ポラーノの広場/宮沢賢治=ラップバトル失踪事件!の真相は?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

ポラーノの広場-宮沢賢治-イメージ

今回は『ポラーノの広場/宮沢賢治』です。

文字47000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約101分。

Boys, be ambitious like this old man! フリースタイルラップバトル、ポラーノの広場で少年にディスられ、鬼ギレする県議員。ナイフの決闘。消えた二人。失踪事件の真相は?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

モリーオ市の博物局員をしているキューストは、五月の終わりの日曜日の朝、脱走した飼いヤギを探している。すると、そのヤギをつかまえてくれた少年ファゼーロと知り合う。ファゼーロに両親はなく、姉と二人、主人の農夫のところで下働きとして酷使されている。

キューストはヤギのお礼に、イーハトーヴォの野原の地図をあげようと約束する。ファゼーロがポラーノの広場を探しているというからだ。ポラーノ広場は、かつての市民の憩いの場であり、楽しげなオーケストラが鳴り響き、誰でも上手に歌うことができるという、伝説の広場だった。

十日後の夕方、ファゼーロが地図を受け取りにキューストの家を訪れる。そのまま二人は探索に出かけるが、ポラーノの広場を見つけることはできない。

五日後の夕方、再びファゼーロがキューストを訪ねてくる。ポラーノの広場を見つけたという。ついに二人はポラーノの広場に辿り着くが、そこは山猫博士の異名を持つ、県議員デストゥパーゴが選挙票集めのために開いた酒盛りの宴会場だった。

デストゥパーゴとファゼーロは歌合戦の末、食卓ナイフで決闘する。決闘はファゼーロが勝利し、デストゥパーゴは逃げるようにその場を立ち去る。

帰り道、ファゼーロの表情は暗かった。あの場には、主人の農夫の姿もあり、デストゥパーゴとは昵懇の仲――帰って、どんなひどい目にあわされるか……。キューストはファゼーロを心配しながらも、一人家へ帰るしかない。

二日後、キューストは警察に呼ばれ、ファゼーロが失踪したことを知らされる。まさか主人の農夫に……いや、あの帰り道で、デストゥパーゴの報復にあったに違いない。あの日以来、デストゥパーゴも姿をくらませているらしい。キューストは、ファゼーロを一人で帰したことを後悔し、毎晩野原に探しに出るが、ファゼーロを見つけることはできなかった。

夏になり、キューストは長期出張で訪れたセンダード市で、落ちぶれた様子のデストゥパーゴを目撃する。あとをつけ、話を聞くと、デストゥパーゴは観念したのか、あの夜の事情を語る。

デストゥパーゴは工場の経営に失敗し、やけ酒を飲んであの騒ぎを起こしてしまった。姿をくらませたのは工場の倒産が理由で、ファゼーロの失踪には一切かかわっていないという。キューストはその話を信じ、デストゥパーゴと別れる。

出張から帰ってきた九月一日の夕方、突然、ファゼーロがキューストを訪ねてやってくる。驚くキューストは、ファゼーロから失踪事件の真相を聞かされる。

あの夜、やはりとがめられるのが怖くて、結局ファゼーロは主人のもとへは帰れず、そのままセンダード市の革染め工場で働くようになった。そして今度、ムラードの森の、かつてのあのデストゥパーゴの工場跡で、仲間たちと一緒に新しい工場を始めるのだといい、キューストをその場へ誘う。

ファゼーロと仲間たちは互いに新しい工場の夢を語り合い、生涯勉強すること、わき目もふらず一生懸命働くこと、そして、自分たちの手で本当のポラーノの広場を作ろうと誓い合う。キューストはできるかぎり、陰ながらそれに協力しようと約束する。

七年後、ファゼーロたちは立派な一つの産業組合を作り、その商品はイーハトーヴォのどこでも見られるようになる。キューストは、博物局員を辞め、大学の副手や農事試験場の技手などを経て、トキーオで働いていた。

ある日、キューストは、ファゼーロから一通の郵便を受け取った。それは「ポラーノの広場の歌」という楽譜だった。キューストはその譜を読みながら、友人たちを懐かしく思い出すのだった。

狐人的読書感想

ポラーノの広場で行われたフリースタイルラップバトル! 少年ファゼーロ v.s. 県議員デストゥパーゴ……からのナイフの決闘! ……からの消えた二人……博物局員キューストは謎の失踪事件を解き明かすことはできるのか!?

サスペンスとミステリーの要素が感じられて、途中まではすごくおもしろく読み進めていたのですが……まあ、宮沢賢治作品が、サスペンスやミステリーであるはずありませんよね(汗)

勝手に想像して盛り上がってしまったので、後半の失速感(?)は否めず……しかし、興味深い作品ではあったと思います。

僕がこの作品を一言で表すならば、「ボーイズビーアンビシャス」的な作品といった感じです。

「ボーイズビーアンビシャス」といえば、クラーク博士の有名な名言ですが、じつはこの言葉には続きがあって、

「Boys, be ambitious like this old man」
(少年よ、大志を抱け、この老人のように)

というのが全文だそうです。

まあ、山猫博士こと県議員デストゥパーゴをクラーク博士のようなお手本とするのは、かなり無理がありますが、反面教師としてディスる意味での「Boys, be ambitious like this old man!」といえば、なかなか皮肉な寓意的表現だと思ったのですが……どうでしょうね?

「伝説のポラーノの広場」に憧れていた少年ファゼーロが見た「現実のポラーノの広場」は、県議員がもよおす公職選挙法違反まがいの接待の場(あるいは不正な密造酒工場の株主たちをもてなす接待の場)でした。

大人の汚い現実を見せつけられたファゼーロ少年でしたが、しかしそこで腐ることなく、それを反面教師として自分たちの理想の産業組合を作ろうと奮起し、そのためには生涯勉強、誰よりも一生懸命働くことを誓い、そしてついにはそれを現実のものとして実現させてしまうのです。

「諸君、諸君の勉強はきっとできる。きっとできる。町の学生たちは仕事に勉強はしている。けれども何のために勉強しているかもう忘れている。先生の方でもなるべくたくさん教えようとして、まるで生徒の頭をつからしてぐったりさしている。そしてテニスだのランニングも必要だと云って盛んにやっている。諸君はテニスだの野球の競争だなんてことはやらない。けれども体のことならもうやりすぎるくらいやっている。けれどもどっちがさきに進むだろう。それは何といっても向うの方が進むだろう。そのときぼくらはひどい仕事をしたほかに、どうしてそれに追い付くか。さっき諸君の云う通りだ。向うは何年か専門で勉強すればあとはゆっくりそれでくらして、酒を呑んだりうちをもったり、だんだん勉強しなくなる。こっちはいつまでもいまの勢で一生勉強して行くのだ。
諸君、酒を呑まないことで酒を呑むものより一割余計の力を得る。たばこをのまないことから二割余計の力を得る。まっすぐに進む方向をきめて、頭のなかのあらゆる力を整理することから、乱雑なものにくらべて二割以上の力を得る。そうだあの人たちが女のことを考えたり、お互の間の喧嘩のことでつかう力をみんなぼくらのほんとうの幸をもってくることにつかう。見たまえ、諸君はまもなくあれらの人たちへくらべて倍の力を得るだろう。けれどもこういうやりかたをいままでのほかの人たちに強いることはいけない。あの人たちは、ああいう風に酒を呑まなければ、淋しくて寒くて生きていられないようなときに生れたのだ。
ぼくらはだまってやって行こう。風からも光る雲からも諸君にはあたらしい力が来る。そして諸君はまもなくここへ、ここのこの野原へむかしのお伽噺とぎばなしよりもっと立派なポラーノの広場をつくるだろう。』

ちょっと長いですが、これは「本当のポラーノの広場を自分たちの手で作り出そう!」と誓い合うファゼーロ少年たちに、主人公であるキューストが贈った言葉で、おそらくこれが、この物語の言いたいことそのものだと思います。

このキューストの言葉は、たぶん宮沢賢治さん自身の言葉であって、キューストがファゼーロたちの産業組合に、その一員として参加せず、教師的に陰ながらサポートする立ち位置を選んだのも、宮沢賢治さん自身の若者に対する姿勢を思わせるんですよね。

「キュースト=宮沢賢治」としてもいいような気がします。

昨今のニュースでは、「日大アメフト問題」「レスリング・パワハラ問題」「モリカケ問題」etc……政治や大学を運営する大人たち、子供たちの手本となるべき大人たちが、嘘を吐いて保身に走る姿が目に余ります。

本来、正されるべきはそういった大人たちのほうですが、しかし若者たちもその姿を見て腐るのではなく、だったら「ぼくらが新しいポラーノの広場を作ろう!」と、理想に燃え、奮起しなくてはいけないのかもしれません。

なかなか難しいことだとは思いますが、大人たちに失望する子供たちが多い(と思われる)現代だからこそ、『ポラーノの広場』は広く若者たちに読まれるべき物語のように思った、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

ラップバトル失踪事件!の真相は?

狐人的読書メモ

・さあ叫ぼう! 新しいポラーノの広場のために!

・ところで、「電気栗鼠りす」という動物の名前が出てくるんだけど……ひょっとして、ピカチュウのこと?

・『ポラーノの広場/宮沢賢治』の概要

1934年(昭和9年)に発表される。現実のポラーノの広場と理想のポラーノの広場。腐った大人に失望する、現代の若者たちに読んでほしい作品。

以上、『ポラーノの広場/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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