狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『カイロ団長/宮沢賢治』です。
文字数10000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約23分。
法外な重労働と無能経営は悪。
だけど経営者ばかり悪いわけでもない。
労働者にも悪いところはある。
うつろう善悪と強弱。見せかけの働き方改革。
カイロ団!? かたつむりのメガホーン!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
三十匹の雨蛙が一緒に楽しく仕事をしていた。主に虫からの依頼を受けて、シソの実やケシの実で畑を作ったり、石や苔を集めて庭を作ったりしていた。
ある日の仕事帰り、彼らは居酒屋を見つけて立ち寄ることにした。そこは殿様蛙の経営する店だった。
殿様蛙は粟粒の小さなコップでウイスキーを出した。雨蛙たちは酔っぱらって、何杯もウイスキーを飲んでしまう。
結果、代金を支払うことができないほど飲んでしまい、三十匹の雨蛙は殿様蛙の家来になるしかなかった。
こうしてカイロ団が結成された。
殿様蛙は「木の枝を千本」「花の粒を一万粒」などムチャな命令を繰り返す。雨蛙たちはそれをどうにかこうにかやり遂げる。
つぎの命令は「石を数千kg運んでこい」というものだった。さすがにできるはずもなく、雨蛙たちはついに音を上げてしまう。
そのとき、蝸牛のメガホーンが王様の新しい法令を告げる。
『誰かに仕事を命令するときは、自分で実際にできる仕事量でなければならない』
このルールを破ったものは鳥の島へ流されるという。
雨蛙たちは大喜びで、さっそく殿様蛙に、まずは数kgの石を引かせようとする。殿様蛙はすぐにへたばり、くにゃりと足を曲げてしまう。雨蛙たちはその不様な様子をあざ笑うが、その後、シーンと寂しい沈黙が流れる。
そこでまた、メガホーンが王様の法令を伝える。
『すべてあらゆるいきものはみんな気のいい、かあいそうなものである。けっして憎んではならん』
それを聞いた雨蛙たちは、殿様蛙のもとへ走り寄って介抱した。殿様蛙は自分の行いを悔いて泣き、カイロ団を解散することを宣言する。雨蛙たちは拍手して喜んだ。
翌日から、三十匹の雨蛙はまた愉快に仕事を始めるのだった。
狐人的読書感想
このお話は、過酷な労働と搾取から抜け出せない労働者の苦しみ、有り余る労働資産を有効活用できず、コンサルタントの的外れな助言を真に受けて、突然の労働法改正にあたふたする愚かな経営者をコミカルに描いている作品なのだそうです。
たしかに、カイロ団は企業、殿様蛙は企業経営者、雨蛙は労働者、王様は国、という構図が簡単に連想できますよね。
すなわち「国がみごとな働き方改革で企業のよくない経営体質を一変させて、労働者たちを救う話だったのかな?」というふうに僕は読みましたが、現実はそんなにうまくいかないよね、って思ってしまいます。
また、企業経営者たる殿様蛙が必ずしも「絶対悪・絶対強者」ではなく、労働者である雨蛙たちが「絶対正義・絶対弱者」でもなく、悪と正義、強者と弱者が二転三転しているところも印象的で、この点とても現実的なお話だと感じます。
一見すると、殿様蛙が一貫して悪いようにも見受けられるのですが、しかし殿様蛙は最初に粟粒一杯のウイスキーの値段をちゃんと説明していて、雨蛙たちも納得してそれを飲んでいるんですよね。
(雨蛙たちの思慮の浅さ、自制の足りなさが目につきます)
まあ、殿様蛙は雨蛙たちにたくさんのお酒を飲ませて、支払いができなければ子分にしてやろうという魂胆はあったのでしょうが、だけどそれはあくどい考えではあってもだましたとまではいえないでしょうし、お酒がどういうものかを知らなかったとはいえ飲酒を自制できなかった雨蛙たちのほうに、より非があるように思えます。
(商売って、利益を出すために多かれ少なかれ、売り手が買い手をだましているようなところがあって、その善し悪しの判断というのは多くの消費者が納得して買い物できるか否か、というところにあり、その曖昧なところによい商売というものの難しさを感じます)
ですが、その後の殿様蛙の横暴っぷりと雨蛙たちに課された重労働は、明らかによくないことですよね。ここで殿様蛙と雨蛙たちの正否は決定したといえるでしょう。
だけど、王様の突然の命令で、今度は殿様蛙が数kgの石を引くという重労働をするはめになり、その不様な姿を雨蛙たちが嘲ることで、再び善悪と強弱の位置が逆転します。
こうして見ていくと、この作品は「善と悪、強者と弱者のうつろいやすさ」みたいなことも描かれているように感じるんですよね。
そんな中、王様の命令は絶対的な効力を持ち、しかも状況を良い方向に改善します。
まさに神の一声、絶対正義の存在をも、同時に感じられるところが興味深いです。
とはいえ、この部分はとても現実的なお話とはいえませんよね。
ある程度絶対的な力が存在するのは間違いないところですが、その力が必ずしも正しく使われるわけだはなくて、正しく使われたとしても正しい結果をもたらすとは限らないのが現実、という気がします。
日本でも、いままさに国は「働き方改革」といっていますが、プレミアムフライデーとかなんとか、いまいち労働者が実感を得らえないものばかりを、蝸牛のメガホーンが声高に言っているように感じるのは、僕だけ?
もちろん、現実が物語のようにうまくいかないのは理解しているつもりですが、なんていうか、専門的な知識がない僕でも「それってどうなの?」って思えるような政策ばかりを、平気で実施してしまう政府には違和感を覚えてしまいます。
まずは非正規と正社員の労働格差……ってか、非正規という働き方とその待遇をどうにかしなければ、その他のところはそれからじゃないとどうにもならない、って気がするのですが、一度非正規雇用のうま味を知ってしまった企業が、それを手放すとも考えられず……、思えば労働者派遣法の施行とその規制緩和から――って、なんだかグチっぽくなってきたので、このへんで。
読書感想まとめ
労働者の苦しみ。
無能な経営者。
うつろいゆく善悪と強弱。
現実的でない働き方改革。
狐人的読書メモ
・『いそがしければいそがしいほど、みんなは自分たちが立派な人になったような気がして、もう大よろこびでした。』――そう思って仕事ができるなら、それほど幸せなことはない。そう考えてみれば、残業だって本来悪いことではないはずで、結局企業側の人件費削減のための成り行きとしか思えない。とはいえ違法残業はもちろんよくない。残業しなきゃ働いてないっていう日本の会社の空気感もよくない。
・『みなさんはおわかりですか。ドッと一緒に人をあざけり笑ってそれから俄かにしいんとなった時のこのさびしいことです。』――本当にこれ、大勢で一人をあざ笑うようなマネはしてはいけない。
・カイロ団、メガホーン……なんだかポケモンみたい。
・『カイロ団長/宮沢賢治』の概要
初出不明。生前未発表作品。過酷な労働と搾取による労働者の苦しみ。無能な経営者。正義と悪のうつろいやすさ。強者と弱者も逆転することがある。働き方改革って…。現実的で現実的ではない話。
以上、『カイロ団長/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】
※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。
コメント