狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
夢野久作 さんの『がちゃがちゃ』は、文字数900字ほどの短編小説です。スイッチョさんって誰? このブログで読めます! 未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ(今回は全文掲載)
『がちゃがちゃ/夢野久作』
草の中で虫が寄り合って相談を始めました。
蟋蟀が立ち上って、
「鈴虫さん、オケラさん、スイッチョさん。もっとこちらへお寄りなさい。だんだん涼しくなりますから、みんなで合奏会をやってお月様にきかせようではありませんか。きっと御ほうびを下さいますよ」
と言いますと、皆パチパチと手をたたきました。
虫たちはそれからすぐに合奏を始めました。
まずスイッチョが草の天辺へ立ち上って真面目腐って、
「スイッチョ、スイッチョ」
と合図をしますと、オケラが土くれの蔭に坐ってしずかなこえで
「リ――リリ――」
と羽根を鳴らします。それにつづいて蟋蟀が草の根本から涼しい声で、
「チンチロリン、チンチロリン」
とうたい出します。その中へ鈴虫が又やさしい長いひげをふりまわしながら、
「リーン、リーン、リーン」
と鈴の音をさせます。
その静かでおもしろいこと……ちょうどそのとき東の山からお昇りになった十五夜のお月様は、感心のあまり虫たちが大好きな露をたくさんにそこいらの草の上に撒いておやりになりました。
ところへ一匹の轡虫が飛び込んで来ました。
「何だ貴様たちは! おれを仲間外れにして音楽会をやるなんて失敬なやつだ。そんなことをするならおれがまぜ返してやる……ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」
と大きな声で騒ぎ始めましたので、せっかく始めた静かな美しい音楽会がメチャメチャになってしまいました。
その勢いに驚いて、あつまっていた虫たちもみんな逃げてしまいました。
轡虫は大威張りでそこいらの露をヤタラに吸いながら、
「それ見ろ。おれの音楽にかなうやつは一匹もいまい。おれは夜鳴く虫の中で一番の大きな声なんだ。みんな感心したか……ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」
とたった一人一所懸命にやっているうちに、
「お兄さま。あそこにガチャガチャがいますよ。大きな声をしているから遠くからでもわかりますよ」
と言う人間の声がすぐそばできこえましたので、これは大変と、急いでガチャガチャ言うのをやめていると、間もなく頭からポカリと袋をかむせられて籠の中へ入れられてしまいました。
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。
前回のブログ記事でも述べましたが、夢野久作 さんと太宰治 さんは、僕の中で擬人化作品の大家となりつつある作家さんなのですが。
(⇒『貨幣/太宰治=狐人的読書感想は「苦しいときほど人にやさしくなりたい」(百円紙幣萌え?)』)
『がちゃがちゃ』と聞いて、カプセルトイを思い浮かべてしまうのは、きっと僕だけではないはず……、ですよね?
(ちなみに「ガシャポン」はバンダイの商標なのですねえ……、知りませんでした)
――そういえば、成田空港でガチャビジネスが大成功しているというニュースを見ましたが。日本に観光旅行に訪れた外国人の方に、両替できなかった小銭を使って、カプセルトイをお土産にしてもらおう、といった戦略で、「あまった小銭をおもちゃに」のキャッチフレーズは、確かに着眼点がすばらしいです。
もしくは『がちゃがちゃ』と聞けば、最近では『モンスターストライク』(モンスト)や『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)といったソーシャルゲーム(ソシャゲ)の「ガチャ」の印象が強いのでしょうか? こちらも今更ですが、ゲーム自体を基本無料にして、アイテム課金で収益を得ようといったビジネスモデルも発想がいいですよね。ちなみにアイテム課金の始まりは、2001年9月に韓国と中国で同時リリースされた『The Legend of Mir 2』というオンライゲームだそう。「ガチャ」(ランダム型アイテム提供方式)は『メイプルストーリー』が2004年4月に実装したのが最初だとか。
こうしたことは、調べてみると結構おもしろいですね。オンラインゲームやソーシャルゲームは、メチャメチャはまってしまいそうで怖くて、なかなか手が出せずにいるのですが……ともかく。
話がだいぶ逸れてしまいましたが、夢野久作 さんの『がちゃがちゃ』は、カプセルトイでも課金ガチャでもなくて、秋の虫たちの音楽会のお話でした。こういった風情を感じられるというのは、日本独自の文化のようにも思えますが、じつは秋の虫の声を心地いいと感じるのは、日本人とポリネシア人だけなのだそうです。これは、西洋人が虫の声を右脳で、日本人が虫の声を左脳で捉えることに起因しています。人間は、音楽は右脳で聞き、言語は左脳で聞きます。虫の声を音楽として聞くと雑音のように感じてしまいますが、言語として聞けばそこに趣を感じられる――まさに虫の「声」を聞いているというわけですね。
秋の夜長に開催された虫さんたちの音楽会、スイッチョさん(スイッチョさんって誰? と気になる方は下の「狐人的読書メモ」をご覧ください)、オケラさん、鈴虫さん……と次々に自慢の声を披露します。そこに一匹のクツワムシさんがやってきて、「ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」……音楽会はメチャメチャに。そこに人間の兄妹がやってきて……。
「ジャイアンリサイタルか!」という読者からのツッコミが聞こえてきそうな内容ですが、クツワムシさんは『ドラえもん』に登場するジャイアンに例えられても仕方のない振舞いをしていますよね。ジャイアンといえば、先日アメリカ大統領に就任されたドナルド・トランプ さんも、ガキ大将代表であるシャイアンに例えられているニュースを、ちらほら見かけました。
確かに現代社会は、自分の意見を声高に主張する、発言力の強い者が得をしているような気もします。言い訳を、言い訳だ、と指摘できない世の中というか、諍いを起こすくらいなら言わせておこう、みたいな。自分の仕事ぶりを上手にアピールできる人は評価されて、黙々と仕事をする人はなかなか評価されにくいみたいな。
もちろん、コミュ力とか、アピール力とか、プレゼン力とかも、大切な能力であることに違いはないわけなのですが――報われるべき人が報われる世の中であってほしいと思わずにはいられない……、現代はそんな社会のような気がしてしまいます。「いつの世もそんなものだよ」といわれてしまえば、それまでの話なのですが。新アメリカ大統領、トランプ さんが、クツワムシさんのように(?)世界をどうまぜ返すのか、注目されるところです。願わくば、世界を良い方向に導いてほしい!
先日、『きのこ会議』について書いたからでしょうか、『がちゃがちゃ』も予想通りのオチでした(⇒きのこ会議/夢野久作=キノコ擬人化図鑑 アニメ化! きのこブーム再び?)。夢野久作 さんの一つのパターンなのかもしれませんね。
「最後に正義は勝つ! 悪は滅びる!」といった「勧善懲悪」の寓話であると、捉えることもできそうですが、単純にそうとも言い切れないところに、文学作品としての深さを感じてしまうのは僕だけ?
音楽会を台無しにしたクツワムシさんの行いは、たしかに「悪」といって間違いないように思いますが、しかし「ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」といったクツワムシさんの声は、生まれつきのものであって、クツワムシさんが悪いわけではありません。さらに、クツワムシさんが「仲間外れ」と言っているように、クツワムシさんを除け者にした行いは、平等という観点から、他の虫さんたちの態度にも問題があるように思いました。まあ、普段からクツワムシさんの性格が悪いから……、というのもあったのでしょうが。ただ、その性格だって、周囲にうるさがられてしまう声に起因しているのだと考えると……、何が善で何が悪なのか、といった「答えのない問題」に発展してしまいます。
結局、善悪とは観察者の主観であって、それだって、戦争に代表されるような、集団としての客観的善悪に左右されてしまう曖昧なもの……、絶対に正しいという答えはないのでしょうが、真剣に考えて自分なりの答えを出す大切さを、前々回の読書感想で学んだばかりでした(⇒運/芥川龍之介=狐人的感想は「答えのない問題」の狐人的回答(みなみけの夏奈がヒントをくれた?))。
とはいえ、文学作品の楽しみ方も、全部が全部、深い考察に基づくものである必要はないわけで、夢野久作 さんの『がちゃがちゃ』は、月のきれいな秋の夜長、虫の声が聞こえてきて――ふと思い立って手に取ってしまう――そんなふうにして、頭をからっぽにして、秋の風情を楽しめる小説だと思いました(決して深い考察から逃げたわけではない!)。
狐人的読書メモ
ガチャビジネス、課金ガチャ、虫の声……、今回の「ちょっと気になったこと」はほとんど読書感想の方に書いてしまいました。
・『がちゃがちゃ/夢野久作』の概要
1925年(大正14年)に「九州日報」にて発表された短編小説。初出時の署名は「香倶土三鳥」。
・スイッチョさんって誰?
正式名称はウマオイ(馬追い)。バッタ目キリギリス科に属する昆虫。「スイーッチョン、スイーッチョン」と鳴くことから、スイッチョという別称がつけられた。またこの鳴き声は、馬子が馬を追う声に似ているというところからウマオイとも。
以上、『がちゃがちゃ/夢野久作』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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