白/芥川龍之介=自分の命を優先し友達を見捨てて逃げることは、悪か?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

白-芥川龍之介-イメージ

今回は『白/芥川龍之介』です。

文字数9000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約22分。

闇落ちした白が孤高のダークヒーローとして人々を救う!

面・白、感動。

善悪は自分で決めるもの。
その責任は誰も取ってくれない。
だから軽々に他人を非難したり称賛したりすべきじゃない。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

白という名の白い犬がいた。

ある春の昼過ぎに、白が静かな往来を歩いていると、道の向こうに隣の飼い犬で友だちの黒を見つけた。そして黒の背後には、いままさに黒を捕らえようとする犬の処分業者の姿があった。黒を助けようとすれば自分も捕まってしまう――白は黒を見捨ててその場から逃げ去った。

白はほうほうの体で主人の家へと逃げ帰った。庭では白の小さい主人たちがボール遊びをしていた。安心した白が、嬉しそうに小さい主人たちのほうへ近寄っていくと、白を見る二人の様子はどこかおかしい。

こんな黒い犬は知らない――それを聞いて驚いた白は、興奮して吠え、跳ねまわった。小さい姉弟は黒い、見知らぬ犬を狂犬だと思った。弟は、白を目がけてバットを振り、石を投げた。白は家を逃げ出すしかなかった。

宿なし犬となった白は、東京中をうろうろと歩いた。理髪店の鏡、往来の水たまり、カフェのグラス――白は黒くて醜い、自分の姿を映すものを恐れるように、ある公園へとやってきた。

ふと、道の曲がり角から、子犬の鳴く声が聞こえてくる――白は反射的に逃げそうになった。しかし、それをグッと堪えて騒ぎのほうへと駆けつけた。

すると、一匹の茶色い子犬が、人間の子供たちにいじめられていた。白は果敢に、人間の子供たちに立ち向かった。人間の子供たちは逃げていった。

子犬はカフェの飼い犬で、お礼がしたいから一晩泊まっていってほしいと申し出たが、白はそれを断り、去っていった。

その後の白は?

全国新聞各紙が、毎月のようにある黒犬の活躍を伝えていた。

電車にひかれそうになった幼児を、黒犬が助けた。軽井沢で、避暑中のアメリカ人富豪の猫が、大蛇に呑まれそうになったのを、黒犬が助けた。日本アルプスで遭難した三名の学生を、黒犬が助けた。名古屋の火災現場で、逃げ遅れた市長の息子を、黒犬が助けた。宮城の動物園から脱走した狼を、黒犬が倒した――

ある秋の真夜中、身も心もボロボロになった白が、主人の家に帰ってきた。かつての自分の犬小屋の前に、疲れた体を休ませた白は、月に向かって独り言を漏らした。

わたしは黒君を見捨てました。わたしが黒くなったのもきっとそのせいでしょう。わたしはわたしの臆病を恥じ、あらゆる危険と戦ってきました。しかしいつしか、わたしはわたしの黒さがいやになり、命を捨てるため、より危険なところへ飛び込むようになったのです。ですが、不思議なもので、わたしはまだ生きています。ご主人たちは、またわたしを野良犬だと思うでしょう。わたしを打ちのめすことでしょう。かまいません。わたしはわたしをかわいがってくれた、ご主人たちの顔を最後に一目だけでも見てから逝きたい。どうかご主人たちに会わせてください。

翌朝、いなくなった白が犬小屋の前に寝ているのを見つけて、小さい姉弟は驚き、そして喜んだ。白を抱きしめ泣いている姉の瞳には、白い犬が一匹、たしかに映って見えた。白は涙を流した。

狐人的読書感想

白-芥川龍之介-狐人的読書感想-イメージ

前回、芥川龍之介さんの読書感想ブログも『あばばばば』という気になるタイトルでしたが、今回の『白』とは犬の名前でしたか。

闇落ちした白が孤高の(体の色的に)ダークヒーローとして活躍する姿には熱いものがあっておもしろかったです。

最後も感動的でしたね。

ところでひとつおもしろい話があって、じつは芥川龍之介さんは大の犬嫌いだったそうです(有名な話?)。

しかし晩年は、なぜか犬をまったく怖がらなくなったのだとか。この『白』が書かれたのもちょうどその時期と重なるというのは興味深いですね。

自暴自棄になると自分の命さえどうでもよくなってしまい、怖いものなんて何もなくなってしまうのだというところは、どこか著者と作品の主人公である白と、通じているところなのかもしれません。

どうしても白の在り方を、晩年の芥川龍之介さんと重ねて見てしまいますよねえ……。

白の示した一連の行動、これを自己犠牲の精神といえば、すごく尊いもののように感じられてしまいますが、どこか不自然な感情というか、なんだかうさんくさいような気がしてしまうのは、ひねくれものの僕だけ?

その根底にあるものを分析してみると、

・人を犠牲にすると後味が悪い
・人から感謝されるのは気持ちがいい
・ただ「いやだ」と言えない
・人の痛みが分かるから
・人に任せられないタイプ

――といった感じでしょうか?

人の美しい心にも、何かしら利己的な理由を見出せると、ホッとできてしまう僕は、あるいは心が黒いのかも、とか思ってしまいますがはたして(いや、黒い)。

白の自己犠牲の精神は「罪悪感」からくるものでした。これも自己犠牲の根拠としては非常にわかりやすいものですよね。

友達の黒を見捨てて逃げてしまった白は、たしかに傍から見れば非難されて然るべきなのでしょうが、しかし他人が「それは悪いことだ」と言っていいことではないようにも感じてしまいます。

白はたしかに友達を見捨てるという、傍から見れば悪い行いをしたのかもしれませんが、他人の命よりも自分の命を優先することを、悪いことだとは一概にはいえないように思うからです。

自分の命を犠牲にしてでも、友達を助ける行動ができると、あなたは自信を持って言えるでしょうか?

とはいえ、その後の白は、友達を見捨てたことを苦にして、罪悪感として抱え込み、自分の身を顧みずに人々を助けてまわるようになりました。

これは傍から見れば、間違いなく善いことだと、称賛されて然るべきなのでしょうが、しかしこれについても、他人が「それは善いことだ」と言うべきことではないのかなあ、というふうに感じました。

たしかに白の人助けは善いことなのですが、それで白自身が命を落としたときに、それを含めて善いことだとはいえないような気がしたからです。

結局のところ、「善悪」というのは教えられるものではなくて、自分で感じるものなのかなあ、というのが今回の読書感想の結論となります。

なんとなく、家庭とか学校とかで誰かに教えられた道徳は、そのまま鵜呑みにしてしまいがちなように思うのですが、教えてもらった上で、そのことが本当に正しいのか否かは自分で判断しなければいけない、というところに数学などとは違う難しさがありますよね。

テレビなどを見ていると、ときにそのものごとを称賛したくなったり、非難したくなったりすることがありますが、それは本来当事者たちのみに許された権利なのかなあ、という思いがします。

しかしながら、称賛しなければ善い行いは広まらず、非難しなければ悪い行いは改まらず、という側面はありますよね。

かといって、その「善悪」でさえ、一般大衆の判断でしかなく――どんなに善いことに見えても、どんなに悪いことに見えても、周りに流されるまま軽々にそのものごとに口出ししてはいけないのかもしれません。

つまりは、自分でよく考えた上で、称賛したり非難したりしなければならず、その発言の責任は自分で取るつもりで、何事においてもものを言わねばならない、ということなのでしょう。

それを難しく感じてしまう僕などは、できるだけ余計なことを言わないように努めるべきなのかもしれませんが、しかし言いたくなってしまうことが世の中には多いのです。

その後の自己犠牲的な行動はどうあれ、白が友だちの黒を見捨てたことで抱いた罪悪感というものは、善いものか悪いものかはともあれ、僕は見習うべき姿勢のように感じました。

僕が白と同じ立場に立たされたとき、友達を見捨てたことを恥じたり悔いたりできる自分でありたいと願いますし、何よりも友達を見捨てない自分でありたいと思いました。

白と同じように臆病な僕には、とても難しく感じてしまいますが、自分の命を優先して友達を見捨てることが悪だとは一概にはいえませんが、そう思える自分でありたいし、そう思える友達がいてくれることを願いました。

読書感想まとめ

白-芥川龍之介-読書感想まとめ-イメージ

「善悪」は人に教えられるのではなく自分で決めなければなりません。だからまわりの意見に流されるままに、軽々に人を称賛したり非難すべきではないのかもしれません。

友達を見捨てない自分でありたいし、友達を見捨てたことを恥じて悔いる自分でありたいし、そう思わせてくれる友達がいてほしいです。

狐人的読書メモ

なんとなく『るろうに剣心』を彷彿とさせられた。自己を犠牲にする人助けは客観的には善いことだが、それで過去の罪を許すかどうかは当事者にしか決められない。罪を罪だと思うのもまた、本来は当事者にしか決められないことだろう。いろいろの世間のものごとについても、他人がとやかく口出しすべきではないのだと思った。

・『白/芥川龍之介』の概要

1923年(大正12年)8月、『女性改造』にて初出。児童向けの小説とされているが、大人が読んでも思うところは多いだろう。

以上、『白/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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