狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『奥様探偵術/夢野久作』です。
文字数5500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約13分。
三人の妻の浮気対処術。智謀、恐怖、DV。
三者三様の浮気対処術がおもしろい。
ニュースで政治家や芸能人の浮気報道の多い昨今だからこそ
より楽しく読める小説です。奥様におすすめ。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
1
あるところに一人のオクサマがいた。夫の帰りが遅い、服に知らない香り、長い髪の毛が――オクサマは、夫が帰ってくるたびに浮気のニオイを嗅ぎつけては食ってかかっていた。
オクサマはあるとき友達の未亡人にこの悩みを打ち明けた。すると未亡人はこんなことを言った。
「ご主人は本当は浮気をしているわけじゃないのに、わざとそんなことをしてあなたをからかって遊んでいるのよ」
自分が遊ばれていることを知ったオクサマは激怒した。
すぐに離婚した。
すると夫は未亡人と再婚した。
すべては未亡人の策略だった。
2
あるところに一人のマダムがいた。やはりマダムの夫も浮気をしていた。しかしマダムはそのことで騒ぎ立てたりはしなかった。
会社に電話をかけてもプライバシー保護のために夫の出張予定を教えてくれるはずもなく、お抱えの運転手も守秘義務のために口を割るはずもなく――現代が浮気のしやすい社会であることを、マダムは新聞や雑誌を読んで充分に理解していた。
だからマダムは夫を愛することをやめた。夫に対して何の感情をも抱かないように訓練した。一度は愛した者に対し、それをなすには不断の努力が必要だったが、マダムはついにそれをなした。
夫はどんなことがあってもいつもニコニコしているマダムに不気味なものを感じていた。しかし後ろめたいことがあるので何も言うことができなかった。夫の挙動はますます不振になり、そんなことに疲れ果てた夫はついに浮気をやめてしまった。
が、それから二、三年経つと、夫は神経衰弱でこの世を去った。たくさんの財産を受け継いだマダムはあるときふとこんなことを思った。
「夫が亡くなったのは私のせいだったのかしら? 男って、よそへ泊まらせてあげないとダメなのかもしれないわね」
3
あるところに一人のフラウ(ドイツ語で妻の意)がいた。フラウの夫もやはり浮気者だった。ある日フラウは夫の浮気について、泣いて喚いて、声も出なくなるまで訴え続けた。
夫に「それだけか」と聞かれて、フラウは口の中で「はい」と答えた。すると夫は勢いよくフラウの頬をスパンとハタいた。そしてそのまま、またどこかへ泊まりに出かけた。
……なんて男らしいの。フラウは夫に惚れ直し、以来文句ひとつ言わず、身も心も夫に捧げるようになった。
狐人的読書感想
政治家や芸能人の浮気報道の多い昨今ですが、だからでしょうか、とてもおもしろく読めました。すごくおもしろかったです。
この『奥様探偵術』という短編小説は、さらに三編に分かれていて、オクサマ・マダム・フラウの、三人の妻のそれぞれの夫の浮気に対する対処術が描かれているのですが、どれも興味深く読むことができます。
夢野久作さんの昔の小説ではありますが、現代にも通じるところが感じられるあたり、夫の浮気やそれに対する妻の気持ちというものは、昔もいまも大して変わっていないのではなかろうか、などと実感できる作品です。
1のオクサマの場合、感情的になりすぎて、結局相談した友達にだまされてしまい、夫を寝取られてしまうという、なんだかドロドロなドラマみたいなオチでしたが、これはちょっとオクサマがかわいそすぎますよね。
探偵が犯人に憎しみや同情を感じてしまうと判断を間違える原因となってしまう、といった例が作中で挙げられているのですが、まさに感情的になってしまうと人は自分の周りや本質的な何かを見落としてしまう、というのはひとつの教訓として読んでもいいように思います。
男女関係では愛するがゆえに周りが見えなくなってしまうんですよねえ、などと知ったふうなことを言ってみたり。
そんなオクサマとは対照的に、2のマダムは浮気への対処策として夫への愛を一切捨て去ってしまう、そのための訓練をするという思い切った対策を実行します。
これは口で言うほど簡単なことではないのでしょうが、できたとしたらたしかにこれほど有効な対処はないでしょうね。
夫を一人の男性として愛するからこそ、そこに嫉妬という感情が生まれるわけで、それがなければ子供の世話でもするように、あるいは仕事と割り切って世話するように、夫の世話をかいがいしく焼くことが可能になります。
しかも夫は後ろめたい感情ゆえに、勝手にそんな妻の態度におそれを感じて、結局浮気もしなくなった、というところにもちゃんと効果が示されています。
だけど神経衰弱で寿命を縮めてしまった点については、マダムの復讐がなったのだ、と一概に喜ぶことはできそうにありませんよね。
しかもマダムはもう夫に何の感情も感じなくなっているので、そのことを冷静に分析した最後の言葉もゾッとするような恐怖を感じられる部分でした。
ここは怪奇小説で有名な夢野久作さんらしさの出ているオチでしたね。
3のフラウの場合はオチで思わず笑ってしまいました。てか、フラウってドイツ語で「妻」という意味なんですね、知りませんでした。
夫の横暴に男らしさを感じて惚れ直してしまった、というのは「そんなわけあるか!」と思わずツッコミを入れてしまいそうになりましたが、これもどことなく現代を思わされるお話ですよね。
現代のDVを思わされる話です。
「夫のDVから逃げられない」みたいな話を聞くことがありますが、その理由には以下のようなものがあるそうです。
・「家族を成立させよう」と我慢する責任感の強さ
・「いつかわかってくれる」という性善説と楽観論
・「DVなんて恥ずかしくて言えない」という羞恥
・「生活できなくなる」という不安感や依存
・「結婚なんてこんなものよ」という諦めの心
・「逃げたらもっとひどいことされる」という恐怖
・「暴力はじつは愛情なんだ」という思い込み・錯誤
「……ホントウニ男らしい……」と言ったあとの「フラウの眼に、涙が一パイに浮き上りました」というラストの一文は、どこか夫から離れられない依存の強い妻の姿を彷彿とさせられてしまうんですよねえ……。
もちろん純粋に夫の男らしさに惚れ直した、という見方もできるのでしょうが……、人は心の持ちようしだいで幸せにも不幸にもなれるとはよくいわれることですからね。男女関係においても、そのことを表しているお話なのかもしれません。
まあ、三人共にいえるのは、「夫の浮気には感情的にならず、冷静に対処しなければならない」といったことでしょうか。
離婚や慰謝料のことを考えるなら、まずは確たる証拠を集めることが重要だという対処術をワイドショーなどで聞いたことがあります。
――とかなんとか、そんな感じでいろいろなことを思わされてとてもおもしろい小説でした。
読書感想まとめ
オクサマ、マダム、フラウの方におすすめ!
狐人的読書メモ
浮気しやすい現代社会、浮気を増長しているのは現代社会、というところにやはりまさに現代らしさを感じた。考えたことのない発想だったので新鮮に感じた。たしかに浮気は社会が生んでいる側面もあるのかもしれない。
・『奥様探偵術/夢野久作』の概要
1930年(昭和5年)『婦人サロン』にて初出。三人の妻の浮気対処術。浮気報道の多いいまだからこそおもしろく読めた短編小説。
以上、『奥様探偵術/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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