狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『黒ぶだう/宮沢賢治』です。
宮沢賢治さんの『黒ぶだう』は文字数2000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約6分。
赤狐と仔牛がベチュラ公爵邸攻略に挑む!
さあ探索開始!
トリックスターな赤狐と素直な仔牛に癒されます。
ひとに嫌な思いをさせないために勉強します。
黒ぶだうの寓意を解説します。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
赤狐が仔牛を散歩に誘う。樺林の中、赤狐の提案で、ふたりはベチュラ公爵の別荘へ忍び込む。玄関マットで足を拭く。探索開始。赤狐に書斎はおもしろくない。仔牛は支那の地理の本が読みたかったが諦める。ある部屋の丸テーブルに白皿にのった黒ぶどう二房。赤狐はつゆばかり吸って吐き出す。唆された仔牛は種までコツコツ噛み砕く。二、三人の人の気配。赤狐はバルコニーから脱出。ひとり残され慌てる仔牛。背の高い鼻眼鏡の公爵、ヘルバ伯爵、伯爵の二番目の女の子登場。ヘルバ伯爵は上着のかくしに手をつっこみ、女の子は仔牛に黄色のリボンを結ぼうとする。
狐人的読書感想
狐人的に、読書中、狐が出てくるとテンションあがります!
仔牛を散歩に誘う赤狐、いい奴ですよね!
(何か汚い魂胆が?)
家宅侵入(野生動物にてここはスルー)する赤狐、ちゃんと玄関マットで足を拭くとは、お行儀いいじゃないですか――と思いきや、食べ方汚いです……。
ひとりだけさっさと逃げ出す赤狐。仔牛「汚いです」。
……赤狐の数々の所業にあがったテンションもほどよくさがりました。
ともあれ、トリックスターな赤狐と素直な仔牛は、なかなかいいコンビで癒されます。
狐人、勉強する意味を学ぶ
狐人を(勝手に)名乗っている僕だけに、まずは赤狐のほうばかりにスポットを当ててしまいましたが、仔牛のパーソナリティもおもしろいなと思いました。『支那のの地理のことを書いた本なら見たいなあ』って。
そんな仔牛に触発されて、ちょっと調べてみたところ、「支那」が差別用語として捉えられる場合があると知って驚きました(これって常識なのですかね? だとしたら自分の常識のなさにも驚きます)。
「支那そば」とかいうし、普通の言葉だとばかり……。
「支那」は「china」のローマ字読みからくる中国の別称で、戦時中日本が中国の人の蔑称としてこれを用いていたことから、中国の人たちは「支那」という呼ばれ方を嫌がっているのですね。
とある高校生が「テストの答案で中国を支那と書いたら不正解になった」といって、これをツイッターでつぶやいたら凄い話題になったというニュースもありました。
担当教師は「支那は差別用語だから」と不正解にしたとのことですが、高校生は「支那は差別用語ではない」と思っているので、これは不当な採点だ、というわけです。
なんとなく難しい話なのかなと思いました。
概念が伝わっていれば「〇」でいいのでは……、と僕などは思ってしまいますが。地理の試験でも、宮沢賢治さんだけに「岩手」を「イーハトーブ」と書いて「〇」にしてくれたら、僕はその先生をなんだか好きになれそうな気がします。
まあ、教わったことを教わったとおりに書くのが「ペーパーテスト」だと言われてしまえば、ぐうの音も出ませんが(とはいえ、ペーパーテストの意義を思わされますが)。
高校生も「支那は差別用語ではない」と言っているので、そのまま差別しているわけではない(はずな)ので、教師の方の言い分はちょっと弱い部分があるようにも思えます(他に言い方あったんじゃないかなあ)。
だけど、その語を聞いて嫌な気持ちになる人がいる以上、その語を用いるべきではないとして「×」にしたと言われているのだとすれば、僕としては納得しますし、勉強させられたと思います(その辺り、教師の方は説明されたのですかね? もし説明されていないのであれば、教師と高校生、大人と子供――人間的成熟差を鑑みるに、教師の方により非があるように感じるのは、教師も人間ちょっと厳しい?)。
たとえこちらに差別的意図が皆無だったとしても、相手がどう思ったかがすべて。それを知るのは凄く大切なことだと思いました。すぐに指摘してくれれば、謝って許してもらえるかもしれませんが、なかなか指摘してくれる人も少ない気がします(そして知らぬ間に人は離れていく……)。
僕は勉強嫌いですが、そんなことがないように勉強するのだと思えば、勉強の大切さを実感します。
ひょんなことからとても勉強させられました。
ありがとう、仔牛。
(ここまで「支那」という言葉をたくさん使ってしまいましたが、ご気分を害された方がいらっしゃったら、ごめんなさい)
狐人、作品の寓意を学ぶ
前項が、思いのほか長くなってしまいましたが、はてさて。
『黒ぶだう』を読んで「いまひとつ意味がわからない」と思う方もきっと多いのではないでしょうか(と信じたい)。
かくいう僕が「何かあるような気がするのだけれど……」といった感想を持ちました。
調べてみると、『黒ぶだう』の草稿には『寓話集中』という文字が、赤インクで大きく記されているのだとか。すなわち著者である宮沢賢治さん自身が『黒ぶだう』は「寓話」だといっているわけで、ならばそこには「寓意」が含まれているのだと見るべきでしょう。
じつは『黒ぶだう』という作品は、宮沢賢治さんがとある建物と人物に興味を持ち、その人物に関わる人間関係やできごとをモチーフに書かれた童話だといわれています。
とある人物とは、(言わずと知れた宮沢賢治さんの出身地)花巻市出身の著名人、菊池捍さん。建物はそのまま『菊池捍邸』と呼ばれていて、当時としては珍しい洋風建築物で、これが宮沢賢治さんの興味を引いたのだそうです。
もう一つ大きなモチーフとして島崎藤村さんとその詩『狐のわざ』が挙げられていました。この詩は、島崎藤村さんの初恋の人、佐藤輔子さんへの恋心が謳われているそうなのですが、この佐藤輔子さんという人は、菊池捍さんの親戚(嫁兄の義妹)です。
以下、「作中登場のもの=モチーフ」です。
- 「赤狐=『狐のわざ』の子狐、野生動物」
- 「仔牛=岩手の乳牛、家畜」
- 「樺林=白樺派」
(下の有島武郎さんが白樺派) - 「ベチュラ公爵の別荘=菊池捍邸」
(ベチュラは樺の木) - 「黒ぶだう=島崎藤村さんの初恋の人、佐藤輔子さん」
(佐藤輔子さんは下の佐藤昌介さんの異母妹) - 「黒ぶだうのつゆ=恋人のハート」
(島崎藤村さんの詩『狐のわざ』で子狐は恋人のハートを盗む) - 「赤狐バルコニーからの脱出=島崎藤村さんの逃避」
(島崎藤村さんには愛人から逃げたという逸話があるらしい) - 「背の高い鼻眼鏡の公爵=有島武郎さん」
(有島武郎さんは島崎藤村さんの文壇仲間) - 「ヘルパ伯爵=佐藤昌介さん」
(佐藤昌介さんは菊池捍さんの義兄―嫁兄―) - 「伯爵の二番目の女の子 = 佐藤淑子さん」
( 佐藤淑子さんは菊池捍さんの最初の妻)
……人物相関図が欲しくなりますね。
ちなみに、以下が島崎藤村の詩『狐のわざ』です。
『狐のわざ』(若菜集/島崎藤村より)
庭にかくるゝ小狐の
人なきときに夜よるいでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾わが心
『黒ぶだう』に含まれる寓意とは、うまく逃げる狐(野生生物)と、取り残されながらも人間との絆を深める仔牛(家畜)を通じて、野生動物も家畜もそれぞれ生きていける調和された世界、自然と人間の在り方、酪農に対する期待などが描かれている、という見方ができるようです。
狐人的には、『ヘルバ伯爵が上着のかくしに手をつっこんで』いた理由(まさか拳銃とか隠し持ってないよね?)、女の子の黄色のリボン(ま、まさか仔牛を縛る綱すなわち隷属の象徴じゃないよね?)などが気になって、ひねくれものなダークな寓意を想像してしまいましたが(はたして……)。
読書感想まとめ
勉強する意味と作品の寓意を学びました。
狐人的読書メモ
最初「黒ぶ『だ』う」ってなんだ? ――と思ったけど「黒ぶどう」のことだった(旧仮名)。
岩手県花巻市のブランド牛に、ワインを作った後に残るぶどうの搾りかすを食べて育つ『花巻黒ぶだう牛』というのがいるそう。ぶどうの搾りかすは、脂肪交雑の上昇、オレイン酸(不飽和脂肪酸)増加など、肉質に良い影響を与えるという。『黒ぶだう』の仔牛がぶどうの皮も種もコツコツ噛み砕いて食べていたことから「宮沢賢治さんひょっとしてこれに気づいてたの?」との牽強付会がおもしろかった。
・『黒ぶだう/宮沢賢治』の概要
生前未発表作。寓話集中。『セロ弾きのゴーシュ』のセロも一回だけ出るよ。
・寓話集中
宮沢賢治さんの作品で草稿に「寓話集中」の書き込みがあるもの。
『蜘蛛となめくぢと狸』『畑のへり』『鳥箱先生とフウねずみ』『黒ぶだう』『クンねずみ』『フランドン農学校の豚』『紫紺染について』『茨海小学校』
・動物寓話集中
宮沢賢治さんの作品で草稿に「動物寓話集中」の書き込みがあるもの。
『ツェねずみ』『カィロ団長』『蛙のゴム靴』
・第一集
宮沢賢治さんの作品で草稿に「第一集」の書き込みがあるもの。
『黄いろのトマト』『双子の星』『貝の火』『雪渡り』
(――以上が『花鳥童話集』『童話的構図』に含まれることから、これらは関連した作品群として捉えることができる)
以上、『黒ぶだう/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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