文鳥/夏目漱石=文鳥は淡雪の精。世話のできない人は飼っちゃダメ!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

文鳥-夏目漱石-イメージ

著作者: katmary

今回は『文鳥/夏目漱石』です。

夏目漱石 さんの『文鳥』は文字数12600字ほどの短編小説です。三重吉の勧めで文鳥を飼うことになる主人公。淡雪の精のような「千代千代」鳴く文鳥が可愛い小説。ちょっと読めばオチが読めます。今日はダメな日みたいですが読んでもらえたら幸いです。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

主人公は、三重吉の勧めで、文鳥を飼うことになる。朝、文鳥に餌をやらなければと思うけれど、なかなか起きられない。ぐずぐず言いながらも、一応文鳥の世話をする主人公。その間、つぶさに文鳥を観察する。小説を書いているときには、文鳥の「千代千代」という鳴き声を聞く。

淡雪あわゆきせいのような文鳥に、主人公は昔知った美しい女の姿を重ねる。三重吉によれば、慣れてくると、文鳥は人の顔を見ても、「千代千代」と鳴くようになるという。いつか主人公も指の先から餌をやってみたいと思う。

しかし次の日も、そのまた次の日も、主人公は寝坊する。そのうち家人が、文鳥の世話をするようになる。ただ文鳥の声を聞くだけが役目のようになってくる。

たまに文鳥の様子を見る。主人公の顔を見て「千代千代」と鳴くことはない。文鳥が行水する姿に、またしても昔の女の思い出がよみがえる。小説が忙しくなってくる。

ある日、文鳥は動かなくなっていた。餌壺に餌はなく、水入に水はなかった。主人公は下女を呼びつけて叱責する。それから三重吉に葉書を書く。文鳥を、頼まれもしないのに籠に入れ、餌をやらないのは残酷だ。

三重吉から返事がくる。そこには、文鳥はかわいそうなことをいたしました、とあるばかりで、家人が悪いとも残酷だとも書かれてはいなかった。

狐人的読書感想

さて、いかがでしたでしょうか。

これからつらつらと読書感想を書いていくわけなのですが、しかし僕の感想を一言で言うならば、おそらく『文鳥』の主人公と同じように、「感情のやり場に困った」小説ということになるでしょうか。

文鳥のこと(いい話をしようとして失敗する)

シマエナガちゃん

主人公が、三重吉への葉書に書いているように(「君が言うなよ!」ですが)、人間の、他の生命に対する残酷さに、もっと憤らなければいけないような気もしますし、しかしながら、愛らしい文鳥の幻想的な描写や、静と動、冷と温を思わせるような書斎と縁側の対比など、すごくいいと感じさせられるところがあって、つまりは上のような感想になってしまうわけなのですが、どうでしょう?

さすがに文鳥は軽いものだ。何だか淡雪あわゆきせいのような気がした。

すみれほどな小さい人が、黄金こがねつち瑪瑙めのう碁石ごいしでもつづけ様にたたいているような気がする。

とくにこの引用のような、文鳥の幻想的な描写には惹かれました。実際にそんなふうに聞こえるのかはわかりませんが、「千代千代」という鳴き声もなんかいいですよね、趣があって(これは三重吉の手柄かもしれませんが)。

この僕が、思わず「文鳥飼ってみたいなあ」と、思わされてしまうほどでした。

――とはいえ、この主人公に負けず劣らず面倒くさがりの自信があるので(どんな自信だよ……)、実際にペットを飼ってみることはないでしょうが。

「世話のできない人は飼っちゃダメ!」ですよねえ……。もしもこの作品に教訓を見出すのなら、これが最大の教訓なのではないでしょうか(ひょっとして読み方が浅い)?

(ペットについて考えさせられた読書感想はこちら)

そもそも、文鳥の結末については、はじめから嫌な予感がさせられていたんですよねえ……、「あ、この人やっちゃうな」みたいな。

期待を裏切り、誰もが驚く、大どんでん返しの結末を好む傾向が、現在のスタンダードといえるのではないでしょうか?

そう思ってみると、ここまでオチを明確に予想させられて、それを裏切らない小説も珍しいように思います。しかもそれでいて、読まされてしまう力があるという……、そう言ってしまえば、現代にはあまり見られない凄い小説のような気もしてきました。

ちなみに文鳥の寿命は7~8年だそうです。さらにつがいの文鳥は、パートナーがいなくなってしまうと、寂しさからくるストレスで、もう片方もすぐ後を追うことになるのだとか。文鳥の愛情の深さを感じさせられてしまうお話ですが、すぐに新しいパートナーが見つかると大丈夫なんだとか――なのでやっぱり動物の生態に「愛」を見出そうとするのは、人間のエゴなのかなあ……、といった、いい話をしようとして、できなかった、というお話でした。

女性のこと(きれいにまとめようとして上手くいかず)

文鳥-夏目漱石-狐人的読書感想-イメージ-1

この作品で気になることといえば、三重吉って誰? ということ――ではなくて、主人公が思いを馳せる美しい女性のことではないでしょうか? (かつての恋人?)

これは調べてみると、夏目漱石 さんの義父・塩原昌之助 さんの後妻の連れ子で、家族として暮らしていた日根野れん さんという女性がモデルになっているのでは? ということでした。

この女性は、『文鳥』連載開始の10日前にお亡くなりになっているそうで、ゆえにこの作品は「日根野れん追悼作品」とも呼ばれているのだとか。そして、日根野れん さんは、夏目漱石 さんが18歳のときに嫁入りしていて、夏目漱石 さんは、これに対して否定的な意見を持っていたかもしれず――その思いが作中にも反映されているのでは? と、みられる描写があります。

いったん行けばむやみに出られるものじゃない。世の中には満足しながら不幸におちいって行く者がたくさんある。

たしかに昔の「嫁入り」からは、「籠の中の鳥」をイメージさせられるところがあります。文鳥が動かなくなってしまったことと、この女性が嫁入り先でお亡くなりになったこともリンクして、三重吉に出した葉書の内容も、このことに対する著者自身の想いが綴られていたものと見るならば、考えさせられるところがあります。

自分にはどうにもできなかったこととはいえ、何もできなかった自身への怒りが、やり場のない思いとなって表れているようにも感じました。

――とはいえ、文鳥の件については100%主人公が悪いのですが……(なんか今日はきれいにまとめようとして全然上手くいきません。ひねくれものの本領が発揮され過ぎている……)。

ちなみに三重吉は、夏目漱石 さんの門下生のひとり、鈴木三重吉 さんと考えられるそうです。のちに児童雑誌『赤い鳥』の編集発行人となった人らしく、『赤い鳥』といえば無知な僕でも(新美南吉 さん作品に触れたときに)聞いたことがあるので、どうやらこちらも有名な方のようですね。

天才のこと(ついには醜い部分をさらけ出す)

文鳥-夏目漱石-狐人的読書感想-イメージ-2

さて、最後は「天才には変人が多い」みたいな(?)お話です。

『文鳥』を読むに、この主人公からは、明らかに文学的才能が感じられます(夏目漱石 さんに対してこれをいうのは不遜過ぎるので、あえて小説の主人公、と切り離して語ります)。

しかしながら、適当な言動が目立っていたり、文鳥に女性を重ねてみたり、ちゃんと世話をしなかったり、それで文鳥をかわいそうなことにしてしまったり、挙句それをひとのせいにして怒ったり……、とても人格者とはいえそうにありません。

だけど僕は「人格者って何?」と思うことがあります。

テレビなんかで、スポーツ選手のインタビューなどを見ていると、この人は本当に人格者だなあ……、と思う反面、しかしそれは「ひとに嫌われたくない」心の表れであって、「演じられた姿」であって、それがすなわち「人格者」というものなのではないかと、ひねくれて思ってしまうことがあります。

そんな姿を見ていて、ああ自分も人格者になりたい、と思う一方で、人格者を演じることなく、あるがままの自分でひとに受け入れられたい、と思います。しかし、あるがままの自分というものは、とても醜いものなのです。おそらく誰からも見向きもされず、嫌われるのは目に見えている――だから人は、程度の差こそあれ、「ひとに好かれる自分」を演じて、生きていかなければならないのではないでしょうか?

そして、自覚的でも無自覚的でも、それをしなくても生きていけるのが、ひとつ天才と呼ばれる人たちなのではないでしょうか(あと権力者とかお金持ちとかも)?

才能があるから変人なのか、変人だから才能があるのか、みたいな話はありますが、自分を飾らなくても、その才能ゆえに許されてしまうような側面が天才にはあるように思い、それを羨ましく思うことがあります。もしも才能のないただの変人だったら、いうまでもなく、人間社会で生きていくのは、とても困難なのではないでしょうか。まあ、その人物じゃなくて才能が愛されているんだよ、といってしまえば、なんだか寂しい話のような気もするのですが。

(才能についての読書感想はこちらにも)

いい話をしようとしてできず、きれいにまとめようとして上手くいかず、むしろ醜い部分をさらけ出してしまった、といったお話でした(……今日はダメかもしれない)。

読書感想まとめ

「感情のやり場に困った」小説。文鳥のことでいい話をしようとして失敗し、女性のことできれいにまとめようとして上手くいかず、天才のことでついには醜い部分をさらけ出してしまいました……。

狐人的読書メモ

なんか今日はダメだったなあ……。
まあ、よくよく考えてみたら、決して今日だけに限った話ではないのだけれど。

・『文鳥/夏目漱石』の概要

1908年(明治41年)『大阪朝日新聞』にて初出。

以上、『文鳥/夏目漱石』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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