ペットショップのぼくの一日

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しょーとぼっくす 目次

 

読書時間:およそ10分。
あらすじ:店員さんのくれるごはんはおいしい。お昼寝をして見る夢は楽しい。お客様に買ってもらえるよういっぱいいっぱいアピールする。だけど彼女がいう。どうして人間に飼われなきゃいけないの?

 

白い光がパッとついて、世界が明るくなると、またぼくの一日が始まる。

朝はまず、ショーケースの掃除がある。本当は、店員さんに遊んでほしいのだけれど、よい子だと思われたいから、我慢しなくちゃいけない。

掃除が終わるとごはんがもらえる。ごはんの時間はいつも楽しみで、お行儀悪いかな、とは思うのだけれど待ちきれなくって、早くごはんこないかなこないかなって、ついついガラスに顔を押しつけたりして、店員さんがお皿を持ってくるのを待ってしまう。

ごはんはおいしくておいしくておいしくて、お皿のごはんはみるみるうちに減っていって、気がつくとごはんはなくなってしまっていて、やっぱり悲しくなってしまう。まえに、いっぱいおねだりしてみたのだけれど、いつもおかわりはもらえなかった。だからもうおねだりはしない。ごはんの時間、ガラスに顔を押しつけてしまうのも、もうやめたほうがいいのかな……?

それから少しずつお客様が来店し始める。早く買ってもらえるように、いい子にします、買ってくださいって目をして、いっぱいいっぱいアピールしなくちゃいけないんだけれど、ごはんのあとはどうしても眠くなってしまって、まぶたが重くなってきて、うつらうつらしているうちに、知らず知らずのうちに寝てしまっている。

……………………。

ぼくは夢を見ている。緑色の丘に、赤や黄色のお花がたくさん咲いていて、そこを女の子たちが駆けまわったり、寝転びながらお花を摘んでいたり、それで花かんむりを作って、お互いの頭にかぶせ合って、くすくす笑っていて……ぼくはもちろんここから出たことはなくて、だから緑色の丘にも行ったことがなくて、それはいつか見た、宣伝用の店内モニターに出てきた、ペット用品か何かの広告映像なのだけれど、ぼくは、いいなあ、楽しそうだなあ、ぼくもあそこに行って、女の子たちと遊びたいな、なんて考えていると、ハッと目が覚める。

目を開けると、ぼくのショーケースの前に一組の母子のお客様がいて、ぼくはあわてて、いい子にします、買ってくださいって目をする。でもすぐにお腹が痛いことに気づいて、おしりもむずむずしてきて……急いでトイレに向かう。お腹に力を入れるとうんちが出た。

『あー! ねえ、おかあさん、見て見て! うんちしてる!』

子供のお客様は、ぼくがうんちしているところを見ながら、うんちしているぼくを指さしながら、笑っている。ぼくには人間の言葉はわからないのだけれど、ちゃんとトイレでうんちできるところを見せられたのだから、きっとよい印象を与えられたはずだ。だけど、誰かにうんちしているところを見られると、どうして、もじもじした気持ちになるんだろう? ほかのみんなもそうなのかな? 今度誰かに聞いてみようかな? でもなんだか聞きづらいな。もじもじしたくないから、お客様がいなくなるまで、うんちを我慢すればよかったかな? でも、トイレ以外の場所でしてしまったら、また三、四日、ごはん抜きのおしおきをされるかもしれない。ぼくはあのときの空腹の苦痛を思い出して、それを打ち消すように、ぶるぶると首を振る。

すると店員さんがごはんを持ってくる。いつのまにかお昼になっていたようだ。ぼくはごはんを見ると、夢のことも、もじもじのことも、おしおきのこともすっかり忘れて、さっそくごはんを食べ始める。ごはんはおいしくておいしくて、みるみるうちに減っていって、気がつくとなくなってしまっていて、やっぱり悲しくなってしまう。誰かに買ってもらえたら、たまにはおねだりしてもいいのかな? ご主人様はおかわりをくれるかな?

……………………。

カップルのお客様がぼくのショーケースの前に立つ。ぼくは、いい子にします、買ってくださいって目をする。だけど、それだけじゃアピール不足なのかなって、最近は考えるようになってきていて、だから新しいアピールを試してみることにする。ぼくは右手と左手を交互に挙げて、顔の横で手招きのポーズをして見せる。

『あ! ねえ、見て見て。なんかこの子、かわいいことしてるよ』

『ああ、たしかに。でもさ、今日の目的はそんな子供のオスじゃなくて、もっと大人のオスだからさ』

『えー、そうだったの?』

『そうそう、うちのと交尾させて、観賞して楽しもうと思っててさ』

『あー、最近流行ってるよね、ペットの交尾観賞。おもしろいの?』

『そりゃあ、おもしろいよ。交尾って一口に言っても、いろいろなヤらせかたがあるからね。とても高尚な趣味だよ』

『えー、なんか変態っぽいんだけどー』

カップルのお客様が笑い合いながら行ってしまう。ぼくはがっかりしてしまう。女のひとの反応は悪くないように見えたんだけどな。しばらく試してみようかな……。

「ねえ」

ふと、隣のショーケースから呼ばれて、ぼくはそちらのほうを向く。ショーケースの壁越しに、ほかのペットと話ができる。

「あんたさ、恥ずかしくないの? あんなやつらに媚びちゃってさ」

彼女は最近このペットショップにやってきた。普通とは違うところからきたらしい。そこがどんなところなのかは、ぼくを含めて、ペットの誰も知らない。そのことについて彼女は頑なに口を閉ざしている。

「でも、気に入ってもらえなきゃ、買ってもらえないじゃない?」

彼女の呆れたようなため息が聞こえてくる。

「ねえ、なんでわたしたちはあいつらに飼われなきゃいけないわけ?」

「そんなこと言われても……人間が飼ってくれなくちゃ、ぼくらは生きていけないよ」

「そんなことやってみなくちゃわからないでしょ? それにあいつらが、頼んでもいないのに、わたしたちをこんなふうにしたんじゃない! あいつらはわたしたちよりも大きいでしょうよ、強いでしょうよ、賢いでしょうよ、偉いんでしょうよ。だけど、だからって、ほかの生き物を愛玩動物にして、都合のいいように品種改良したりして、食べるわけでもないのに、遊びのために、生物それぞれの本来の在り方を歪める権利が、どうしてあいつらにあるの?」

「でもでも、人間はごはんをくれるでしょ、遊んでくれるでしょ、ぼくたちを守ってくれるでしょ」

「それがおかしいのよ。食べ物を与えれば、遊んであげれば、守ってあげれば、何をしたっていいの? 子供を食べさせて、遊んであげて、守ってあげるからって、親は子供に何をしたって許されるの? 愛玩動物にして、本来の生き方を奪って、命を弄んでもいいっていうの? ねえ、あんた、考えたことないの? 自由になりたいって」

ぼくは緑の丘の夢を思い出す。

「……ある。あるけどさ、自由ってすてきなことばかりじゃないはずだよ。ごはんを自分で探さなきゃいけないし、ほかの生き物に殺されちゃうかもしれないし、すぐに死んじゃうかもしれないじゃない……」

「愛玩動物として縛られて生きるくらいなら死んだほうがマシよ」

「それは……ぼくにはわからないよ……」

自由に生きたことなんてない、ぼくにはそんなことわからない。

「でもでも、早く買ってもらわなくちゃ、やっぱりダメだよ。売れ残ったらおしまいだよ」

売れ残ったペットは、値段を下げて買ってもらったり、繁殖用にブリーダーさんに引き取ってもらったり、里親を探したりして、なんとかしてくれるというけれど、殺処分がないわけじゃないとも聞く。

売れ残ってしまって、悪い引き取り屋さんに買われてしまったら、狭くて汚い檻の中にぎゅうぎゅうに入れられて、ごはんもろくに食べさせてもらえなくて、死ぬまで繁殖させられて、繁殖能力がなくなれば……ぼくはそのうわさを思うだけで震えてくる。

「君は、その……きれい、だから。だからきっといいお客様に買ってもらえるよ! いいお客様に買ってもらえたら、ちゃんとごはんがもらえて、ひょっとしたらおかわりももらえて、遊んでもらえて、幸せになれるかもしれないでしょ? その幸せと自由の幸せと、どっちがいいのかなんて、ぼくにはわからない。わからないけれど、いまできることで、いまできる幸せを手に入れるために、いまできることを一生懸命やるしかないじゃない」

それはどんな生き物だって、人間だってペットだって、おんなじなんじゃないかな。

「……でもさ、まえはわたしたちが、人間だったんだよ」

彼女はなんだか悔しそうに、ぽつりとそう呟いた。ぼくにはその意味がよくわからなかったのだけれど、なんとなく、詳しく聞いてはいけないような気がした。

「…………」

それから彼女はしばらく黙ったままだった。

「ねえ、一緒にオナニーしよっか」

それからいきなりそんなことを言い出した。

「え、おなに? なにそれ?」

「くす。やったことないの? 幸せになれることだよ。わたしがオナ指示してあげる。……ねえ、わたし、いま、胸、さわってるよ。んっ、いま、あそこもさわってる」

……彼女はいま、胸とあそこを、さわってる。

「あそこって、どこなの?」

「ふふ、想像してみて、あそこって、どこだと思う? ……ん、あんたが思うあそこを、さわってみて」

ぼくは彼女の、女の子のきれいなからだを思い浮かべる。それからあそこをさわってみる。

「あそこ、さわってみた? どんな感じ?」

「……へんな感じ。なんかいつもよりかたいような、おっきくなってるような、へんな気がする」

「……うん、それでいいんだよ……あっ、わたしも濡れてきた。ねえ、もっとあそこ、さわってみて……んっ、もっと動かしてみて」

「うん……うわっ、皮が……なんか、さきっぽ痛いけど……うらっかわのとことか……へんな感じ」

「うん。そのまましてみて」

「うん……あっ、あっ……」

……………………。

『……ねえ、店長。あれって、その、してますよね?』

『ん? ……ああ、あれは、してるね』

『まだ子供なのに。早すぎません?』

『う~ん、そんなこともないんじゃないかな? 早い子はあのくらいなんじゃないかな?』

『そうですかねえ……あ、そういえば店長、じつはまえから疑問に思ってたんですけど、なんでペットショップのペットって、あらかじめ去勢済みじゃないんですか?』

『まあ、ほとんどペットショップの暗黙の了解ってやつかな。お客様への心象の問題もあるけど。とくにオスの場合、去勢されてかわいそうだって気持ちが強く働くでしょ? たいていの動物は小さい頃ほど人気があって、すぐに売れちゃうから、ペットショップにいる時期は年齢的に手術に耐えられないってこともある。彼らの場合、あの彼くらいの、掃除がちゃんと自分でできて、トイレとかの分別もしっかりついている子供が一番人気だけどね。どんな動物でも、やっぱり赤ちゃんの世話は大変だから。あ、あと最近流行ってるでしょ、ペットの交尾観賞』

『ああ、たしかに流行ってますよね、いろんなプレイをさせるのがおもしろいらしいですよ。あっ! そうだ! あの子の……いい宣伝になるかも!』

『ああ、たしかに。この子、もう交尾できます、ってポップ作れば、早く売れるかもしれないね』

『そうですよ店長! さっそくポップ作りましょう!』

……………………。

彼女と話をして、それからオナニーをして……ぼんやりしているうちに晩ごはんの時間になっていた。ごはんはおいしくて、みるみるうちに減っていって、気がつくとなくなってしまっていて、やっぱり悲しくなってしまう。ペットショップには夜もお客様がきて、ぼくはいい子にします、買ってくださいって目をして、右手と左手を交互に挙げて、顔の横で手招きのポーズをして見せる。お客様はいい反応だったり、無反応だったり、まちまちだったけれど、ぼくは今日も売れなかった。明日のためにシャワーでからだをきれいに洗って、ペットショップが閉店して、世界から白い光がパッと消えると、またぼくの一日が終わる。明日は買ってもらえるかな……?

今日も知らない一日をぼくは生きた。

<ペットショップのぼくの一日のおわり>

 

読んでいただきありがとうございました。

 

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