恥/太宰治=逆恨みして、痛いファンになっちゃダメ!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

恥-太宰治-イメージ

今回は『恥/太宰治』です。

文字数7500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約19分。

ひどい恥をかいた。顔から火が出る、なんて、なまぬるい。
草原を転げ回って、わあっと叫びたい、でもまだ足りない。
いったい何があったのか?
自分の勝手な理想像を相手に押しつけない!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

和子は友人の菊子に語る。ひどい恥をかいた。顔から火が出る、なんて、なまぬるい。草原を転げ回って、わあっと叫びたい、でもまだ足りない。いったい何があったのか?

和子は小説家・戸田のファンで、ある日気取った調子の手紙を書いた。

――貴下は小説で、自分が貧しいこと、ケチなこと、夫婦げんかのこと、病気のこと、顔が醜いこと、身なりが汚いこと、酒を飲んで、暴れて、地べたで寝て、借金だらけ……それではいけない、あなたの小説の底にある独特の哀愁感を大事にして、哲学や語学を勉強してください……云々。

さんざん失礼なことを書いたが、和子に良心の呵責はなかった。むしろよいことをしたと思った。手紙には住所も名前も記さなかったが、それから一月経たないうちに、今度は住所も名前もはっきり知らせた手紙を書くことになる。

――私は驚きました。今月の新作に出てきた娘の名前は和子……私の名前は和子です。教授の娘で、二十三歳です。どうして私のことを知ったのでしょう? ともかく、私の前の手紙が貴下の制作意欲をかき起こしたことをうれしく思います。これからも私が若い女性の心をいろいろ教えてあげます。末永く文通いたしましょう……云々。

有頂天になった和子は戸田に会いたくなった。戸田も自分を待ってくれているような気がした。貧乏作家を訪ねるのだから、和子も粗末な恰好をして行ったほうがいいと思い、そうした。

ところが戸田の家はきれいで、奥さんも上品だった。戸田自身も身ぎれいにしていて、机の傍には本がうず高く積まれて――全然小説の印象と違う。

さっそく、和子が自分の出した手紙の話を持ち出すと、戸田は「あなたのことなんか知りません。僕は小説に絶対モデルは使いません。全部フィクションです」。

和子は友人の菊子に語る。小説家なんて、つまらない。人のクズだわ。ウソばっかり書いている。あんなの、インチキというんじゃないかしら。

狐人的読書感想

これはおもしろいですね。いまでいえば痛いファン? ちょっとストーカーっぽくも思ってしまいますが、まあ、多かれ少なかれ、ファンというのは痛いものなのかもしれません。

小さいことだと、「いま自分を見てくれた!」とか、「自分に手を振ってくれた!」とか、思うのに似てるんですかね?

相手はまったく自分のことを気にしていないとはわかっていても、どこかで自分に気づいてくれているんじゃないかなって、思っちゃいますよね。

すごく共感してしまいました。

僕も小説を読んで、著者の人柄を想像することがあります。

この人は現実の家庭でもいいお父さんやお母さんなんじゃないかなあ、とか、この人はいい学校の先生になれるんじゃないかなあ、とか。

しかし、著者の人格と作品とは結びつけて読むべきじゃない、といったような論調もあるくらいですから、やはり作品とそれを書いた人とは切り離して考えるべきなのでしょうね。

いわんや、心の中で思うのはよしとしても、和子のように自分の理想像を相手に直接押しつけてしまってはよくないんだな、と、学んだつもりになりました。

これは別に、ファンが好きな人に対して抱く理想像ばかりではなくて、家族や恋人や友達にもいえることのように感じます。

そういえば、ちょっと前の話に戻りますが、現代では、アイドルを狙ったストーカー事件とかもありますよね。

ファンとアイドルとの距離が近くなったために、起こり始めた現象だともいわれていますが、根底には、和子と同じような気持ちがあるんですかね……逆恨みはよくないなと単純に思いました。

好きだから自分が一番相手のことをわかっているのだと考えて、それを行動によって示したいという気持ちはわかるような気がします。

てか、こうして読書感想を書いていると、その作品のことをわかったような気になって、作家とその作品について、えらそうな批評のようなことを書いていることがあるような気がします。

それを思うと、僕もなんだか恥ずかしくなってきて、草原を転げ回って、わあっと叫びたいような気持ちがしてきますが、別に本人に読まれるわけでもなくて、自分が思ってるほど相手は自分のことを意識していない(というか気づかれてさえいない)、ということはけっこういろんな場面でいえるように思い、ひとりよがりや過剰な自意識だと感じることがあります。

ひとりよがりな言動はなるべく慎みたいと思う一方で、相手は自分のことをそれほど意識していないということも常に心に留めておかないと、人生って恥ずかしく思うことばかりで、とても生きにくい気がしてしまうのは、ひょっとして自意識過剰な僕だけ?

読書感想まとめ

誰にでも自分勝手な理想像を押しつけてはいけないし、逆恨みもいけない。ひとりよがりな言動を慎み、誰も自分のことなんか気にしちゃいないんだ、と自分をわきまえたふるまいを心がけたい、とか書くと、はたしてそれは卑屈すぎるのでしょうか? ……バランスが難しいです。

狐人的読書メモ

実際に全女性に当てはめることはできないかもしれないけれども、やはり女性心理の描写が秀逸に感じてしまう。

女は、広告のさかんな本ばかりを読むのです。女には、自分の好みがありません。人が読むから、私も読もうという虚栄みたいなもので読んでいるのです。物知り振っている人を、矢鱈やたらに尊敬いたします。つまらぬ理窟りくつを買いかぶります。

・『恥/太宰治』の概要

1942年(昭和17年)『婦人画報』にて初出。2015年9月のEテレ『100分de名著』において、お笑い芸人で芥川賞作家のピース・又吉直樹さんがおすすめしていたとのこと。そのためか、ネットで調べていても、読んでいる人がけっこう多い印象を受けた。

以上、『恥/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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