北守将軍と三人兄弟の医者/宮沢賢治=医療ものとして読んでみて。

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

北守将軍と三人兄弟の医者-宮沢賢治-イメージ

今回は『北守将軍と三人兄弟の医者/宮沢賢治』です。

文字数10000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約34分。

興味深い作品です。
武侠もの、医療もの(?)の趣があります。

北守将軍尊馬油、首都辣油、酢山など名前の由来。
インフォームドコンセントとか患者第一主義だとか。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

むかし首都ラユーに三人兄弟の医者がいた。長男リンパーは人間の、次男リンプーは動物の、三男リンポーは植物の、それぞれにそれぞれの病気を診ていた。町の南の崖の突端に、三つの病院が並んで建っていた。

砂漠地帯に遠征していた北守将軍ソンバーユー。ある日彼の率いる軍隊が、30年ぶりにラユーの町に帰還した。馬に乗ったまま、町の門をくぐったバーユー将軍が王宮のほうへ進んでいくと、迎えの大臣がやってくる。

バーユー将軍は馬から降りようとしたが、30年間一度も馬から降りることがなかったために、身体と馬とが一体になっていて離れない。ひどい近眼の大臣は、バーユー将軍の謀反を疑い、その場を立ち去ってしまう。

バーユー将軍は軍師に自分の刀と弓を持たせて王宮への使いに出した。そして医者を探して馬を駆った。

バーユー将軍はまずリンパー先生のもとを訪ねた。そこで自分の身体を治療してもらった。つぎにリンブー先生のところへ。そこで馬を治してもらい、ようやく身体と馬が離れた。最後にリンポー先生。長い砂漠の生活で、顔中に生えた灰色の毛のような植物を取り除いてもらった。

こうしてバーユー将軍は王に謁見することができた。王はバーユー将軍の働きを称えて、よりいっそうの忠勤を求めた。しかしバーユー将軍は老齢を理由に郷里へ帰る許しを願った。バーユー将軍は自分の代わりとなる4人の大将の名前を告げ、リン兄弟を国の医者に推薦した。王はこれを承諾した。

生まれ故郷のス山のふもとへ帰ってきたバーユー将軍は、だんだんとものを食べなくなっていった。それからどこにも形が見えなくなった。人々は「将軍様は仙人になられた」という。しかしリンパー先生はこういう。

「どうして、バーユー将軍が、雲だけ食ったはずはない。おれはバーユー将軍の、からだをよくみて知っている。肺と胃のは同じでない。きっとどこかの林の中に、お骨があるにちがいない」

狐人的読書感想

北守将軍と三人兄弟の医者-宮沢賢治-狐人的読書感想-イメージ

興味深い作品でした。武侠ものといった趣があります。散文形式の文体はとてもリズムがよくてすらすら読めます。宮沢賢治さんの数少ない生前発表作と聞きましたが、10年の間に4度の改稿を経て完成した作品だそうで、著者の思い入れの強さがうかがえるエピソードです(しかしそのわりにあまり知られていない作品のようにも思います。僕が無知なだけ?)。

武侠ものといいましたが、『北守将軍と三人兄弟の医者』では『三国志』などから連想される中国的な雰囲気が味わえます。「北守将軍」という称号からだけでも、モンゴルのゴビ砂漠における北方守備の戦いの歴史を彷彿とさせられてしまいます。「ソンバーユー」は「尊馬油」とか書くとより中国っぽいですよね(『キングダム』好きのひととか読まないかなあ?)。

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ちなみに「馬の油」は傷によく効く薬として、古来中国では珍重されてきました。これは日本にも伝わっていて、ボディクリームとしていまでも売られている商品があります。

(Amazonで見つけた「ソンバーユ」。てかボディクリーム部門のベストセラー1位って……、有名な商品なのでしょうか? 知りませんでした)

しかしそうなってくると、「首都ラユー」は「辣油(ラー油)」、将軍の生まれ故郷の「ス山」は「酢山」なのでしょうか?(首都ラユーについては「洛陽らくよう」――「lou yang」⇒「ラユー」という発音――からという説が説得力があるように思いました)。なんだか『ドラゴンボール』のネーミングセンスを思わされてしまうのですが(フライパン山とかね)。

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実際、宮沢賢治さんは中国作品に並々ならぬ関心を持っていたらしく、とくに『西遊記』は幼少時代からの愛読書だったのだとか。じつは『北守将軍と三人兄弟の医者』にも『西遊記』をモチーフとしたと思われる箇所があって、バーユー将軍の顔に生えた植物(灰色の毛)は、玄奘三蔵法師と孫悟空がはじめて出会ったとき(原典第14回)、悟空の顔に生えていた草から着想を得て書かれたのではないか、というような論があります。

それから三人兄弟の医者とバーユー将軍のキャラ設定が秀逸です。

人の医者、動物の医者、植物の医者というキャラ付けは単純だからこそ、わかりやすく、また受け入れやすく――勉強になります。

バーユー将軍の人柄については、リンプー先生の病院のけしの畑を踏みつけにしたり、尊大な態度をとったりしていて、良い悪いを一概にはいえないところもありますが、出兵時に10万人いた兵士のうち9万人を、30年の出兵を経て無事連れ帰ってきたりもしているので、気難しくも兵士たちの人望篤い、豪放磊落な老将軍をイメージさせるところがあります。これは魅力的な将軍像だと思いました。

医療ものとまではいえないにしても、これを読んでひとつ思わされたことがあります。それは人間の医者であるリンパー先生のところをバーユー将軍が訪ねたときのことなのですが。

このとき、バーユー将軍は患者の順番を守らず我先に診てもらおうとするのですが、リンパー先生はこれを無視していま診ている患者さんに集中しています。いま目の前にいる患者さんに全力をそそぐという、この姿がどこか立派なもののように僕には思えました。

まあ、そのあとすぐにバーユー将軍を診てあげているので、結果的には将軍のルール違反を許していることにはなりますが、きっとこれ以上騒がれないように臨機応変な対応をしたのでしょう(決して権力や暴力に屈したわけではないのだと信じたい……)。

とはいえこのあたりはインフォームドコンセントとか患者第一主義だとか、現実のお医者さんも大変なところなのかもしれません。

いずれにせよ医者と患者が互いに尊重し合ってこそ、いい治療ができるように思います。

謙虚な気持ちが大事というか。

お医者さんからしたらせっかく治そうとしているのに患者さんが横柄な態度だったらイヤだろうし、患者さんとしてはこっちはお金を払ったお客さんだ、という意識がどこかしらあるように思います。

もし大病を患ったとき、双方が謙虚な気持ちで協力して、病気と闘っていけるような、医者と患者の共闘病の関係づくりが大切なんじゃないかなあ、とか考えてみたりしました。

大病は患いたくないけれど、この気持ちをそのときまで覚えていられたらよいのですが……。

それと、リンパー先生の診察時の会話がユーモラスでおもしろいです。ここはぜひに読んでいただきたい見どころのひとつですね(以下に一部引用しておきます)。

「それではお尋ねいたします。百と百とを加えると答はいくらになりますか」
「百八十ぢゃ」
「それでは二百と二百では」
「さよう、三百六十だろう」
「そんならも一つうかがいますが、十の二倍は何ほどですか」
「それはもちろん十八ぢゃ」
「なるほど、すっかりわかりました。あなたは今でもまだ少し、砂漠さばくのためにつかれています。つまり十パーセントです。それではなおしてあげましょう」

つまり10パーセントですね。お気に入りフレーズです。

最後の引用部分についてはちょっと解説を残しておきます。「バーユー将軍は仙人ではなく人間である」ということを将軍を実際に診たリンパー先生がいっています。

将軍は雲だけ食べて生きてたわけではない。肺と胃は同じ器官ではないから(霞、空気的な意味合いの)雲を肺に取り込んでも栄養にはならない。だから将軍は……、いわずもがな。

大軍の将という重責から解放されて、一気に老け込んでしまい、そのまま……、とか考えるとやはり寂しい気持ちがしてしまいますが、ただひねくれものの僕としては「これってなんらかの理由あっての謀殺じゃないよね?」とかいうことも考えてしまうのですが、宮廷闘争とか怨恨だとか、いろいろと想像の余地がある作品のように感じます。

そこらへん、想像を膨らませて楽しんでみても、あるいはおもしろい作品かもしれません。

読書感想まとめ

武侠もの、中国的な童話(『西遊記』好きにおすすめ)。

医療もの(と読むのは僕だけかもしれませんが、お医者さん、医学生さんにおすすめ?)。

狐人的読書メモ

北守将軍と三人兄弟の医者-宮沢賢治-狐人的読書メモ-イメージ

「向ふの狐はいかんのぢや。十万近い軍勢を、ただ一ぺんに欺すんぢや。夜に沢山火をともしたり、昼間いきなり砂漠さばくの上に、大きな海をこしらへて、城や何かも出したりする。全くたちが悪いんぢや。」

――砂漠の狐はたちが悪い……、そんなことはない……、と信じたい(とはいえ『砂漠の狐』はなんかいい。デザート・フォックス。エルヴィン・ロンメル。人類最悪の遊び人)。あと人馬一体という言葉を思い出した(そこからのケンタウロス)。

・『北守将軍と三人兄弟の医者/宮沢賢治』の概要

1931年(昭和6年)『児童文学 第一冊』にて初出。が、10年で4度の改稿がなされている。宮沢賢治の生前発表作。

(改稿の履歴は以下のとおり)

『三人兄弟の医者とプランペラカラン将軍』
(大正十一年頃成立、散文形)
 ↓
『三人兄弟の医者と北守将軍』
(大正十二年頃成立、散文形)
 ↓
『三人兄弟の医者と北守将軍』
(成立年不明、韻文形)
 ↓
『北守将軍と三人兄弟の医者』
(『児童文学』の発表形、散文形)

(また変更点は以下のとおり)

  • 首都名「グリッシャム → ラユー」
  • 三人兄弟の医者に名前があてられる。
  • 将軍の偶像化(仙人になる)の件が追加される。

以上、『北守将軍と三人兄弟の医者/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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