狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『ブレーメンの音楽隊/グリム童話』です。
文字数5000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約15分。
いつかは夢と現実に折り合いをつけなければなりません。
老後、子どもに迷惑はかけられません。
ひとの恐怖心が魔物を生み出します。
人生を考えさせられるグリム童話です。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
人間はエゴイスティックな生き物である。
働き者のロバは、年をとって身体の自由が効かなくなると、自分を捨てようとする主人の考えを敏感に感じとって戦慄した。このままここにいてもろくなことはない。ロバは早速逃げ出した。
声には自信があった。きっと町へ行けば、音楽隊に雇ってもらえるだろう――ロバはブレーメンの町へと向かう。その道中、犬、猫、鶏に出会う。それぞれの事情はあれど、みな同じ境遇にある仲間だった。彼らはすぐに打ち解けて、一路ブレーメンの町を目指す。
日が暮れて、森の中で一晩を明かすことにした仲間たちは、そこに一軒の家を見つける。それは泥棒たちの隠れ家だった。四人組の仲間は相談を始めた。この家を自分たちのねぐらにしよう。
すると、ロバの背中に犬が、犬の背中に猫が、猫の背中に鶏がとびのって、ひひん、わんわん、にゃおん、こけこっこー――それぞれいっせいに音楽をやりだした。
驚天動地の泥棒たちは慌てて逃げ出した。仲間たちはテーブルのごちそうをたらふく食べると、めいめいねどこを見つけては、明かりを消して眠りについた。
様子を見に戻ってきた泥棒たち。うちの中は暗く、ひっそりと静まり返っている。お頭の命令で、ひとりの手下が家の中に入る。まずは台所へ。暗闇で猫の光る目を炭火と間違えた手下は、明かりを求めてそこにマッチをつっこんでしまう。
猫はいきり立ち、手下の顔をひっかいた。裏の戸口から逃げようとする手下の向う脛に、つぎは犬が噛みついた。這う這うの体で庭を駆け抜けようとすると、今度はロバの後ろ足が飛んできた。この騒ぎで目を覚ました鶏は、キケリッキーと梁の上から怒鳴った。
「親分たいへんだ。あの家にはすごい魔物が入り込んでる。長い指で顔をひっかかれ、戸口で待ち伏せた男に脛を小刀でつきさされ、庭の化物にはこん棒で殴られ、その上、高いところには裁判官が控えています」
――泥棒たちはもう二度とこの家に入ろうとはしなかった。ブレーメンの音楽隊はこの家を大変気に入り、それきりもうよそへ行こうとはしなかった。
狐人的読書感想
ブレーメンの音楽隊、森の中に居心地のよい家を見つけて、結局ブレーメンには行かなかったのですね(笑)。『ブレーメンの音楽隊』というタイトルと、おおまかな話の流れは知っていたのですが、この驚愕の(?)事実は恥ずかしながら知りませんでした。結構有名な話なのでしょうか、このオチ、おもしろかったです。
このオチにはなかなか思わされるところがあります。
「ミュージシャンに!!! おれはなるっ!!!」――そういって田舎を飛び出し、上京してみたはいいものの、音楽活動はうまくいかず……、夢と現実の狭間で苦悩する若者、みたいな。
ブレーメンの面々は、別に夢を抱いてブレーメンの町へ行こうとしていたわけではなくて、パンのため、食い扶持を求めてそこを目指していたわけで、状況や動機がまったく違うのですが、こんなことを連想しました。
動物たちは夢を持っていませんでした。だから森の中の家というよいすみかを見つけて、おそらくは何の躊躇もなくそこに居着くことを決めましたが、こういった状況は誰にでも訪れうるものだと感じました。
つまり人間の場合、
ブレーメンの町は「夢」であり、
森の家は「現実」です。
人は霞ばかりを食べて生きていくわけにもいかず……、しかして夢を追わなければ「よりよい生」というものを実感することができず……、夢と現実(生活)が両立できるほど近ければよいのでしょうが、多くの場合それはかけ離れた場所にあって、いつかは森の家(現実の生活)を選ばなければなりません(もちろん夢を叶えて生活できるひとたちもいるでしょうが、一般的にいってこれは少数派と呼ばれるひとたちではないでしょうか?)。
そしてもしも、夢を叶えることが叶わないのならば、やはり「森の家」を選ぶのに早いに越したことはないでしょう。そういった意味において、『ブレーメンの音楽隊』のオチには「人生に対する現実的な教訓」が含まれているように感じました。
というか、オチの部分だけではなくて、全体的にとても現実的な物語なんですよねえ、このお話。
これは童話について全般的にいえることなのかもしれませんが、童話には現実的な寓意が含まれていることが多く、そのためなのでしょうか、僕はいつも読むたびに現実を見る思いがします。
ロバにしてみても、年とって動けなくなってきた自分を主人が捨てようとしていることに勘づくと、さっさと逃げ出すところはいかにも現実的です。この思い切りのよさと行動力、そしてリーダーシップはとても見習いたいです(まさにRPGの勇者、少年漫画の主人公といった感じ)。
長年連れ添った主人に最後まで忠義を見せてもよかったのでは……、と一瞬思わなくもありませんでしたが、まずロバを処分しようと考え出した主人のほうに非があるだろうと、すぐに考えを改めました。
たぶん主人がロバに対して、相応のやさしさを示していれば、ロバも逃げ出そうとはしなかったはずで、「他人は自分を映す鏡(人こそ人の鏡)」ということを思わされてしまいます(ただそんな主人でも忠義立てして逃げ出さないところに、人の真の美徳というものを見出せるのかなあ、とも考えますが、さすがにこれは理想論ですよね)。
ふと、「子どもに迷惑はかけられないから」といって、老後の準備をいろいろと進めている親たちのいることを思いましたが、当然自分のためでもあるのでしょうが、こういうことを考えて、計画して実行できる親の方々というのは本当に立派だなあ、と感じます。子どものほうも、そう言ってくれるからといって甘えるばかりではいけないんですよねえ、きっと。
いい親がいていい子が育ち、またいい子がいていい親が育つ――ということがいえるのでしょうが、立派な親がいい子を育てるわけではない、ということもまたいえるような気がします。
愛情が深いために子どもを甘やかしてダメにしてしまったり、社会的には立派な肩書を持つ親が家庭を蔑ろにして子どもに寂しい思いをさせていたり、このあたりはなかなか難しいことなのだろうなあ、などと漠然とした思いを抱きました(漠然とじゃなくてもっと真剣に考えろよ、という気もしましたが)。
それから動物たちの前向きな姿勢に励まされます。
ロバ、犬、猫、鶏――彼らは人間のエゴによって飼われ、使い物にならなくなるとまた人間のエゴによって処分されようとしています。しかし彼らはそのことを嘆きつつも、今日と、そして明日のパンを求めてブレーメンの町を目指すのです。生きるために、ただひたすらに生きるために。
とくに鶏の以下の台詞には感銘を受けましたので引用して残しておきます。
「なにしろ、けっこうなお聖母さまの日だ、おちいさいキリストさまの下着の、おせんたくして、ほしなすった日だ。ところが、そのあしたの日曜日に、お客があるというんで、ここのおかみさんが、なさけ知らずにもほどがあらあ、女中の話だがね、それで、あすはおいらをスープにしてたべっちまうってんでね、こん晩、さっそく、首をチョン切れといいつかったとよ。だから、せめて声のだせるうちとおもって、おいら、のどのやぶれるほどわめき立てているんだよ。」
運命に抗うかのように、自分にできることを最期まで精いっぱいやっている――とか書いてしまうとちょっと大げさかもしれませんが、世界の終わりを知ったとき、その日が来るまでは好きなことをやってやる、的な感じにも読めますかね。いずれにしても前向きな態度であることに変わりはなくて、ネガティブな僕としてはやはり感銘を受けざるを得ませんでした。
長くなってきましたが最後にもうひとつだけ、「ひとの恐怖心が魔物を生む」ということについてです。
これは手下の泥棒が、真っ暗闇の家の中で、動物たちにやられてしまい、そのことをいかにも過大に、泥棒の親分に報告していた場面からの連想ですが、真っ暗闇なだけに「闇が魔物を生む」と言い換えてみても、さらにいろんな意味が含まれているように思えて、なかなか含蓄あるシーンだと思いました。どちらも創作に活かせそうなフレーズ、という気がしてしまいました。
読書感想まとめ
夢と現実の狭間で揺れるあなたへ。
老後、子どもに迷惑はかけられないあなたへ。
心の闇に魔物を飼っているあなたへ?
狐人的読書メモ
じつはもうひとつ、とても感銘を受けたフレーズがある。
……犬もそこへ行ったら、骨の一、二本、ことによると肉の香ぐらいかげようかとおもって、さっそくさんせいしました。
一見すると卑屈なようにも思えるが、長く生きてきて老成した人(犬)の、一種悟った態度のようにも思える。期待し過ぎたときの失望は大きいが、期待さえしなければ、もたらされる結果に一喜一憂することもない――みたいな。
・『ブレーメンの音楽隊/グリム童話』の概要
KHM 27。人生を考えさせられる童話である。結局ブレーメンに着いていないブレーメンの音楽隊というオチがおもしろかった。ブレーメン旧市街の市庁舎横にブレーメンの音楽隊の銅像がある。この銅像のロバの前足を撫でながら願い事をするとその願いが叶うという。夢と現実の狭間で揺れるあなたは試してみては?
以上、『ブレーメンの音楽隊/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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コメント
七十四さん
いつも、Twitterでお世話になってます遠歩です。
ブログ読ませていただいてます。なんというか、朝に読むにはもったいないようなたくさんの含蓄ある解釈に感じました。
私は初めて七十四さんの文章を読んだ時に『言葉遊び』などと、形容したことを少し恥じました。笑
もちろん、面白さもありますが、こう言った解釈を読むと、『温故知新』という表現が良いかと(これも違ってたら申し訳ありません)思いました。
100回目といキリの良い回に、途中から参加した私がコメントをするのを少しだけ迷いましたが、コメントします!
これからもちょくちょく足を運ばせていただきます。
良い文章をありがとうございますm(_ _)m
遠歩さん、コメントありがとうございます。
ふと気がつけばよく『言葉遊び』をしているので、そこを好ましく思ってもらえてうれしかったです。『温故知新』とは、僕にはもったいないお言葉かもしれません。温故の感想が恥心の結果になっていなければよいのですが(笑)
100回目という数字にも着目していただいて本当に感謝です。気兼ねなくお声がけいただければ幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします!