狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『ズルタンじいさん/グリム童話』です。
文字2000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約8分。
要らなくなった犬はドリームボックスで幸せな夢を見られるか? 最終的にいい奴な狼はリアルな真の友達像ではなかろうか? 生きるには、友達でいるには、己の有用性を示し続けること。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ある農夫が、ズルタンという犬を飼っていた。ズルタンは年をとって歯が全部抜けてしまい、もうかみつけなくなっていた。
「明日、ズルタンじいさんを撃ってしまおう。もうなんの役にも立たないからな」
「でも、ズルタンはわたしたちのために忠実に仕えて働いてくれたし……最後まで飼ってやれないかしら?」
「それはあんまり利口じゃないね。もう泥棒だってあいつを怖がらないんだから。たしかにあいつは役に立ってくれたが、そのぶんたくさんエサをあげたじゃないか」
ズルタンは農夫と奥さんの話を聞いてしまった。悲しくなった。その晩、友達の狼のところへ話しに行った。
「おいおい、元気出せよ。心配するな。俺があんたを助けてやるから。いいことを思いついたんだ。明日もご主人たちは干し草を刈りに行くだろう? 小さな子供も一緒だ。あんたは子供の番をする。俺が子供をさらうふりをするから、あんたは俺から子供を取り返す。あんたのご主人たちはあんたに感謝して、これからはあんたをもっと大事にするさ」
狼の計画はうまく運び、それから農夫と奥さんはズルタンを大事にするようになった。ズルタンにまた幸せな日々が返ってきた。
「な、うまくいっただろ? ところで、これから俺は、たまにあんたのご主人の羊をいただいていくけど、見て見ぬふりしてくれよな」
しばらくして、狼がこんなことをズルタンに言いにきた。
「だめだよ。私はご主人に忠実なんだ。見逃してはあげられないよ」
狼はズルタンが本気で言っているとは思わずに、その夜、農夫の羊をさらって行こうとしたが、忠実なズルタンはご主人にそのことを話していた。狼はこれでもかと叩き出された。
「俺はあんたの命を助けたのに! あんたは俺を助けない! 仕返ししてやる!」
つぎの朝、狼は猪を介添人にしてズルタンに決闘を申し込んだ。ズルタンは三本足の猫に介添えを頼み、狼と猪の待つ森へ向かった。猫は三本しか足がなかったのでぴょこたんと歩いた。狼と猪は猫の歩き方を不審に思って隠れた。ぴんと立った猫のしっぽは長い剣のように見えた。
茂みから猪の耳が出ていた。猫はねずみだと思ってそれにがぶっとかみついた。猪は「木の上だ!」と飛び上がって逃げて行った。ズルタンと猫が上を見ると、そこに狼が隠れていた。
狼はびくびくしているのを見られて恥ずかしくなった。狼は照れ隠しするみたいに、ズルタンと仲直りした。
狐人的読書感想
「狼、いい奴だ!」と思ったら、「やっぱり悪い奴だったか!」ってなって、「でも最終的にはいい奴だった!」と、なんとなく微笑ましく思いました。
『赤ずきん』とか『三匹の子豚』とかが代表的ですが、ヨーロッパ系の童話では、狼は「ずる賢い悪い奴」として描かれることが多いですよね。狼が家畜を食い荒らす害獣だったからなんでしょうね。
今ではもっぱらかわいがるためのペットとして飼われている犬ですが、昔は狩りや家畜を守る番犬としての役目をはたしていたんですね。
ズルタンじいさんもそんな番犬だったわけですが、年老いて、歯が全部なくなって……もう番犬として役に立たなくなったら、ご主人の農夫はズルタンじいさんを始末しようと考えて……やっぱりかわいそうに思いました。
今では犬は家族の一員みたいになっているので、年をとったというだけで「処分してしまおう」ということはない気がしますが、しかし考えてみると、飼えなくなったペットを処分することは今でもあるわけで……調べてみたら、ペットを処分するガス室があって、それを「ドリームボックス」と呼んだりするらしく、今も昔も人間の動物への扱いってそんなに変わらないのかな、って気がします。
ご主人の農夫は、ズルタンじいさんを利用していて、役に立たなくなったら処分しようとしました。狼は、ズルタンじいさんの命を救いますが、結局それは羊を食べる自分の役に立たせたいからでした。
「お互いに利用し合わなければ生きていけない」のは、人間も動物も同じなんでしょうね、たぶん。そしてそれは「友達同士」でも同じなのかもしれないと考えさせられました。
狼とズルタンじいさんは「友達」として描かれていますが、「何か見返りがある」「利害関係が一致する」から「友達」なんだ、というところに、リアルな友情というものが描かれている気がします。
とはいえ、なんの見返りも求めずに「ただ友達だから助けたい!」って思うこともリアルにあるように感じるんですよね(……たぶん)。
少なくとも、狼は「見返りがあるから友達を助ける」のではなくて、「見返りを求めずに友達を助ける」べきだったと感じます。
逆に言えば「見返りを求めるくらいなら友達を助けるな!」ということになってしまうのですが……それもどうなんでしょうね?
よく「見返りを求める友達関係なんて本当の友達じゃない」みたいに言われたりしますが、でも「助けたり助けられたりする関係が友達だ」ってことも言えますよね。
何かを期待したり期待されたりできるから友達なのであって、それが対等な友達関係というものであって、一方的に助けたり助けられたりするのは友達だとは言えないように感じてしまいます。
「見返りを求めずに友達を助けられるようになりたい」と単純に思いますが、突き詰めて考えてしまうと「やっぱり見返りを求めている」自分に気がついてしまいます。
「見返りを求めずに助けてくれる友達がほしい」と単純に思いますが、「だけどそれが本当の友達なんだろうか?」って考える自分にも気がつきます。
ペットや友達について考えた、今回の狼……じゃなくて、狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
見返りを求めない対等な真の友達?
狐人的読書メモ
・友達でいたければ、生き残りたければ、社会に属する動物は、その社会において、一生有用性を示し続けるしかない。
・『ズルタンじいさん/グリム童話』の概要
KHM48。原題は『Der alte Sultan』。結局そんなに悪い奴にならなくてすむ狼、誰も傷つかず、みんなが幸せになるハッピーエンド。ある意味、グリム童話らしくない童話。でもそれがいい。
以上、『ズルタンじいさん/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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