狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『酒中日記/国木田独歩』です。
文字数31000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約76分。
最悪な母と妹にただ従う主人公夫婦。
誰も彼もにイライラしちゃいます。
だけど縁を切っても、親や子が犯罪を犯せば、
やっぱり家族に責任があるってなるの?
感情のやり場に困ります。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
――酒中日記にはある男の不幸が綴られていた。
32歳の大河今蔵は、人口123人の馬島で、私塾の先生をしている。今蔵がこの島に流れ着いたのは去年の春だった。島民はみな親切で、恋人もできた。毎日酒を飲んで暮らしている。飲まずにはいられない。すっかり気性も変わってしまった。その原因は5年前にある。
5年前、今蔵は東京の小学校で校長をしていた。謹厳実直で周囲の人望も厚かった。学校改築の責任者を任されていて忙しく、妻子は病弱だったがとりあえずは平穏無事な生活を送っていた。
しかしそんな今蔵には大きな悩みがあった。それは母と妹の堕落だった。ときは日清戦争の時代、二人は今蔵夫婦との同棲を窮屈に思い、下宿屋を開業して若い兵隊たちを泊め、自堕落な生活を始めたのだ。
今蔵が反対するのも聞かず、迷惑はかけないと出ていったくせに、母はいつも偉そうに金を借りにやってきた。気弱な今蔵夫婦は唯々諾々とこれに従っていたので、貧しいうえにも貧しい生活を余儀なくされていた。
ある日、また母が5円貸せとやってきた。今蔵一家の財政もいよいよ厳しく、妻が一張羅の帯を質に入れてどうにか3円の金をつくったが、母はそれだけでは納得せず、怒って妻を責め立てた。
その頃家を不在にしていた今蔵が帰ると、机の引き出しに入れておいた学校改築工事の寄付金100円がなくなっていた。妻の隙を見て母が盗んだのは明らかだった。
今蔵はすぐに母が営む下宿に出向き、100円を返してもらおうとするが、気弱な今蔵にはそれを懇願することしかできず、母は知らん顔を決め込むばかり。
途方に暮れた帰り道、今蔵は300円の入ったカバンを拾った。そのうち100円を母が盗んだ寄付金の補填に当てて、残りは自宅のタンスの中に隠し、妻には金を母から返してもらったのだと説明した。
どうにかして100円の金をつくり、カバンを持ち主に返したいと考えたが、当然そんな大金を調達する当てはなく――今蔵は罪悪感に苛まれる日々を送っていた。
そんなある日、妻がタンスに隠しておいたカバンを見つけてしまう。今蔵は興奮して家を飛び出した。落ち着いて、妻にすべてを打ち明けようと帰宅すると、すべてを察した妻は子を背負ったまま井戸に身を投げていた。
家族を失った今蔵は小学校を辞めた。もらった慰労金でカバンの金を補填すると、それを持ち主に返して姿を消し、各地を転々として馬島に流れ着いたのだ。
――酒中日記に綴られた最後の日付の翌日、今蔵は舟から落ちて帰らぬ人となった。恋人の腹の中には今蔵の子が宿っていた。子を負って先だった妻と、残されて子を負う恋人と、どちらが不幸でどちらが悲惨だろう?
狐人的読書感想
あんまり筋に関係ない話からしてしまうのですが、今藏は27歳で小学校の校長先生になっていて、同じく国木田独歩さんの『富岡先生』でも、27歳の校長先生が出てくるんですよね。
当時は若くても校長先生になれたということなのでしょうか? いまではちょっと考えにくいことに感じて、興味を覚えたところでした。
さて、関係ない話からしてちょっと落ち着いたかなあ、といった感じで、まずいいたいのは、とにかく始終怒りの感情を覚えずにはいられない小説だということです。
とにかく母親がひどすぎます。読んでいてムカムカします。妹もこの母にしてこの娘あり、といった感じで、ちょっとしか登場しないのに、とても好感を持てるキャラクターではありませんでした。
さらに今藏夫婦も今藏夫婦なんですよね。二人ともに気弱な性格だということはわかるのですが、母の横暴に唯々諾々と従う態度は読んでいてイライラしてしまいました。
『自分は果してあの母の実子だろうか』と、今藏が物思いに沈むシーンが印象に残っています。ひょっとして、こう思ったことのある人は少なくないのかな、などとふと思います。
気性の激しい母と気が弱い自分とのあまりの違いを嘆いているのですが、気性のベクトルはともあれ、両者ともになさけない人だと言いたくなってしまいました。
妻も病身で気弱で、泣いてばかりいて、子供を道連れにしてしまって――妻には子供のために強くあってほしかったし、今藏には家族のために強くあってほしかったです。
とはいえ、ちょっと強く言い過ぎてしまったかもしれません(自分は彼らに対してそこまで言えるような立派な人間ではないし、また、きっとこれは他人が口出しできることでもないんですよね)。
ろくでなしの母親と妹を見捨てて縁を切って、もしも母親と妹が犯罪を起こしてしまえば、それはやっぱり息子として兄としての責任があったとされてしまうんでしょうか?
家族の情が捨てきれなかったことは今藏の弱さでしたが、それが必ずしも悪いことだとも言い切れないんですね。
なんだか感情のやり場に困って、だから余計にイライラしてしまった読書のように思います。
しかし、ここまで人の感情を揺さぶる小説が書けるというのは、やっぱりすごい才能だよなあ、と感心してしまいます。
感情移入できる悪人を描くのって、難しく感じているので勉強になりました。
救いのないラストは国木田独歩さんらしい運命観が描かれていると感じました。
読書感想まとめ
イライラムカムカしちゃう小説。
狐人的読書メモ
以下、心に残った引用メモ。
だから人情は人の食物だ。米や肉が人に必要物なる如く親子や男女や朋友の情は人の心の食物だ。これは比喩でなく事実である。
だから土地に肥料を施す如く、人は色々な文句を作ってこれ等の情を肥かうのだ。
そうしてみると神様は甘く人間を作って御座る。ではない人間は甘く猿から進化している。
酒の上の管ではないが、夫婦というものは大して難有いものでは無い。別してお政なんぞ、あれは升屋の老人がくれたので、くれたから貰ったので、貰ったから子が出来たのだ。
母もそうだ、自分を生んだから自分の母だ、母だから自分を育てたのだ。そこで親子の情があれば真実の親子であるが、無ければ他人だ。百円盗んで置きながら親子の縁を切るなど文句が面白ろい。初から他人なのだ。
・『酒中日記/国木田独歩』の概要
1902年(明治35年)『文芸界』(11月号)にて初出。イライラムカムカしちゃう小説。国木田独歩の運命観。
以上、『酒中日記/国木田独歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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