狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『川/新美南吉』です。
新美南吉さんの『川』は文字数9000字ほど。
狐人的読書時間は約22分。
少年小説。久助シリーズ。
仲良し四人組の友情と葛藤。
感動的な理想像というよりとてもリアルな人間像です。
よく中学入試に出ます。
中学受験を考える小学生とその親御さんは必読の書。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
少年達が川の縁までやってきた。久助、ホラ吹きの兵太郎、薬屋の音次郎、森医院の徳一の四人だ。「川の中に一番長く入っていた者に、これやるよ」音次郎がそう言って美味そうな柿を出したとき、他の三人は別段驚かなかった。音次郎は普段からちょっと変わった子だったからだ。
音次郎の提案にのって服を脱ぎ、川へと入る三人。水は冷たい。徳一、久助の順でリタイアし、川の中に残ったのは兵太郎。勝負は決まったのに、見栄を張りたいのか、なかなか川から上がってこない。「柿、食べてしまおかよ」そんな兵太郎の様子にいたずら心を起こした徳一が、音次郎から柿を奪ってかぶりつく。それに久助が続く、音次郎も参加する。
ようやく川岸に着いた兵太郎はじっとして動かない。顔は真っ青である。これを見た他の三人は半信半疑だ。というのも、日頃から兵太郎はよく仮病を使って人を騙す。そしてそれがすごぶる上手い。しかしだんだん心配が募っていく。川の水は大変冷たかった。結局徳一が兵太郎をおぶって帰り、少年達は家路に着いた。
翌日平太郎は学校を休んだ。久助は、音次郎や徳一も同じ心配を持っているのだとわかった。五日、七日、十日……、平太郎は学校へ来なくなってしまった。だけどクラスメイト達はそれを気にしていない。久助は、音次郎と徳一だけは兵太郎のことで心を痛めているのを感じていたが、誰もそれを口には出さず、互いに避け合うようになってしまう。久助は先生に謝って楽になりたいと思う。そうする自分を幻影に見る。
二か月、三か月が過ぎた。兵太郎の机が廊下へ下げ出されていった。久助と音次郎は薬を持って兵太郎の家の前まで来た。しかし中から人の気配は感じられず、二人はそのまま家の前を通り過ぎてしまった。久助は友達と話したり笑ったりするのが嫌になった。暗く沈み込んでぼんやりすることが多くなった。三学期の終わり頃、兵太郎が亡くなったという噂が流れた。久助の心は、その報に接して驚かぬほどくたびれていた。
六月の日暮れ、戸外で沈んでいた久助の耳に子山羊の鳴き声が聞こえてくる。生まれたばかりの子山羊を川上に連れて行って、そのまま忘れて帰ってきてしまったのだ。子山羊はひとりで帰ってきた。久助は確信する。久助の胸に、今年になって初めての、春がやってきたような気がした。
兵太郎は帰ってきた。教室で、洋服を着て、以前より白くなった顔で、にこにこしながら座っている。兵太郎は親戚の家に養子に出されたが、どうしてもそこが嫌で、帰ってきたのだという。久助は兵太郎を見たまま突っ立っていた。自然顔が崩れて、二人は一緒に笑い出した。
狐人的読書感想
……これは凄い作品だと感銘を受けました。
久助君の胸に、ことしになってからはじめての、(①)がやってきたような気がした。
突然ですが問題です。
問.(①)には季節を表す漢字一字が入ります。最も適切な漢字を答えなさい。
新美南吉さんの『川』は、中学入試の国語の問題としてもよく取り上げられることのある作品のようですね。中学受験を考えている小学生の方、またその親御さんにはその意味でも一読して損がない物語、もちろん狐人的には万人におすすめしたい物語です。
新美南吉さんには、『川』をはじめとする「久助シリーズ」とでもすべき作品群があるそうですが、これらは「少年小説」と表されていて、たしかに「童話」とするよりは「少年小説」としたほうがしっくりくるように思います。
新美南吉さんは『狐』の童話が「感動的でとてもいい」印象なのですが、「久助シリーズ」である『川』は、人間の心理描写――リアルな少年の心理描写が秀逸な作品でした。
「久助シリーズ」
――今後もぜひ追いかけていきたい新美南吉さんの作品群です。
さて、『川』を簡単に言ってしまえば、これは少年の友情物語、となるのかとは思うのですが、『川』で描かれている友情は、物語的な、理想的な友情ではなく、非常に現実的なリアルな友情だと感じました。
まずそれを感じたのは物語の冒頭、薬屋の音次郎君に対する友達のスタンスを知ったときです。『音次郎君が奇妙な少年であるにもかかわらず、友達が音次郎君のところへ遊びにいくのは、果物が貰えるからだ』というわけです。果物が貰えるからだって……、子供らしいというか、打算的ですよね
人が思い描く理想の友人関係というのは「打算のない」関係だと思うのですが、音次郎君の友達は打算満々で、これが非常にリアルな感じがしました。
漫画やアニメで描かれる友情というのは、どこか「対等な関係」といった傾向があるような気がするのですが、それはやはり「平等」ということではなくて「対等」なんだな、と思えるのです。それは特殊能力、秀でた才能――といったものが仲間の絆の根底にあるという考えなのですが、ひねくれものの穿った見方なのでしょうか? (まあ、それなりの能力がないと少年漫画などの主人公が置かれる厳しい環境下で生き残っていけないのでしょうが……)
現実世界においても、経済力、能力、容姿――といったものの似通った者同士が、コミュニティを形成して、それを友達とか仲間とか呼んでいるのが実際のように思います。
学校で、お金持ちの子と貧乏な子が仲良くなるだろうか、運動のできる子とできない子が仲良くなるだろうか、容姿に差のある子が仲良くなるだろうか、ということなのですが。
仲良くなれたとしてそこに打算はないのだろうか。優れた者は劣った者を「自分を引き立てるための装飾物」として見ているだけなのではないだろうか。そうやって形成された人間関係を「友情」とかいっているだけではないだろうか。
……自分で言ってて性格の悪い考え方だと思わなくないのですが(さすがひねくれもの)。
ただしそうはいっても、分け隔てなく誰とでも友達になりたい(この言い分がすでに上から目線―?―というのはおいておいて)、といった気持ちも、人間にはあるのだと思います。そうでなければ、物語上の理想像的友情に感動したりはしないでしょう。
清濁併せ持つのが人間だと、常に意識したいと思っていても、こと人間関係において、僕はそのことを忘れがちになります(いつも反省させられる点でもありますが)。どうしても「清」の部分ばかりを追い求めてしまうのですよねえ……(自分の人格は棚上げにして……)。
作中の久助君についてもそれを感じるところ大でした。
川でお腹を冷やして調子が悪い(悪そうに見える)兵太郎君を見て、自分のお腹の心配をし出したり。兵太郎君が学校に来なくなってしまったのは自分達のせいと考え、それを怒られるんじゃないかと不安になったり。沈みがちになったのも、友達を想って、というよりは、兵太郎君のいなくなったことに対する周囲のある種冷ややかな反応に、世を儚んだ結果であって、結局自分本位な気持ちの表れじゃないのかな、みたいな。
しかしながら、そういった濁的な感情を抱くと同時に、久助君が兵太郎君のことを真剣に心配したり、いなくなったことを寂しく、悲しく感じたりしたことも事実であって、あるできごとによって喚起される人間の感情というものは、決して一つばかりではないことを思わされます。
この少年の(人間の)心理が非常にリアルです。ひねくれたことばかり言ってごめんね久助君、といった感じです(まだ反省が足りん!)。
ただもう少しだけひねくれたことを言わせていただくと(まだ言うんだ……)、兵太郎君がいなくなっても何事もなかったように平気でいるクラスメイト達、兵太郎君が亡くなったという噂が流れたときには「仮病のものまねが本当になった」と明るく笑い合うクラスメイト達。
五年間もともに生活したものが、ふいにぬけていっても、あとのものたちは、なにごともなかったように平気でいるのである。だがこれがあたりまえのようにも思われた。
――というところに、やはり人間社会の現実を見たように思いました。もちろん縁の薄い人の亡くなることをいちいち悲しんでいては生きていかれないわけなのですが。
ふいに、なんとなくお葬式を思い浮かべてしまいました。遺族のひとが泣いている横の別室で、笑いながらお寿司を食べ、ビールを飲む大人達……。
久助君ではありませんが「それが不思議だった」といった感じ。
もちろん、暗く湿った葬送を望まないといった向きもあるのでしょうが、たくさんの人を呼んでお葬式する必要ってあるのかな、みたいな。
……どうやら、この辺にしといたほうがよさそうです。
読書感想まとめ
……でもさ、担任の先生も兵太郎君がいなくなった理由くらい生徒達に教えてやれよ! ――というツッコミを入れる気にならないくらい(結局最後にツッコミましたが)リアルな少年の(人間の)心理描写が秀逸な少年小説。
狐人的読書メモ
今後「久助シリーズ」に注目していきたい。
ちなみに問題の答は『春』です。
・『川/新美南吉』の概要
1940年(昭和15年)『新児童文化第1冊』にて初出。第一童話集『おぢいさんのランプ』収録。中学入試国語の問題としてよく出題される作品。とくに中学受験を考える小学生、その親御さんには必読の書。
以上、『川/新美南吉』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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