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あらワド:彼女たちの正体/寿命を減らした/大きな代償/能力名:たった一人の恋人(マイリトルラバー)/能力名:友達以上恋人未満(グッドフレンズ)/初めて好きになったひとのために、何かをしてあげるために生きて
4
一週間後、再びのハローワークなう。
「サトウさん、またきてくれたんですね」
かわいい感じのメガネをかけたおねーさんが、やっぱり二人きりの個室で対応してくれた。
「まあね。さすがに社内潜入してるお姉さんのほうに、わたすわけにもいかなそうだったし」
俺は、極小のマイクロチップ入りのケースを、おねーさんに見せながら言った。
「ハル姉さんは、潜入しているYAPOO!株式会社の社員として、機密漏洩がないよう、会社から監視されていますからね。お気遣いいただいてありがとうございます。ところで、私たちが姉妹だって、いつ気がつかれたんですか?」
「え? 会社の面接で、お姉さんに会った瞬間だよ。よく似てるもん。だから俺、あのとき早々にハローワークのおねーさんに会いたくなっちゃったし。てか、ハル姉さんって……ひょっとしておねーさんの名前はナツさん? だとすると、タウンで会ったロリ巨乳の妹はアキちゃん? じつはもう一人の妹、フユちゃんがいたりするの? みんな組織の一員なの?」
「そうですよ。あまり似てない姉妹だって、よく言われるんですけどね。名字もシキノなので、仲間内ではシキノ姉妹なんて呼ばれてます。フユはまだ小学生なので、アキのことをそんなふうに呼ぶサトウさんに会わせるのは、ちょっと不安ですね。今回は登場しなくてよかったです」
おねーさんはニッコリ。
「まだちょっと、刺激的な体験が抜けきっていなくって。決してセクハラのつもりではなくて。てか、アキちゃんとやましいことは何もなく……」
「わかってます。アキから連絡もらってます。サトウさん、まだ童貞なんでしょ?」
「いや、ナツさん、それ逆セクハラだよ」
「あ、失礼しました。またサトウさんに会えたと思ったら、うれしくなっちゃって、つい……てへっ」
「てへっ」って(今度は俺の心眼補正ではない)。やっぱり、てれた顔もかわいいな。
ひょっとして、デレてくれたのかな?
またしても無職の俺じゃやっぱムリか。
「アキ、落ち込んでましたよ。わたしって、女の子としての魅力がないのかなあ、って」
「そんなことはありえないよ!」
つい言葉に力がこもってしまった。
実際ヤバかった。篭絡寸前だった。着エロとかロリコンとかシスコンとか、これまであまり意識してこなかった性癖に、アキちゃんのおかげで俺は目覚めてしまったかもしれないんだから。
「あ、アキ、ちゃんと脱出できたんですよ」
「それはよかった」
いろいろな意味において、あんなにいい子がこの世界から失われてしまうのは、人類の大きな損失に他ならない。いや本当に、大げさでなく。
「なんか、お義兄ちゃんのホントの義妹になる! とか、妙にはしゃいでましたけど、向こうで何かあったんですか?」
「……いえ、べつに何も」
俺は偽妹(将来の義妹?)の存在を、天使の助力を得たと捉えるべきなのだろうか? それとも、悪魔の誘惑が現れたと考えるべきなのだろうか?
「さて。それでは雑談はここまでにして、本題に入りましょう。そのフェムトライズ関係のデータが入ったマイクロチップ、どうすれば引きわたしていただけますか? マイクロチップの代償に、私は何をお支払いすればいいんでしょう?」
ハローワークのかわいいおねーさんが――ナツさんがまじめな顔で俺に聞いてくる。
「じゃ、また俺が正社員になれるように、お手伝いしてくれる?」
俺はナツさんにそう答える。
「……そんなことで、いいんですか?」
ナツさんはきょとんとした顔をする。もちろん、きょとんとした顔のナツさんもかわいい。
「ハローワークで本題って、それ以外になくない?」
「サトウさんって変なひとですよね」
ナツさんはくすりと笑う。じつはそれはたまに言われる。よく言われるといってもいいかもしれない。
「私、けっこう覚悟決めてたんですけど」
「ちなみに、どんな覚悟してたの?」
「もちろん、×××させろ! とか。××プレイさせろ! とか。××だけをつけて深夜の街を××したあと、公園で××させられた挙句、××だ! とか――」
「どんな覚悟してたの!」
伏字を使えばいいってもんじゃない。
「てか、ハルさんもアキちゃんもそうだったけど、君たち俺にどんな偏見を抱いてるんだよ……」
まあ、アキちゃんの妹シチュは、のちの彼女たちが姉妹だったということへの伏線だったとしても、脇フェチとか裸エプロンとか変態プレイとかは偏見が甚だしすぎるだろ。ひきこもりとかオタクとか童貞とか――世間一般の受ける印象ってそんな感じなの? 断固抗議したいんですけど。
「だって、私たちは、サトウさんを利用したんですよ? 1週間のフェムトライズで、サトウさんは84日も寿命を減らしたことになりますし、それより何より、サトウさんにとっては、一生あそこで暮らしたほうが、幸せだったかもしれませんし……何をされてもさせられても、文句は言えないかなって」
そう言われてみると、俺もけっこう大きな代償を支払ったことに気づく。だけど――
「前に言ったでしょ? 俺には生きる価値も希望もない、何のために生きてるんだかわかんない、ってさ。あれってけっこう本音なんだわ。だから――」
だから、初めて好きになったひとのために、何かをしてあげるために生きてみるのも、悪くないんじゃないかって、そう思ったんだ――なんて、言えるわけない!(そもそも恋だとは思ってなかったけど、変だとは思ってたんだよ。初対面であれだけベラベラと自分のこと話しちゃうなんて。男のグチなんて、それこそ一緒にいて安心できる女性にしか話さないものなんじゃないの? まあ、それに気づいたのはけっこうあとのことだったんだけれども)
「まあ、利用されそうなのは、はじめからわかってたわけだし――」
俺のムチャな希望どおりの仕事がいきなり見つかって、その日のうちに面接が決まるなんて、いくらなんでも話がスムーズに進みすぎるし、ことがうまく運びすぎる。
「だから、まあ、心の準備はできてたわけで、利用されてもべつにどうってことないし、寿命が一気に減ってくれたのは、生きる意味のない俺にとっては幸いだし、その、まあ、ナツさんがそれで喜んでくれるならうれしいし――」
としか、結局俺には言えない。
「てか、いまだって、まだ利用されてるんじゃないかって、疑ってるし。たとえば、ナツさんには特殊能力があって、それは、『好きなひとを一人だけ、自分を好きにさせて、好きにできる能力』で、能力名は『たった一人の恋人(マイリトルラバー)』って感じ」
てか、俺は何をオタクっぽいことを……いや、中二っぽいことを言ってるんだ? たしかに昔(中二のとき)、同級生や先生、友達のお姉ちゃんや妹、近所のおばちゃんやおばあちゃんまで、なぜかあらゆる年代の女性にモテるのに、恋人以上には決してならない自分の特性を、中二病っぽく常時発動型スキルとして、能力名を『友達以上恋人未満(グッドフレンズ)』と命名した黒歴史があるけれど――全然封印できてない!
こんなことを言ってたら、ナツさんに嫌われてしまうぞ。
ところが――
「……サトウさん、さすがにゲームをたくさんなさるだけに、想像力がゆたかですね。小説家さんか、漫画家さんになれそうです」
ナツさんはやさしくそう応じてくれた(べつのやさしさではないことを祈るばかりだ)。
「いやいや、俺は正社員になるって決めたから」
ああ……。あんなにも気軽に『俺と結婚を前提に付き合って』なんて言えてた3週間前の自分が懐かしい。
「わかりました。私は生活できる分だけのお金をきちんと稼いでくれれば、それでかまわないんですけど、サトウさんがそうおっしゃるなら」
ん? どういう意味だろう?(俺が一目惚れした相手が、俺に一目惚れしてくれるような、ご都合主義的展開は――さすがにないか)
「そういえばさ、アキちゃんが無事に戻ってるなら、フェムトライズのデータはアキちゃんが持ち帰ってるんじゃないの?」
「いいえ、脱出の障害になるので、あやしまれそうなものは持ち出させなかったんです。まあ、サトウさんが協力してくれなかったら、危険を冒してでもアキにデータを持ち出してもらわなければなりませんでしたけど、その必要はなくなりました。私もハル姉さんもフユも、正しき人類の未来ために覚悟はできていますが、やっぱり姉妹は大切なんです」
だからサトウさんには、姉妹一同すごく感謝してるんですよ、などと言われれば、やはり悪い気はしない(てか、すごくうれしい)。
「では、さっそく、いまから職探ししますか?」
すかさずナツさんが――ハローワークのおねーさんが、にこやかに笑って、はりきって俺に言う。
だけど俺は――
「いや、じつは職探しの前にやっておかなきゃならないことがあって、今日はこれで」
俺はナツさんに(マイクロ)マイクロチップの入ったケースをわたした。
「そうですか。では、またのお越しを心よりお待ちしております」
<つづく>
※ここまで読んでいただきありがとうございました。
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