狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『難船小僧/夢野久作』です。
文字数25000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約57分。
少女との噂もある美少年。
彼の乗った船は必ず海に沈むという。
恐ろしい迷信話。閉鎖社会の不気味さ。
船にバナナや黒いスーツケースを載せてはいけません。
あなたは迷信を信じますか?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
難船小僧とは、伊那一郎という美少年のことだ。
少女ではないかというウワサもあるほど美しく、もの好きな外国人たちに抱かれ、本人もお金が儲かると言って船にばかり乗りたがるのだが――この少年の乗り込んだ船は必ず難船するという。
そんな難船小僧が今度はアラスカ丸に乗ることになった。船長の一存だった。船乗りはただでさえ縁起をかつぐ――当然船員たちは納得がいかない。
そこで機関長が説得に乗り出すも、フランスの大学で理学博士の学位を取り、いくつもの発明で特許を持っている船長は、まったく聞く耳を持たない。
「これは難船小僧のナンセンスを証明する科学的実験なのだ」と言われてしまえば、七千トンの大型貨物船に乗る機関長も二の句が継げなかった。
船員たちの不満と不安、そして難船小僧を乗せたアラスカ丸は上海を出航し、そして意外にも船は何事もなく横浜まで辿り着いた。
荷揚げが終わると、つぎに荷積みが行われるが、バンクーバーからの緊急の指示により、通常二、三日の作業を、二十四時間以内に完了させねばならなくなった。アラスカ丸の船内は地獄と化した。人手がまったく足りていない。
石炭運びをしている二等機関士に泣きつかれて、機関長は船長室へ向かった。そして伊那少年を石炭運びに貸してほしいと船長に願い出た。ちょうど船長のホットケーキを切ろうとしていた華奢な少年の体が震えた。
数々の船に乗り込んできた伊那少年は、貨物船の石炭運びがどれほど過酷な作業か、よく知っていた。船長は、懇願の目で自分を見てくる伊那少年に悲痛な面持ちを浮かべたが、それは同時に鋼鉄の表情でもあった。
船長の許可が下りると、伊那少年は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、外で待ち構えていた強面の船員に捕まり、命乞いの声もむなしく連れていかれてしまう。
その後、船で伊那少年を見た者は誰もいなかった。船を逃げ出してしまったのか、あるいは――。
アラスカ丸は遭難した。深い霧の中を進み、外れたことのない船長と航海士の計算が外れ、陸にぶつかりそうになり、巨大な波に阻まれて、なぜか何日も同じところを動けない――誰もが難船小僧の迷信を思い出した頃、伊那少年のなきがらが、残り少なくなってきた石炭の山から発見された。
機関長が改めて確認すると、白を切っていた強面の船員がついに白状した。機関長は強面の船員になきがらの片づけを命じると、船長のところへ向かった。
アラスカ丸は5日遅れでバンクーバーに到着した。
「おもしろい実験だったね、やっぱり理外の理ってやつはあるもんかな」
船長は哄笑した。
狐人的読書感想
……う~ん。なんていえばいいんでしょうね、この物語は。船長も機関長も強面の船員(向う疵の兼)もほかの船員たちも、みんな人情味が薄いような気がします。酷薄といっても過言ではないような、ただただ難船小僧・伊那少年がかわいそうなだけのお話でした。
これはホラーとして読むべきなんですかね、だけど恐いという感じではないんですよね(船内という隔絶された空間にいる人間の恐さというのはありますが)、アラスカ丸も難船したとはいえ結局無事バンクーバーまで辿り着いていますし、「不気味な船乗りの迷信話」の一つとして捉えるのがいいかな、という気がします。
ここまで、あまりポジティブな感想になっていないかもしれませんが、物語自体はとてもおもしろく僕には感じられました。
機関長の独白というかたちで話は進んでいくのですが、この機関長の語り口がなかなかに軽妙で、船長のキャラやジョークも魅力的で、キャラクター小説としても味があるという気がします。
伊那少年もミステリアスに描かれていて、はたして少年だったのか少女だったのか、という部分には、機関長のみならず、僕も興味を覚えました。
そういえば、船に女性を乗せると船の女神が嫉妬してその船を沈めてしまう、なんて迷信話を聞いたことがあります。
金曜日に船を出してはいけない。口笛や歌を歌うと嵐がやってくる。イヤリングで溺れなくなる。ネズミが船から逃げるのを見たら事故の前触れである。
――などなど、船乗りといえば迷信深い、というイメージがありますが、現代でもやはり船乗りや漁師さんたちは迷信を信じていると聞きます(まあ、やっぱり昔に比べれば、それほどでもないのでしょうが)。
とくに、カニ漁をする漁師さんは縁起をかつぐらしく、それは危険な仕事であることに起因しているといいますが、ひとつおもしろいと思った迷信に「船にバナナや黒いスーツケースを載せていけない」というものがあります。
バナナが不吉とされる理由は、腐敗するとメタンガスが発生して船倉に充満すると人の命を奪う、バナナについてきた毒グモがやはり人の命を奪う害虫になる、などあるそうですが、黒いスーツケースについてはよくわかりません。
しかしながら、海外テレビ(ディスカバリーチャンネル)のクルーが撮影(『ベーリング海の一攫千金』)でスーツケースをカニ漁船に持ち込もうとしたとき、実際にそれを固く禁じられたという話があるらしいです。
このように、船乗りはとかく迷信というものに敏感で、ゆえにアラスカ丸の船員たちは、いわくある難船小僧・伊那少年の乗船を快く思っておらず、最終的に一人の船員がその命を奪ってしまうわけなのですが、それが発覚したときの船内の対応に異様なものを感じたのは、僕だけでしょうか?
本人はあっけらかんとしているし、機関長も別段取り乱すことなく淡々と事後処理を命じただけだし、船長も笑ってるし……、真っ当な人間性みたいなものが欠如しているように思えるんですよね。
これは過酷で閉鎖的な船上という労働環境によるものなのかもしれませんが、しかしこの「閉鎖された空間にいる人間たちの恐さ」みたいなものを感じさせられたシーンです。
「閉鎖された空間」というのは、会社や学校などにも当てはめて言うことができるのではないでしょうか?
この中にいる人たちは強い連帯感があって、ときに団結して危難を乗り越えたりもしますが、ときに結託してよそ者を排除したりもしますよね。
閉鎖的であるがゆえに、そうしたことは外に漏れにくく、そんなところになんとな~く恐怖を感じることがあります。
恐怖というか、不気味な印象というか。
やはり冒頭で述べたように、怖い話ではあるのですが、どちらかといえば不気味な趣の強い作品だと僕には思われました。
ぜひ、実際に読んだ方のご意見を伺いたいところですね。
読書感想まとめ
船上、学校や会社――閉鎖的空間で起こることの恐怖、というか不気味さを感じられる小説ではないでしょうか?
狐人的読書メモ
完全なる余談。ふと、そういえば『ワンピース』って、あまり船乗りの迷信的なことが語られないし、恐れられていない気がした。まあ、「悪魔の実」の能力とか迷信の実現だし、船とかの機能とかも迷信的だし、その意味では迷信を恐れるというのもナンセンスか。いろいろ考えてみてもやっぱり『ワンピース』はおもしろい、という余談。
・『難船小僧/夢野久作』の概要
1934年(昭和9年)、『新青年』にて初出。恐ろしい迷信話であり、閉鎖社会の不気味さをも感じられる短編小説。
以上、『難船小僧/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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