詩歌読書感想『汚れっちまった悲しみに…… 中原中也』悲しみの色は赤?

いきなりですがどうぞ

『汚れっちまった悲しみに…… 中原中也』

汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる

汚れっちまった悲しみは
たとえば狐の革裘かはごろも
汚れっちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる

汚れっちまった悲しみは
なにのぞむなくねがうなく
汚れっちまった悲しみは
倦怠けだいのうちに死をゆめ

汚れっちまった悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

――詩集『山羊の歌』より

おくれましてあいさつ

汚れつちまつた悲しみに… 中原中也詩集【語注付】 (集英社文庫)いきなり脱線しますが、なんかカッコいい表紙カバーの本がありました! 表紙イラストは『I’ll(アイル)』や『テガミバチ』の漫画でおなじみの浅田弘幸 さんです(「いきなりコンボ」失礼しました)。

 

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回は詩歌読書感想『汚れっちまった悲しみに…… 中原中也』です。

汚れつちまつた悲しみに…… アニメカバー版 中原中也詩集<「文豪ストレイドッグス」×角川文庫コラボアニメカバー>引き続き『文豪ストレイドッグス』から!
(前回ブログ記事は織田作之助 さん!⇒小説読書感想『天衣無縫 織田作之助』あなたは読んで、笑える? 笑えない?

 

中原中也 さんも前回の織田作之助 さん同様ポートマフィアサイドですね。喧嘩好き、お酒好き、といった性格は、明らかに現実の文豪、中原中也 さんをモチーフにしているとわかります。

中原中也 さんと太宰治 さんはかつてコンビを組んでいたようですが(『文豪ストレイドッグス』のお話)、二人並んでいると、中原中也 さんの方が若干まともに見えるのは、僕の気のせいなのでしょうか? 現実では、退廃的というか――お二人とも壮絶な人生を送っていますよね。はたして実際どちらの方がまともなのか……甲乙付け難し。

(ちなみにお名前が出たので太宰治 さんの読書感想はこちら)

小説読書感想『走れメロス 太宰治』走れメロス…いや走ってメロス!
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異能力! 「汚れっちまった悲しみに……」!

中原中也 さんの異能力は重力操作能力。重力を操るキャラクターといえばたくさんいるような気がするのですが、いざ思い浮かべようとしてみると……(前回の織田作之助 さんのときもこんな感じだったなあ)。

ねぶたの虎ぱっと思い浮かんだのは、尾田栄一郎 さんの漫画『ONE PIECE(ワンピース)』の海軍大将、藤虎(イッショウ)ですかねえ。悪魔の実の名前は……現段階(2016年1月13日現在)で、まだ判明していないようですが、「オモオモの実」?

文豪と聞けば小説家のイメージしか持っていなかったのですが、『文豪ストレイドッグス』に中原中也 さんが登場していることを知って、詩人も文豪に含まれるのだなあ、と認識を新たにする思い。

じつは詩というものをまともに読んだことがないので、まともなことが書けるかどうか……頑張ってみたいと思います。

最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

まがりなりにかんそう

詩というものにあまり触れたことがないので、まずはどのように接するべきなのか、ということについてちょっとだけ調べてみました。

詩、というよりも、芸術全般にいえることなのかもしれませんが。

大きく分けると、

「感覚的な見方」と「理論的な見方」

といったところでしょうか。

「感覚的な見方」とは、その作品について何も知らなくても、接した瞬間に自然と沸き起こってくる感想。

「理論的な見方」とは、その作品が成立した背景、その時代、作者の生涯といった知識から得られる解釈。

といった感じでしょうか(あくまでも狐人的な認識ですが)。

正直に言ってしまうと、僕は中原中也 さんの『汚れっちまった悲しみに……』を一読して、感動したり、感慨にふけったり――ということはありませんでした(ダメじゃん?)。たぶん、ブログ記事に感想を書こうと思い立たなければ、そのまま流してしまったように思います。

中原中也 さんにはコアなファンが多いそうです。

そうした方々は、一読しただけでも何か大きな感動を得て、中原中也 さんの詩の虜になってしまうんですかねえ……と考えると、自分の感受性のなさを感受しないわけにはいかないわけなのですが。

「感覚的な見方」がダメなら「理論的な見方」?

ということで、少し中原中也 さんと『汚れっちまった悲しみに……』という詩について調べてみることにしました。

中原中也 さんの人生は、1907年に生まれ、1937年に結核性脳炎でお亡くなりになるまでの30年――よく天才は短命だといわれますが、その典型かもしれません。

16歳のとき、当時19歳でのちに女優となる長谷川泰子 さんとの交際スタート。2年後の1925年の春に二人で上京して同棲……ずいぶんと早熟だったようですね、中原中也 さん。

同じ頃、文芸評論家となる当時23歳の小林秀雄 さんと交友関係を結ぶわけですが、この出会いが、かの有名な恋愛事件「奇怪な三角関係」に発展します。

なんと、中原中也 さんと付き合っていたはずの長谷川泰子 さんが小林秀雄 さんに鞍替え……。ただし、これは中原中也 さんの落ち度も大きかったようです。

1974年、『婦人公論』に掲載された『中原中也との愛の宿命』の中で、長谷川泰子 さんは当時の中原中也 さんのことを、次のように振り返っています。

「ダダイストを気取っていた中原には優しさがなく、いたわりもない交わりでした」

ちなみにダダイストは1910年代半ばにヨーロッパやアメリカで起こった芸術運動の活動家を指しています。

当時の中原中也 さんは、お金がなくなれば親のすねをかじり、身なりも汚かったそう。『文豪ストレイドッグス』の中原中也 さんは、(あの有名な肖像写真からキャラデザインされているように)シルクハットをかぶったスタイリッシュな服装ですが、現実の中原中也 さんは、つばの狭い黒いソフト帽をかぶって、よくツバを吐く癖があり、不吉で傲慢な印象を、見る人に与えていたのだとか……写真と実際とでずいぶん印象が違ったのかもしれませんね。

まあ、お金の問題は18歳という年齢と予備校生という身分から考えて仕方ないのかなあ……、という気がしないでもないのですが。

一番悪かったのは酒癖の悪さだといいます。

本人にも自覚はあったようなのですが、酔うと誰彼構わずかみついていたそうで、じつは太宰治 さんにもからんだことがあるらしく、この辺りは『文豪ストレイドッグス』の中原中也 さんと太宰治 さんのからみを彷彿とさせるようなエピソードですね。事実を忠実に再現しているのかも。

しかしながら、中原中也 さんの酒癖の悪さで、一番割を食っていたのは、同棲していた長谷川泰子 さんのはず……と思えば、一方的に浮気を責めるのも――う~ん……。

さて、ここで『汚れっちまった悲しみに……』の話となるわけなのですが。この詩が発表されたのは1930年です。しかし作成された時期というのは明らかになっていません(調査不足があったらすみません)。ただ、1930年に発表ということは、それ以前に作られた詩だと推察できます。

では、この「奇怪な三角関係」とも称される事件があった頃に、『汚れっちまった悲しみに……』が作られた可能性も充分あります。というか少なくとも、この事件が詩の制作背景にある、という考え方は、不自然でないように思えます。

事実、この詩の中で謳われている「汚れっちまった悲しみ」の主体が誰なのか、ということについては、大きく二つの解釈に分かれているようです。

一方は、当然ながら作者である中原中也 さん、もう一方は中原中也 さんのもとを去っていった恋人の長谷川泰子 さんです。

詩のなかで、唯一「汚れっちまった悲しみ」の具体的な比喩として用いられている「たとえば狐の革裘」。この「狐の革裘」は狐の毛皮で作られた衣服なのだそうで、古来中国では高貴な女性の身に着ける衣装でした。ミンクのコートみたいなものでしょうか。

「狐の革裘」は女性の衣装――ゆえにこの詩の主体は女性(長谷川泰子 さん)というわけですね。

もちろん、意見が分かれているということは、断定的な解釈ではないということなのですが、もしも恋人を失った中原中也 さん自身の「悲しみ」を表現したわけではなくて、恋人から離れていった長谷川泰子 さんの「悲しみ」を詠った詩が、『汚れっちまった悲しみに……』なのだとしたら、中原中也 さんの表層はともかく、内面は繊細でやさしい人だったのかもしれないと、その人柄を想像してみたりしました。

退廃的な芸術家やミュージシャンの作った作品が、繊細なものである場合は結構多いような気がします。セオリーといってしまっても過言ではないかもしれません。傷つきやすく繊細であるがゆえに退廃的にならざるを得ない、みたいな芸術家的傾向があるのかもしれない、といったようなことを改めて考えさせられてしまいました。

もう一つ、気になったのは、「汚れっちまった悲しみ」というフレーズが繰り返されていて、詩の半分を占めている点です。

繰り返しを詩的に言うと「ルフラン」となるのでしょうか(「ルフラン」はフランス語で「繰り返し」の意)。

劇場版 「新世紀エヴァンゲリオン」主題歌 魂のルフラン「ルフラン」と聞くと、『エヴァンゲリオン』を思い浮かべてしまうのは僕だけ? (魂のルフラン)

 

 

タイトルと最終行が「……」で閉じられているところも、ループ構造になっているように思えます。

ダーク・タワー1 ガンスリンガー (新潮文庫)「悲しみ」の「ループ」と聞いて、僕がふと思い浮かべたのは、スティーヴン・キング さんの小説『ダーク・タワー(The Dark Tower)』でした。ネタバレになりそうなので、あまり深くは言えませんが、おすすめしたい小説の一つです(長いのでおすすめしにくい小説の一つでもありますが)。

僕がこの詩からイメージする色は「白」です。

「小雪」と「狐の革裘」からの連想だと思うのですが。

きつね色というくらいだから薄茶色なのでは……と思う方もいらっしゃるかもしれませんが(「汚れっちまった」のイメージからしても、そちらの方が合いそうな気もします)。

キタキツネ←狐の毛って白い部分もありますよね(プロフ絵のように狐人の毛皮は真っ黒ですが……)。
ちなみに画像はキタキツネ、英語で「Red foxes」……じゃあ白でも茶でもなくて赤じゃん! というツッコミをされそうですが、ともかく。

 

「悲しみ」の色が「白」というのは、どこかすんなりと受け入れることができて、これが今回、僕が感じることのできた唯一の「感覚的な見方」ということになるのでしょうか。

あなたはどうですか?

詩の味わい方は人それぞれ。これは小説にも同様のことがいえると同時に、芸術全般にもいえるということを学んだように思います。

詩の「感覚的な見方」と「理論的な見方」

今回のブログ記事が、さまざまに文学を楽しんでいただける一助になればこれ幸い(初の詩歌感想のくせになんだか偉そうな締めとなってしまいましたが……)。

以上、『汚れっちまった悲しみに…… 中原中也』の詩歌読書感想でした。

ブログに関連した漫画

・浅田弘幸 さんの漫画『I’ll(アイル)』・『テガミバチ』

・尾田栄一郎 さんの漫画『ONE PIECE(ワンピース)』

・貞本義行 さんによるコミカライズ。新世紀エヴァンゲリオン(漫画版)

・異能力! 「汚れっちまった悲しみに……」!
文豪、中原中也 さんが太宰治 さんにからむ『文豪ストレイドッグス』

漫画版

小説版

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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