狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『雨ふり坊主/夢野久作』です。
夢野久作さんの『雨ふり坊主』は文字数1800字ほど。
狐人的読書時間は約4分。
旱魃に苦しむ村。
天下に満ちる怨嗟の声。
幼きのちの天才呪術師初めての呪術。
それが彼の運命を決めるとは。
いまだそれを知る者はない。
(注.これは『曇天の呪術師』のプロローグではない!)
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
日照りが続いた。
池は干上がり田は枯れた。
百姓たちの怨嗟の声が天下に満ちた。
百姓の子太郎には本人さえも自覚しない呪術の才があった。
村の惨状を見かねた太郎は『雨ふり坊主』なる呪具を作製する。
もしも降らせぬそのときは
嘘つきぼうずと名を書いて
猫のオモチャにしてしまう
その夜稲妻を伴う大雨が降った。
翌日の朝、百姓たちは無邪気にこれを喜んだ。
ある伝承によれば、これがのち
『曇天の呪術師』
と呼ばれる阿部太郎最初の呪術とされている。
呪法のしきたりによれば、術の成就してのち、
使用した呪具には酒をふりかけ、
その穢れを清めねばならない。
それを怠れば、呪の力はいずれ必ず術者に返る。
いまだ呪術の何たるかを知らぬ太郎も、
本能的にそのことを理解していた。
裏木戸の萩の木へ、
太郎と太郎の父が酒を持って向かうと、
吊るしたはずの雨ふり坊主は消えていた。
太郎は泣いた。
その姿、
己が運命の行く末を嘆くが如くだったと云う。
歳月を経て、
呪力を増幅したこのときの雨ふり坊主が、
のち曇天の呪術師最大の敵として現れることを、
このとき彼は予感していたのだろうか?
いまだそれを知る者はない。
狐人的読書感想
(注.そのような物語ではありません)
なぜこんな嘘あらすじを書いてしまったのか……、何らかの呪力が働いて、魔が差した結果だとしか考えられない(ひどい言い訳だ)。
ま、まあ書いてしまったものはしょうがない(書き直す気なし)。「狐人的」読書感想(狐は人を化かす)ということでご容赦ください。
呪術は出ません、父子のハートフルストーリーです。
ホントの『雨ふり坊主』は心温まるようなハートフルストーリーです(ちなみに「ハートフル」には英語で「苦痛を与える」「有害な」といった意味がありますが、ここでは素直に和製英語の意味「心温まる」でご理解ください)。
お天気続きで困っているお父さんのために、太郎くんが雨ふり坊主を作り、「雨を降らせてくれたらお酒をかけてあげる」と約束すると、その晩本当に雨が降るのですが、翌日太郎くんが約束をはたすため、萩の木のところへ行ってみると、雨ふり坊主は雨に流され消えていて、お父さんが素敵な言葉で太郎くんを慰める、といったお話です。
太郎くんの子供らしい純真さとお父さんの素敵な慰めの言葉が光る作品だと思いました。太郎くんすごくいい子だし、すごくいいお父さんだし、すごくいい親子だなあ、といった感じです。
「おおかた恋の川へ流れて行ったのだろう。雨ふり坊主は自分で雨をふらして、自分で流れて行ったのだから、お前が嘘をついたと思いはしない。お父さんが川へお酒を流してやるから、そうしたらどこかで喜んで飲むだろう。泣くな泣くな。お前には別にごほうびを買ってやる……」
「恋の川」って。子供に言うには詩的な表現にも思いましたが、なんだか素敵な表現だと思いました。「恋の川」って。
『恋の川』
調べてみると、山形の地酒(日本酒)に『恋の川』というのがありました。酒という点で作品とつながりがあり、ちょっと驚きましたが。
あとは歌謡曲のタイトルとか……、同じようなことが気になる方はやはりいるらしく、ちょっと興味を引かれたのは、「恋の川」のモチーフは日本神話(『古事記』)の「逢初川」ではなかろうか、というものです。
『古事記』では、ニニギノミコトが水汲みにきたコノハナノサクヤヒメと初めて出会い、見初めた場所とされています。
実際の「逢初川」は、宮崎県西都市にあるそうなのですが、いまや直径1mほどの水溜まりのようなものでしかなく、「川」といった感じのものではないみたいですね。
ともあれ、お父さんの(夢野久作さんの、ひいては文豪の)ロマンチスト性みたいなものを感じられた部分でした。
(▼文豪のロマンチスト性を感じた読書感想はこちら)
呪術は出ませんが、呪具『雨ふり坊主』の製作方法。
さて、呪具『雨ふり坊主』の作り方ですが(結局ひっぱる奴)。
テルテル坊主テル坊主
天気にするのが上手なら
雨ふらすのも上手だろ田圃がみんな乾上って
稲がすっかり枯れてゆく
雨をふらしてくれないか僕の父さん母さんも
ほかの百姓さんたちも
どんなに喜ぶことだろうもしも降らせぬそのときは
嘘つきぼうずと名を書いて
猫のオモチャにしてしまうそれがいやなら明日から
ドッサリ雨をふらせろよ
褒美にお酒をかけてやる雨ふり坊主フリ坊主
田圃もお池も一パイに
ドッサリ雨をふらせろよ
上記引用の詩を半紙に書いて丸め、それを頭にし作成された「てるてる坊主」がすなわち呪力を帯びた(まだひっばる奴)『雨ふり坊主』となります。
「嘘つきぼうずと名を書いて猫のオモチャにしてしまう」のは、呪術の名に恥じない(まだまだひっぱる奴)ちょっと残酷なことのようにも思えますが。
「てるてる坊主」の風習は、平安時代に中国から伝わったものなのだそうです。
元々は、中国の『晴娘』という伝説が起源らしく、これを簡単にいってしまえば「人身御供」の物語です。
いたいけな少女を生贄にして……、と想像すると、ちょっと怖いような気がしてきますが、上記引用の雨ふり坊主の詩の原型であろう有名な童謡『てるてる坊主』の歌詞も、この『晴娘』の伝説を思わせる、ちょっと怖いものになっています。
童謡『てるてる坊主』
1番
てるてる坊主てる坊主
あした天気にしておくれ
いつかの夢の空のよに
晴れたら金の鈴あげよ2番
てるてる坊主てる坊主
あした天気にしておくれ
私の願いを聞いたなら
あまいお酒をたんと飲ましょ3番
てるてる坊主てる坊主
あした天気にしておくれ
それでも曇って泣いたなら
そなたの首をチョンと切るぞ
「そなたの首をチョンと切るぞ」って……(いわずもがな)。
ちなみに童謡『てるてる坊主』には「削除された幻の1番」とかいわれる歌詞があります。
削除された幻の1番
てるてる坊主てる坊主
あした天気にしておくれ
もしも曇って泣いてたら
空をながめてみんな泣こう
――経緯を知ってしまうと、なんだか意味深な感じもしますが、3番ほど残酷な感じもせず、なんで削除されちゃったんでしょうね?
狐人的に「てるてる坊主」といえば、『みなみけ』の「てるてる千秋」を彷彿とさせられてしまいますが。
雨雲さんのご機嫌とりの結果いかんによって、雨が降ったり止んだりするところはおかしかったですね。
彷彿とさせられてしまうといえばもう一つ、「漫画」と「天気」つながりで『ワンピース』の「ダンスパウダー」ですね。
ダンスパウダーはアラバスタ編に出てきた人工的に雨を降らせる粉でした。
知っている方も多いかもしれませんが、このモチーフは現実世界にも存在する「ヨウ化銀」だといわれていますね。「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というクラークの三法則の一つを思わされて興味深いお話でしたが。
十分に発達した科学技術は、呪術とも見分けがつかない!
ということで、結局最後まで呪術をひっぱる奴な読書感想でした。
読書感想まとめ
『曇天の呪術師』のプロローグではありません。
狐人的読書メモ
今回は夢野流容赦ないオチがなくてほっこり。
・『雨ふり坊主/夢野久作』の概要
1925年(大正14年)9月『九州日報』にて初出。「九州日報シリーズ」。「香倶土三鳥」名義で発表された作品。『曇天の呪術師』阿部太郎の物語ではない。
以上、『雨ふり坊主/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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