私は彼女を愛撫する。

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読書時間:およそ10分。
あらすじ:SとかMとか、ちょっと読んだだけで、あたしのご主人様のこと、ヘンタイだって思うかも。でも誰だって、ひとに言いにくいこと、あるんじゃない? 最後にはみんなにわかってもらえるって、信じてる。

こんなことをカミングアウトするのは、やっぱり恥ずかしいような気がする。

しかし秘密の一つや二つくらい誰にでもあって、そしてそれが変態性癖のように思われてしまいそうなものだって、少なくないのではなかろうか?

たとえば、フェチというものがある。

胸フェチ、尻フェチ、足フェチ、あるいは、筋肉フェチ、鎖骨フェチ、声フェチ――など、じつにさまざまなものがある。

これらのフェチは、厳密には変態性癖とはいえないものだ。

これは誰にだって、好きだったり嫌いだったりする身体のパーツが、多かれ少なかれあるものだから――という所見で納得してもらえるのではないか。

真の変態性癖とは、それこそ挙げていけばキリがないが、たとえば動物性愛(獣姦、ズーフィリア)のようなものをいう。

では、SMはどうだろう。

私は、SMもフェチと同様に理解している。

「わたし、ドSだから」

「お前、それ、ドMじゃん」

まあ、おおっぴらに話されることはあまりないかもしれないが、人間、「Sか、Mか」と問われれば、「どちらかといえばS」、「どちらかといえばM」というふうに答えられるはずだ。

むしろ、臆面もなく「自分はN(ノーマル)だ」なんて言う人のほうが、少ないのではなかろうか?

とかなんとか。

つまり、私が何を言いたいのかといえば、私がこれから話すことは、まさに以上のようなことなのだ――ということなのだ。

つまり、引かないでほしい、ということなのだ。

ならば、わざわざ改まって、話さなくたってよいではないか、と思われる諸氏もいることだろう。

そんな秘密は墓場まで持っていけ、と。

が、どうかそんなことは言わないでほしい。

人には言いにくい趣味、だけど誰かと共有したい気持ち、というものが、たしかにあるだろう?

マニア、オタク、腐女子、腐男子――諸氏には私の気持ちが理解できるのではなかろうか?

そう、私が言いたいのも、この気持ちということなのだ。

私は声を大にして言いたい。

「私は彼女を愛している」

と。

だから、

「私は彼女を愛撫する」

と。

ただしそれは、性的な意味合いにおいて、ということでは決してないのだ。

表面上のことがどうであれ、私が真実言いたいのはそれなのだということを、まずは覚えておいてもらいたい。

そして最後には、きっと多くの諸氏に共感してもらえるだろうと、私はそのように信じている。

まずは彼女の耳の話をしようか。

彼女の耳というのは本当に不思議ものだ。

薄くって、冷たくって、タケノコの皮のように、表にはやわらかな毛が生えていて、裏はピカピカしている。

硬いような、やわらかいような。

彼女の耳は特別な物質だ。

私は子供の頃から、じつはある欲望を、彼女の耳に対し抱いていた。

一度、彼女の耳を、穴あけパンチで「パチン!」、とやってみたくてたまらなかったのだ。

これははたして残酷な空想だろうか?

私は「否」と答えたい。

それは、彼女の耳が持っている、一つの不思議な示唆力によるものなのだと、私には思えてならないからだ。

彼女の耳に惹かれるのは何も私だけではない。

実際、子供も大人もみんな、彼女の耳を触りたがる。

そして子供の無邪気な空想というものは、じつは案外執念深かったりする。

パンチで耳を「パチン!」とやるような空想も、思い切って行動に移さないかぎり、それは我々のアンニュイの中に、はるかに長く生き延びるのだ。

すでに充分な常識を身につけた大人の私が、いまだ熱心に「パチン!」のことを考えているのだから、これには自分でも驚いてしまうやら呆れてしまやら……。

ところが最近、ふとしたことから、この空想の致命的な誤算が判明してしまった。

それは、彼女も耳を痛がる、という厳然たる事実だった。

そもそも耳は、ピアスを開ける人がいることからもわかるように、元来あまり痛みを感じない部位だ。

そんなわけで、耳をある程度強くひっぱっても、指でつまんでみても、彼女はいたって平気だった。

『ふふふ。なあに? くすぐったいわ』

そんなことを言わんばかりの様子だった。

だから――と言うのも言い訳がましく聞こえてしまうかもしれないが、私は彼女の耳が不死身のような疑いを持ってしまった。

ある日、私は彼女とのプレイの最中に、とうとうその耳を噛んでしまった。

それは私にとって、発見ともいうべき出来事だった。

私に耳を噛まれた瞬間、彼女はたちまち悲鳴を上げた。

まさに、

『痛い!』

ということが、ダイレクトに伝わってくる悲鳴だった。

私が子供の頃から持ち続けていた空想は、その場で粉々に砕けてしまった。

彼女は、耳を噛まれるのが、一番痛いのだ。

彼女は怒ったように私から身を離した。

それで私は自分のしたことを後悔した。

私は反省し、彼女に謝り、二度とこのようなことはしないと誓った。

こうして私の子供の頃からの空想は消えてしまった。

ある日、仲よしの異常に美しい少年が、前を走っていて、すうっと、まるで空中に吸い込まれる冬の日の白い息のように、忽然と姿を消してしまったみたいに。

しかしながら、人間というのは懲りない生き物である、というか、こういうことには際限がないみたいで、私はまた新たな空想にとりつかれてしまう。

そんなわけで。

つぎは彼女の爪の話をしよう。

私が新たにとりつかれた空想とは、彼女のネイルを全部切ってしまったら、彼女はいったいどうなってしまうのだろう? ということだった。

おそらく彼女は死んでしまうのではなかろうか?

いつもきれいに手入れをしている爪がなくなってしまうのだ。

たとえば。

爪で缶コーヒーのプルトップを開けるように、彼女は爪で何かをしようとする――できない!

さりげなく人にネイルを見せようとする――……見せようとする?

爪を研ごうとする――そんな爪はない!

彼女はこんなことを何度も繰り返すうちに、今の自分が昔の自分と違うことに気づいていく。

そしてだんだんと自信を失っていく。

もはや自分がその「高さ」にいることにさえ、彼女はふるえるようになる。

その高さから「転落」する――そのことからいつも自分を守ってくれた、彼女の自信の象徴だったネイルが、もはやないのだから。

自信に満ち溢れていた彼女が、輝いていた彼女が、よたよたと歩く別の動物になってしまう。

ついにはよたよたと歩くことさえしなくなってしまう。

ああ! なんという絶望!

きっと私は、かいがいしく彼女の世話をするだろう。

彼女が誰からも見向きもされなくなったとしても、私だけは彼女を愛し続けるだろう。

だがそんなこともむなしく、彼女は絶え間ない孤独な夢を見ながら、いよいよ食べる元気さえ失くしてしまい、ついには死んでしまうのだ。

ああ、爪のない彼女。

こんなにたよりなく、哀れな存在がほかにあるだろうか?

それは、声が出なくなったアーティスト、若年性アルツハイマーになった天才児にも似ている。

こんなことを考えるとき、私はいつも、今すぐにでも、彼女を抱きしめてやりたい衝動に駆られるのだ。

このような空想は、いつも私を悲しくさせる。

その比類なき悲しみのために、爪を失って生きていくくらいなら、死んでしまったほうが彼女の幸せのためにはよかったのではなかろうか、などと、普段なら考えそうにないことさえ、平気で受け入れそうになる。

いや、その結末の妥当性すら、どうでもいいことのように感じてしまう。

とはいえ。

はたして爪のない彼女は、本当にどうなってしまうのだろう?

目をくり抜かれても、乳を切りとっても、彼女は生きていけるに違いない。

しかしあの爪だけは、美しく、まるで我が身を守るための懐剣のように鋭い、あの爪だけはダメなのだ。

それこそが彼女の生きる活力であり、智慧であり、精霊であり、すべてであるのに違いないのだから。

少なくとも私はそう信じている。

さて。

いよいよ最後は彼女の手の話をしよう。

ある日、私はとても奇妙な夢を見た。

そこには見知らぬ女がいた。

現実ではたしかに見知らぬ女のはずだが、夢の中の私はその女とは知り合いなのだ。

そこは女の私室のようで、女は鏡の前で化粧をしている。

私は「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」というペーパーバックの小説を読みながら、ちらちらと女のほうをうかがっていたのだが、思わずアッと驚きの声を漏らしてしまった。

女はなんと、『彼女の手』で化粧をしていたのだ。

彼女の手でパフパフと、ファンデーションを顔に塗っていたのだ。

私にはわかる。

それはたしかに彼女の手だった。

背筋が凍りついた。

しかし、それは彼女の手であると同時に、間違いなく化粧道具なのだ。なぜか私はそのことを理解している。

なのに、どうしても尋ねずにはいられなかった。

「それはなんです? あなたが化粧に使っているその道具です」

「これ?」

鏡の中に、女の微笑が浮かんだ。

振り向いた女は、それを私のほうへ放ってよこした。

私がそれを取り上げてみると――やはり彼女の手だった!

「いったい、これはどうしたんです!」

思わず尋ねながら、私はここ数日、彼女に会っていなかったことを思い出す。

「わかってるでしょ? それは彼女の手よ」

女は平然とそう答える。

私はその残酷さにゾッとした。

「最近、海外で流行ってるのよ、知らない?」

知るはずがない。

そんな猟奇的なことが、どこでだって、現実に流行るはずがない。

「あなたが作ったんですか?」

「医科大の先生よ。ほら、あなたも知っているでしょう?」

言われてみればそんな気がする。

たしか、解剖のあとの死体の首を、土の中に埋めておいて髑髏を作り、怪しい連中と秘密の取引をしていると聞いて、とてもイヤな気分がした。

どうしてそんな奴に。

私は女というものの、無神経さや残酷さを憎まずにはいられなかった。

しかし私は、つぎの瞬間にはこんなことを考えはじめている。

それが海外で流行っていることについて、自分もそんなことを、テレビか雑誌か、あるいは新聞か何かで、読んだことがあるような気がするのだ。

猟奇的なことというのは、いつの時代のどこの場所でだって、流行りやすいものではないか?

『んにゃああん。ふふふ、あなた、本当にあたしのそこが好きね』

彼女はまるで私を挑発しているようだ。

ああ、それにしても、なんてやわらかいんだろう。

私は彼女のそれをパフパフと顔に押しつける。

そうしていると、なるほど、たしかに彼女のそれは人間の化粧道具にもなりそうな気がしてくる。

が、私にとってそんな化粧道具がいったい何の役に立つだろう?

私はベッドへ仰向けに寝転んで、彼女を顔の上にあげる。

彼女のやわらかいそれをやさしくつかんでまぶたにあてがう。

心地よい彼女の重み。

それは、あたたかく、やわらかく、とても気持ちがいい。

ぷにぷに。

私の疲れた眼球に、しみじみとした、まさにこの世のものとは思えない安息がしみわたっていく。

ぷにぷに。

ぷにぷに。

彼女も気持ちいいに違いない。

ぷにぷに。

ぷにぷに。

ぷにぷに。

ぷにぷに。

ああ、すばらしきかな、この肉球!

仔猫よ! お願いだからしばらく踏み外さないでくれよ。お前はすぐ爪を立てるのだから。

<おわり>

 

読んでいただきありがとうございました。

 

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