狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『杜子春/芥川龍之介』です。
文字数10500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約23分。
お金持ちになると挨拶さえしなかった友達が集まってきて、貧乏になれば優しい顔一つ見せない。人間は皆薄情です。友情も愛情も利害関係。なのにどうして人間は情を求めてしまうんだろう?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
唐の時代、洛陽の都。元金持ちの貧乏青年杜子春は、西の門の下で仙人に出会い、その教えに従って大金を手に入れるが、豪遊してすぐに散財してしまう。貧乏になると再び仙人が現れ、二度同じことを繰り返してしまう。
そして三度仙人が現れると、杜子春はもうお金はいらないと言う。お金持ちになると群がってきて、貧乏になれば見向きもしない、周囲の人間に愛想が尽きたのだ。
杜子春は仙人に弟子入りを頼む。仙人は杜子春を深い谷へ連れていき、「自分が帰るまで何があっても黙っていろ」と言い残して去る。杜子春は虎や蛇に襲われ、神将の戟で突かれて命を落とし、地獄のあらゆる苦しみを味わうも、決して声を漏らすことはなかった。
閻魔大王は、杜子春の亡くなった父母を呼び寄せ、鬼たちに激しくいたぶるよう命じる。それでも杜子春は仙人との約束を守ろうと頑なに口を閉ざしていたが、母の「私たちはどうなってもいい、お前が幸せになれるのなら」という言葉を聞いて、ついに「お母さん」と声を出してしまう。
瞬間、目を覚ました杜子春。すべては幻の中の出来事だった。杜子春は仙人の試練に失敗したが、それを嬉しく感じていた。人間の、本当の情というものを知ることができたからだ。仙人は、もしも杜子春があのまま黙っていたら、その命を絶つつもりだったという。
杜子春は「人間らしい、正直な暮らしをする」ことを決め、仙人はそんな杜子春に家と畑を与えて去っていくのだった。
狐人的読書感想
人間の情というものについて書かれているお話のようですね。
とても考えさせられました。
物語の主人公杜子春は貧乏青年、ある日仙人に出会って大金持ちにしてもらい、そうすると挨拶さえしなかった友達などが集まってくるようになります。しかし杜子春が再び貧乏になると、また誰も彼に見向きもしなくなり――
「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔しい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」
――という杜子春の気持ちもわかるような気がしてしまいます。
「人間はお金じゃない! 友情だ! 愛情だ!」
なんだかんだ言っても、結局人間関係って、利害関係以外の何物でもないのかなあ、みたいな。
僕がどういうときに人と友達になりたいか、考えてみたのですが、その人がおもしろそうだったり、趣味があって楽しそうだったり、一人で寂しかったりするときだという気がします。
これって要するに、何か自分に利があるから友達になるのであって、だからその人の趣味が変わって話が合わなくなったり、その人が何か悩んでいて楽しくなくなってしまったり、あるいは他の友達ができて寂しくなくなってしまったりすると、友達とは自然と疎遠になってしまうのかもしれないな、とか。
最初から「この人とは一生の友達になる! 何かあれば自分が必ず助ける!」なんて思って友達になることは皆無のように思います。
では、「人間の情ってなんだろう?」と考えてみたとき、損をいとわず、あるいは損すること、得することがないとわかっていても、相手のために行動する心の働きだ、と思いました。
しかしそのような心の働きも、突き詰めてしまえば「長年の利害関係」から生じているもののような気がして、結局「人間の情=利害関係」という結論に至ってしまう僕は、ひねくれもの過ぎかもしれませんが、どうでしょうね?
杜子春は最後、母の無償の愛に触れることで、「人間の本当の情」というものを理解したふうに見受けられます。
たしかに、文字通り地獄の責め苦を受けても、息子のことを思いやる母親の愛は、一見無償の愛に見えるのですが、自分の遺伝子を残そうとする、生物としての本能(利)と捉えられなくもない気がしてしまいます。
とはいえ、情の本質がなんであれ、人間はどこかにそれを見出さなければ、生きていけない生き物だと感じます。
たとえ情が利害関係でしかなかったとしても、愛情や友情がいっぱい欲しいし、そのためには愛情や友情を示せる人間であらねばならず、だったらそういう人間になりたいと願うのですが、しかしこんなことを考えてしまう時点で、情け深い人間にはとてもなれそうにないのではなかろうか……とか考えてしまう僕がいて……
結局どうしたらいいんだろう?
――なんて、ジレンマを感じてしまうような、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
人間の情=利害関係?
人間の情ってなんだろう?
狐人的読書メモ
・本作のテーマは「人間の情」。関係あるかわからないけれど、先日(2018年5月2日)行われたアイドルグループTOKIOの記者会見を思い出してしまった。23年……やはりともに過ごす時間が情を育む、ということは言えるのだと思う。
・本作には原作があり、牛僧孺編『玄怪録』及び李復言編の『続玄怪録』に収録された伝奇小説『杜子春』を童話化しているという。
・原作のあらすじは、北周から隋の時代、長安に住んでいた嫌われ者で不真面目な青年・杜子春が、華山の道士に出会い3度金持ちになる。その恩に報いたいと申し出たところ「何があっても黙っていなさい」の件となる。地獄で美女に転生させられた杜子春は、口が利けないことが災いして、怒った夫に命を奪われてしまい……目を覚ますと愛情のために道士への恩返しができなかった、と約束を守れなかったことを悔いるという、いわゆるバッドエンド。
・「大金を掘る」「薄情な人間に愛想を尽かす」「地獄での両親(母親)とのエピソード」「ハッピーエンド的結末」などは芥川オリジナルの設定である。
・『杜子春/芥川龍之介』の概要
1920年(大正9年)『赤い鳥』にて初出。1921年(大正10年)短編集『夜来の花』(新潮社)収録。牛僧孺編『玄怪録』及び李復言編の『続玄怪録』に収録された伝奇小説『杜子春』を童話化したもの。小学生、中学生の教科書、読書感想文の題材として選ばれることも多い。人気作。テーマは「人間の情について」。
以上、『杜子春/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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