狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『経験派/織田作之助』です。
織田作之助 さんの『経験派』は文字数300字ほどの短編小説です。このブログ記事で全文読めます。織田作の入りに最適。経験派の小説家はスリに会いたくて…。スリの銀次がスリをする理由とそのモデル。あわて者でなくひねくれ者の狐人のツッコミ。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(超短い、パブリックドメイン、どうぞ)
『経験派/織田作之助』
彼は小説家だった。下手な小説家だった。その証拠に実感を尊重しすぎた。
彼は掏摸の小説を構想した。が、どうも不安なので、掏摸の顔を見たさに、町へ出た。
ところが、一人も掏摸らしい男に出会わなかった。すごすご帰りの電車に乗って、ふと気がつくと、財布がない。掏られていたのだ。彼は悲しむまえに喜んだ。
「これで掏摸の小説が書ける」
彼は飛ぶように家へ帰った。そして机の前に坐ると、掏られたはずの財布がちゃんと、のっている。持って出るのをうっかり忘れていたのだ。
彼は原稿用紙の第一行に書かれている「掏摸の話」という題を消して、おもむろに、
「あわて者」
という題を書いた。そして、あわて者を主人公にした小説を書き出した。
狐人的読書感想
ふむ。短っ!
これまで読んできた文豪小説のなかでも、トップクラスの短さですね。
(文豪小説のなかでいまのところトップの短さ―112文字―の読書感想はこちら)
そろそろ「このブログで全文読めるシリーズ」をまとめようかなあ、と思う今日この頃なのですが(すると半分くらい夢野久作 さんの「九州日報シリーズ」になってしまいそうですが)。
しかし短いなかにも織田作之助 さんらしいユーモアが感じられて、思わず「クスリ」してしまったのは、きっと僕だけではないでしょう。
近年は『文豪ストレイドッグス』や『文豪とアルケミスト』などの影響で、いままで知らなかった文豪の名前を目にする機会が増えたように思います。
『経験派』は、織田作ファンならずとも、読書好きなら「この作家の他の小説をもっと読んでみたい!」と思えるような作品です。
短さと相まって、入りとしては最適の一冊。
このブログ(狐人日記)では、織田作之助 さんの短編小説の読書感想を書いているので(これからも定期的に書いていくつもりなので)、「織田作之助」カテゴリーから他の作品も見繕っていただければ幸いです。
『経験派』の小説家のようにスリを題材にした『掏摸』の銀次?
さて、『経験派』は経験したことを小説に書く小説家のお話でしたが、僕としては、小説家と聞けば、やはり空想を小説に書くイメージが強く、経験をもとに小説を書く一派を「経験派」といわれてみれば、なんだかちょっとカッコよく感じてしまいます(ちなみに織田作之助 さんは「無頼派」と呼ばれていますよね)。
この物語の主人公で、小説家でもある彼を「経験派」としているわけなのですが、下手な小説家とか……、どちらかといえば否定的に描かれていますよねえ……、実感を尊重し過ぎるのもよくない、といった織田作之助 さん自身の実感なのでしょうか?
とはいえ、スリを題材にしようとした発想力はなかなか。スリに出会おうとする行動力もすごいですよね。「経験派侮りがたし!」と思ってしまうのは、僕だけ?
ところでスリって最近、あんまり聞かないような気がしていたのですが、じつはそんなこともないようですね。
というのも、「スリ」で検索してみたら、先日(2017年3月14日)にスリが逮捕されているニュースを見つけました。韓国籍の人で、朝は東京メトロ銀座線、夜はJR山手線を狙っていたといいますから、やはりスリといえば電車ということになるようですね(「仕事はスリだ」と豪語しているところがすごいですね、この人)。
……そういえば、『桃鉄』に「スリの銀次」というキャラがいますよね。所持金を全額持っていかれた日には思わずゲーム機やコントローラーを投げたくなってしまいますが(僕だけ?)、所持金が0のときはお金を恵んでくれることもあって、なかなか憎めないところもあるキャラではあります。ちなみに、スリの銀次がなぜスリをするのかというと、かぐや姫にフラれたのが原因で、やさぐれてしまったからなのだとか。理由なんて考えたこともありませんでしたが、聞いてみればおもしろいお話です。
さらに、スリの銀次には実在したモデルがいて、その名も「仕立て屋銀次」といいます。呼び名の由来は和服の仕立て職人であったこと。なるほどスリの銀次も和服を着ていますね。仕立て屋銀次は明治時代のスリの大親分で、全盛期には250人の手下がいたといいますから、これを知ると、『経験派』の小説家がスリの小説を構想した気持ちも、ちょっとわかるような気がしてきます。
浅田次郎 さんも仕立て屋銀次をモチーフにして、『天切り松 闇がたり』を書いていますし、中村文則 さんはそのもの『掏摸』というタイトルの小説を執筆されていますよね。江戸川乱歩 さんも『指環』という短編小説のなかでスリを題材にしています。
……こうして並べてみると、スリは創作するのに、なかなか興味深いテーマだと思えてきました。
(スリを題材にした江戸川乱歩 さんの『指環』はこちら)
『経験派』の小説家はどうやって電車に乗ったんだろう?
しかしながら、財布がないことに気づいて、悲しむ前に喜んだ彼の気持ちは、ちょっと理解に苦しみますが、どうでしょう? 「あわて者」というよりは「変わり者」なのでは……、と、ひねくれ者の僕などは思わず思ってしまいますがいかがでしょうか? (変わり者ゆえの天才、なのかもしれませんが)
(天才や才能を思う読書感想はこちら)
- ⇒文鳥/夏目漱石=文鳥は淡雪の精。世話のできない人は飼っちゃダメ!
- ⇒笑われた子/横光利一=吉の凶な人生。自分の将来は自分で考えて決めよう!
- ⇒器楽的幻覚/梶井基次郎=音楽を弾くにも音楽を聴くにも音楽を書くにも才能が要る?
そして、そんなひねくれ者の僕からしてみたら、ツッコミどころが1点あります。それは「財布を家に忘れてどうやって電車に乗ったんだろう?」ということ。財布を持って出るのをうっかり忘れてしまうような彼が、定期券だけはしっかり持って出ていた、とは考えにくいんですよね。それ以前に、定期券を持っている小説家って、なかなかイメージしにくいのですが、実際はどうなんでしょうねえ……。
ひょっとしておサイフケータイ? ――なんてわけは、時代的にありえないのですが、しかしそう考えると、現代だからこそ納得できる理由付けができて、これは結構現代的な小説なのか? ――と、ちょっとした発見をした気分になりました(本当にそうなのか?)。
前述したように、スリといえば最近あんまり聞かないように思うのですが、それは僕が財布を掏るスリをイメージしているからであって、そういえばスマホを盗む窃盗犯の話はよく耳にするように思います。
衝撃映像を紹介するテレビ番組で、長い棒のようなものを使って、器用に盗んでいるのを最近見たような見なかったような……。
そう考えてみれば、スリの大親分も、250人の手下を抱える窃盗団も、現在でもありそうで(スリに限らなければ実際あるのでしょうが)、俄然創作の興味深いテーマに思えます(当然のことながら、犯罪はよくないことではありますが)。
スリに遭ったと思い、喜んで飛ぶように家へ帰った彼が、机に乗っている財布を見て、タイトルを「掏摸の話」から「あわて者」にして書き始め、出来上がった小説を『経験派』として発表したのかなあ……、と想像してみたら、著者の人柄に触れたような気持ちになって、狐人的により楽しめた小説でした(もちろん勝手な想像ですが)。
読書感想まとめ
「短っ!」と言ってしまうほど短いので、織田作之助 さんの小説を読む入りとしても最適な作品。無頼派の織田作之助 さんが書く『経験派』の小説。桃鉄の「スリの銀次」、浅田次郎 さんの『天切り松 闇がたり』、中村文則 さんの『掏摸』など、創作の題材として興味深いスリ。財布を忘れて、主人公はどうやって電車に乗ったのか? ――という狐人的ツッコミ。おサイフケータイ? 「掏摸の話」からの「あわて者」からの『経験派』がおもしろい!
狐人的読書メモ
そろそろ「このブログで全文読めるシリーズ」をまとめよう!
・『経験派/織田作之助』の概要
1976年(昭和51年)発行、『定本織田作之助全集 第六巻』(文泉堂出版)に収録された短編小説。
以上、『経験派/織田作之助』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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