狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『猿面冠者/太宰治』です。
文字15000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約49分。
一行書いては消し、その一行も書けない。書いてみなければ、と書いてみるけれど、結局完成させられない。言うは易く行うは難し。一つの小説を最後まで書き上げるのは難しいって話。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
どんな小説を読んでも、二、三行読んだだけで、その小説を全部わかったかのように、鼻で笑う男がいた。そんな男はどんな小説を書くだろう。男は前に書いた「通信」という短編を長編に書き直そうと決心した。
「通信」は、主人公が困っているとき、差出人不明の通信がきて、その主人公を助ける、という物語だ。文豪を志して失敗したときの第一の通信。革命家を夢見て敗北したときの第二の通信。サラリーマンになって家庭の安楽に悩んだときの第三の通信。新タイトルは「風の便り」とする。
男は第一の通信を書き直し始めた。
十八歳の年、主人公は学校で英語の作文を先生に褒められて有頂天になる。「鶴」という小説を書き、親に金をもらって自費出版する。新聞や書店に自分で売り込んで歩いたが、その書評は惨憺たるものだった。
そんな主人公が十九歳の元旦にその通信を受け取る。それは差出人の名もないハガキ。女性からのもので、ギリシャ神話が引用されていて、混沌の世界に太陽が昇り、虹の女神アイリスが「誰も見ていないのにごくろうさまね」と笑う。太陽は「わしは太陽だから昇る。見ることのできるものは見るがよい」と答える。主人公を慰めるような内容だ。
が、「風の便り」はここで終わらず、続きは「第一の通信」を書いた現実の男に届いた通信となる。ハガキの女性は、自分に第二、第三の風の便りを書かせておいて、その小説がまだ仕上がらないことを非難しているようだ。
男は書きかけの原稿のタイトルを「猿面冠者」にした。それはどうにもならないほどしっくり似合った墓標である、と思ったからだった。
狐人的読書感想
小説の中の男が小説を書こうとしていて、その小説の主人公がまた小説を書いて、その主人公に届くハガキは、じつは小説を書こうとしている男が、女性に頼んで書かせたもので、たぶん「小説の中の男=現実の著者」ということで、最後のハガキは現実の著者が受け取ったものなんだろうなぁ……という、ちょっと構成がややこしいですが、そこがまたおもしろいと感じました。
結局、小説の中の小説は完成せず、「風の便り」とするはずだったタイトルが「猿面冠者」と改められるわけですが、猿面冠者は猿に似た顔の人を表す言葉で、豊臣秀吉のあだ名として有名なんだそうです。
結局小説を完成させられなかった男の滑稽なさまを、「猿面冠者」としたということなんですかね……ちょっと解釈に迷いましたが。
本作は「言うは易く行うは難し」ということが描かれていると思います。小説を書く話だけに、小説を書いたことのある人、書こうとしたことのある人には、より実感しやすいのではないでしょうか?
小説が好きでたくさん読んでいるからといって、実際にいい小説が書けるとはかぎりません。才能のある人は、ちょっと読んで書いてみたら、すぐ文学賞がとれちゃった、なんて話もあります。
『一行書いては消し、いや、その一行も書けぬだろう。彼には、いけない癖があって、筆をとるまえに、もうその小説に謂わばおしまいの磨きまでかけてしまうらしいのである。』
『そうだ、この調子で書けばいいのだ。やはり小説というものは、頭で考えてばかりいたって判るものではない。書いてみなければ。男は、しみじみそう心のうちで呟き、そうしてたいへんたのしかったという。発見した、発見した。小説は、やはりわがままに書かねばいけないものだ。試験の答案とは違うのである。よし。この小説は唄いながら少しずつすすめてゆこう。』
このあたりは狐人的に共感できた部分です。
時間をかけて、自分ではよい一行、二行が書けたと思っても、ある時点で書き進められなくなることがあります。
書いてみなければ、と書いてみますが、やっぱりちゃんとプロットを作っておかないと、結局どこかで筆が止まってしまい、しかしどこまでプロットを仕上げてあれば、最後までスムーズに書けるんだろう、と疑問に思ったりもします。
しかし、最後まで書けなかった話を、ひとつの小説に仕上げるというのは、逆転の発想的な、なんか目を開かされたような感じがしました。
またひとつ小説の可能性を感じた……とは、おおげさかもしれませんが、そんな感じの今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
一つの小説を最後まで書き上げるのは難しいって話。
狐人的読書メモ
・たくさん小説を読めば、いい小説が書けるってわけでもないんだろうけれど、たくさん小説を読まなければ、いい小説は書けないって思っていたんだけれど、……そんなこともないんだろうか? それが才能というもの?
・『猿面冠者/太宰治』の
1934年(昭和9年)『鷭』にて初出。私小説的。最初の頃の太宰治という小説家が描かれている?
以上、『猿面冠者/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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