行きます。あなたは快活に白い息をお吐きなさい。あの散り行く花弁に驚いて飛び立つ鳥のように。眼をくるくるむいて白い大根をかかえて勝手元でお笑いなさい。良人の持って帰った包からはあなたの新しいショールが飛び出るでしょう。しかし、春は間もなく来るのです。手水鉢の柄杓の周囲で蜜蜂の羽音が聞えます。村から街へ登る車の数が日増しに増して参ります。百舌は遠い国へ帰って行き、枯枝からは芽が生々と噴き出します。あなたは、愛人の手をとって郊外を漫歩する二人の若い人達を見るでしょう。そのときあなたは良人の手をとって、『まあ、春が来ましたわ。ね、ね。』と云ひ給へ。だが、あなたの良人のスプリングコートは黴の匂いがしていてはいけません。」
狐人的読書感想
ふむ。帰らぬ夫を待つ女性が「冬の女」(雪女的な怪異譚を期待してしまったのはひょっとして僕だけ?)。
非常に短い小説なので、女の置かれた状況など一切不明ですが、それだけにいろいろ想像する楽しさのある作品ですねえ。
小説の神様が教える冬の女の落とし方?
この冬の女、何を考えているのかを訊かれて、「秋の歌」と答えるあたり、風流を感じさせますが、ちょっとキザっぽいですかね? いかにも「気にかけてほしそうな……」とか思ってしまうのは、ひねくれすぎ?
(ちなみに「キザ」は通常男性に使われる言葉なのだそうです。そういえば、あまり「キザな女」とは言わない気が……、女性の場合なんて言うんですかね? ……かまってちゃん、とか?)
秋に何かあって、夫がいなくなってしまったのだとして、いったい何があったのでしょうか、……浮気とかで出て行ったのだとしたら、帰りを待ち焦がれるというようなシチュエーションは想像しにくいように思えるのですが、……気弱な女性だったり、精神的に衰弱していたりしたら、考えられないことではないのでしょうか?
時代背景的には、戦争に行った夫を待っている妻、とするのが無難でしょうか。夫は生きているのか、それとも……。あるいはそれさえわからない状況なのかもしれません。
そんな女性に対して、ラストのような長々としたセリフを言うべきだと、横光利一さんは言っているわけなのですが。
秋を「枯葉の落ちる季節」とすれば、たしかに女性の発言は、不吉な意味を孕んでいるようにも聞こえて、「止めねばならぬ」というのも納得の理由なのですが、優しく諭しているように見せかけて「じつは狙ってる?」とか思ってしまうのは、やはりひねくれものの穿った見方ですかねえ……。
弱っているときこそチャンス!
――みたいな。
そんな恋愛指南的意味が隠された小説が『冬の女』なのです!
(……違うか)
(ちなみに、フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの詩に「秋の歌」というものがあって、この冒頭が第二次世界大戦時、ノルマンディー上陸作戦のとき、フランス各地に散ったレジスタンスに工作命令を下すための暗号として使われました――というミリタリー豆知識)
(▼弱っているときこそ『チャンス』!)
「冬」はまさに恋の季節?
――しかしながらそう捉えてみると、「冬」はまさに恋愛の季節、という気がしてくるのですが(僕だけ?)。
冬の男子がカッコよく見えたり、冬の女子が可愛く見えたり――というのは大なり小なり誰しも経験のあることなのではないでしょうか?(そうでもない?)
考えてみるに、どうやらやはり服装に、その理由があるような。
男性でいえばカッコいい冬アウター、女性でいえばもこもこふわふわ系みたいな。
寒さが人恋しさを増長し、温かそうな格好や寒そうな仕草が、抱きしめたくなってしまうような感情を呼び起こすのだとすれば、冬すなわち恋の季節! ――というに些かの躊躇も持たぬ!
――わけなのですが。
でも、それをいったら「夏」には水着があるよね、ってな話ですよね。
「春」は出会いを予感させる季節であります。
(ちなみに、現代の出逢いの場は「学校・職場」「SNS・ネット」「友達の紹介」「バイト先」「合コン」といった感じ。「SNS・ネット」に時代を感じ、「合コン」は意外に少ない)
だったら、一番長続きする恋は「秋」に始まる恋とも聞きます。
(ちなみに、一番長続きしないのは「春」)
……結局「人間に恋の季節はない(年中恋の季節)」というお話でした。
冬の女の趣味と今回のオチ
ついでに(?)冬の女の趣味についても調べてみました。
狐人的なイメージでは「旅行」といった感じですが、どうでしょうね?
検索してみると、やはり旅行が趣味といった冬の女は多いみたいです。
他にウォーキング、ランニング(ただし、「寒いからジムで」というのが現代的)、天体観測(「宙ガール」というそうです)、そして読書!
活字離れが進んでいるとかいわれつつ、「SNS・ネット」の普及でじつは活字を読む機会は多くなっているはずな昨今、読書が冬の女の趣味に挙がってきたのは、狐人的にも嬉しいところでした。
番外編で「冬の女子キャンプ」というのも見つけましたが、これは本当なのでしょうかねえ……、天体観測と併せて、ということで、考えられなくもない気はしますが(ちょっと懐疑的)。
……冬の女子キャンプが趣味の方挙手願います。
――という「冬」の話を、季節外れのいまの時期(4月の終わり)にしてしまった、という今回のオチ。
読書感想まとめ
冬の女を落とす恋愛指南書。
冬はまさに恋の季節。
冬の女の趣味。
狐人的読書メモ
最近の読書では、やはり恋愛と文学は切っても切れないと感じる今日この頃。恋愛離れが進んでいるといわれる昨今、恋愛と創作はより切っても切れなくなってきていると感じる今日この頃。
・『冬の女/横光利一』の概要
1924年(大正13年)『改造』にて初出。横光利一さんの恋愛指南書(――として読んでしまうのは僕だけかもしれない)。
以上、『冬の女/横光利一』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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