狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『火星の運河/江戸川乱歩』です。
文字数5000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約13分。
灰の森。銀の沼。乙女の肉体を流れる火星の運河。
幻想的。耽美的。雰囲気を楽しむ乱歩の短編小説。
読者のニーズに合うのか合わせるのか。
決してつけてはいけない夢日記って何?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
またあそこへ来たな。
「私」は濃い灰色の森の中を歩き続けている。
そこは聴覚、嗅覚、触覚が利かず、全生物の滅びを感じさせる。魑魅魍魎が充ち満ちているような気がする。
「私」は言い知れぬ恐怖を覚える。
何年、何十年、歩き続けているのだろう? 歩き始めたのは昨日か、何十年も前だったか?
ここには時という概念がない。
未来永劫歩き続けることを疑い始めたとき、目の前の森に切れ間が見えた。薄明かりが「私」の周囲を包む。
出口だ!
そこは森の真ん中にある沼だった。
灰色の森の中には、銀色の空を映す沼があった。
その景色のあまりの美しさに、「私」はめまいを感じた。
何気なく、「私」が視線を外界から自身の身体に向けると、そこには男のものではない、豊満な乙女の肉体があった。
それはたしかに、私のよく見知った恋人の肉体だった。
「私」は急に嬉しくなり、沼の中に足を踏み入れ、中心の岩の上に立つ。
そうすることで完成された景色の美しさを思い、感動していると、しかしこのすばらしい画面には何かが足りない……。
そう、それは紅の一色だ。
「私」は薄く鋭い爪で、豊かな胸、ふくよかな腹、肉つきのよい肩、はり切ったた太股、美しい顔……、全身をかきむしった。
沼の水面に映る女体、いくつもの傷口から流れる血は、まるで火星の運河のように見えた。
「私」は踊る。
踊って、踊って、踊って、踊って――
「あなた。何をうなされていらっしゃるの」
「怖い夢だった」
狐人的読書感想
筋のない小説、そして夢オチ。
この作品の末尾には、なんと著者のお詫びの一文が添えられています。
なんでも江戸川乱歩さんは、執筆当時体調を崩されていたそうで、予定していた探偵小説がどうしても書けずに、仕方なく思い浮かんだこの話を書いたのだそうです。
まあたしかに、探偵小説を期待していた読者からしてみれば、期待を裏切られてしまったかたちになってしまうのかもしれませんが、これはこれで悪くないなあ、とか感じてしまうのは僕だけ?
この小説で描かれている森は幻想的で、耽美的で――江戸川乱歩さんらしい独特の雰囲気も感じられて、生意気な言い方かもしれませんが、全然悪くない作品だと思いました。
ファンタジックな雰囲気が好きな読者には受け入れられる気がして、謝る必要もなかったのではなかろうか、などと僕なんかは考えてしまいますが、それでもやっぱり、読者が求めるものを提供するのがプロの作家というものなのかなあ、などと思えば、当然の謝罪のような気もしてきて……、なかなか思わされるところがあります。
読書中、たまにふと思うのは、売れている作家さんは「100%自分の書きたいもの」を書いて売れているのかなあ、ということなんですよね。
もしそうだとすると、売れている作家の才能というものは本当にすごいものだなあ、などといつも勝手に想像して、感心してしまうのです。
もちろん読者のニーズを敏感に察知して、それをウケるかたちに変換して提供できる作家の才能というのもすごいのですが……、さて。
内容に関係のないところから入ってしまいましたが、とはいえ内容については今回あまり書くことがありませんでした。
世界観というか、雰囲気を楽しむ小説だと感じています。
夢オチでしたが、これが本当に江戸川乱歩さんの見た夢の話なのだとしたら、興味深い話だなあ、と思いました。
これほど幻想的な夢というのは、なかなか見られないような気がしています。
作家さんが夢日記をつけていたら、それは読んでみたくなります。
何気なく使った「夢日記」という言葉ですが、実際にあるみたいですね。
夢は起きたらすぐに忘れてしまうものだし、作家さんのものでなくて自分のものでも、書き溜めておいて、後から読み返してみたら、案外おもしろそうですね。
しかしこの夢日記、インターネット上では「決してつけてはいけない」という話もあります。
それは、夢日記をつけ続けるうちに、夢と現実の区別がつかなくなってきて、最終的には発狂してしまうといわれているからです。
そんな怖いこと本当にあるのかなあ、と思ってしまいますが、なんとなく信ぴょう性を感じられるような話もあります。
はっきりとした夢(明晰夢)を見られるようになったり、見た夢を忘れにくくなったりと、これらは一見メリットにも思えるのですが、しかし悪夢についても同じことがいえるらしく、これについては反対にデメリットとなりそうですね。
そういえば、人によっては夢に入る瞬間がわかったり、夢であることをわかった上でその夢を楽しんだり――ある程度夢をコントロールできる人がいる、みたいな話を聞いたことがあります。
そんなことができたら、毎日寝るのが楽しそうだなあ、とやはりちょっと夢日記に惹かれてしまうところがあります。
幽体離脱の訓練にもなるという話もあります。
なんかだんだんとオカルトじみた話になってきましたが……。
う~ん、夢日記、つけてみようかなあ、と思いきや、夢なんて見ないんだよなあ、というのが今回のオチ。
(みんな夢って毎日見るものなんですかね?)
読書感想まとめ
内容はないです。だけど雰囲気は充分に楽しめる作品。読者のニーズに答える作家の才能。自分の書いたものが読者のニーズになる作家の才能。夢日記について。
狐人的読書メモ
物語のない小説はただの自己満足になってしまうのだろうか。読み手にウケるか否かというただそれだけの問題のようにも思えるが。
・『火星の運河/江戸川乱歩』の概要
1926年(大正15年)4月、『新青年』にて初出。乱歩初期短編小説。雰囲気を楽しめる短編小説だった。
以上、『火星の運河/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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